ベッドに並んで寝ておやすみのキスをする。
 おやすみのキスにしては濃厚になっていく気配に、耳元をくすぐろうとする洋也の手を捕らえて繋ぎ合わせた。
「秋良?」
 繋がれた手を見つめて、洋也は不思議そうに愛しい恋人を見た。
「右手も」
 秋良が左手を出してきたので、洋也は言われたままに右手を差し出した。そのまま向かい合わせで両手を繋ぐ。
「おやすみ」
 秋良が悪戯っぽく笑う。
 その気にさせようと狙っていた洋也は、思わぬ反撃に苦笑する。
 繋いだ手を引き寄せ、秋良の甲にキスをする。
「このまま寝るの?」
 キスを落としたところから指先へとゆるりと舌を這わせる。
「……うん。離しちゃ駄目だよ」
 秋良は熱を誘う唇から手を引き戻そうとするが、自分から言い出した手前、振り解くことはできない。
「離さないよ。秋良が手を離してって言うか、僕の手で何かをして欲しいって言うまではね」
 洋也は瞳を光らせて、指を絡ませしっかり手を握り合う。
「い、言わない……からなっ」
 せめてもの強がりで二人の間に繋いだ手で壁を作ろうとしたが、指の間を舐められると思わず離してしまいそうになる。
「手を離す?」
 意地悪く聞かれ、秋良は首を横に振る。
 くすっと忍び笑う余裕のある洋也が恨めしい。
 手の甲から手首の内側へキスを移される。キスは熱い吐息を残しながら、ひじの内側、半袖の袖の中の届く範囲へと滑り込んでくる。
 キスを移されていくに従い、腕が伸びていく。そのまま仰向けに態勢を変えられてしまう。当然洋也が覆い被さってくる。
 それでもまだ秋良は、手を離さずに何が出来るわけもないと思っていた。だって二人ともパジャマをしっかり着ているのだし、と。
 唇を重ねられる。口内へと侵入してくる舌は最初から本気だった。
 舌の表面を舐められ、歯の裏を辿っていく。押し返そうとする舌を吸われると、唇の端から混ざり合った唾液が零れていく。
 いつもならそこで与えられる愛撫の手は、自分の手としっかり繋がったままだ。
「………んっ」
 零れた唾液を洋也がキスを移しながら吸い取る。そのまま口接けは顎から喉へと移動する。
 それはキスというより、愛撫そのものだった。
 手を使えないというハンデを洋也は一向に気にする様子もなく、秋良の肌を吸い、舐め、甘く噛んで攻めたてる。
 思わず直接的な愛撫をねだりそうになり、秋良は唇を噛む。
 手を離すなと言って、その行為を阻止した自分の意地があった。それに、肌が出ている部分はそこまでだという油断もあった。
 目をきつく閉じ、快感を堪えている秋良に、洋也は更に闘志を燃やされる。
 パジャマのボタンホールの端を噛んで引っ張る。舌でボタンを押すようにすると、秋良の予想よりもあっけなくボタンが外れてしまう。
 一つ目はまぐれだと思おうとしたが、二つ、三つと外されて、秋良は焦りを感じた。
 キスだけなら堪えられるとたかを括っていた。けれど胸をはだけられ、そこへ熱い舌が這い始めると、どこまで我慢できるのか、自分に自信がなくなる。
「だめ……」
「手は使ってないよ」
 確かに洋也の両手は自分が掴んでいる。今はもう洋也に掴まれていると言ったほうが正しいような繋ぎ方ではあるが。
 白い胸に咲こうとするピンク色の蕾に、洋也は唇を寄せる。
 舌先でつつくように舐め、くるりと舐めとる。
「……ぁ…ん」
 我慢しようと決めていたはずの声が漏れてしまう。
「片方ずつしかできないのが辛いな」
 そんなことを言いながら、洋也は左右交互にキスをする。わざとちゅっちゅっと音をたてながら。
「や…め……」
 決定的ではない緩やかな快感は、昇りつめなくて、けれど感じないというほど弱くもない。
 そしてそんな意地悪な愛撫を押し返す手は洋也に拘束されてしまっている。
 今はもう秋良の手に力は入っていない。秋良の手を捕らえて離さないのは洋也なのだ。
 胸の花が赤く咲くのを見届けて、洋也は下へと唇を移していく。
 小さめで縦長の窪みに舌を入れる。臍なんて感じるとは思っていなかった秋良は、逃げようともがくが、両脇で固定された二人の手で、逃げ道を失う。
「……んぅ」
 唯一自由になる足を動かすが、それはただシーツを蹴るだけである。その摩擦さえ熱く感じられ、秋良は首を振る。
 ……欲しい。
 快感を知らないわけではない。むしろこの先の熱いうねりの激流を知っているから、身体がそれを望んで震え始める。
「……んっ、……あぁ」
 洋也がパジャマのズボンのゴムを咥えて引っ張る。けれどそれは腰でひっかかり、下へはさがらない。
「秋良、腰を浮かせて」
 秋良は嫌だ嫌だと首を振る。
 その様子に洋也はしっとり微笑む。
 パジャマを下げられない代わりに、薄い布地の上から、起ち上がり始めた秋良の愛しい徴に息を吹きかける。
「やめ……」
 布地に沿って脹らみを唇で挟む。
「いやだ……、……っ」
「手を離す?」
 秋良は唇を震わせながらも、うんとは言わず、きつく目を閉じている。
 洋也は伸び上がり、既に充分な硬度を持った自分のと秋良のとを重ね合わせる。
「愛してる、秋良……」
 囁いてキスをして……そして指の力を抜いてやる。
 秋良は自分から手を解き、洋也の首へと両腕を回した。
「…………」
 声にならない囁きが、洋也に耳に吹き込まれる。
 洋也は嬉しそうに微笑んで、キスをしながら、二人を隔てる邪魔な布を取り払っていった。