「牛の話」 

 por 斎藤 祐司

 

 牛の目はどこについているかご存知だろうか。

 競馬場などで馬を見ている方はお分かりだろうが、草食の四つ脚動物は同じ所に目がついている。顔の上、4分の1のところのほぼ側面にある。顔の正面から目を見るとほんの少ししか見えない。

 通常思いうかべる目の形は横から見た場合である。それは人間の顔でいうと、こめかみのあたりに目があることになる。

 人間の視覚は 270度であると医者は言うが、馬は 350度であると獣医は言う。

 つまり死角は、自分の尻の後ろだけだ。肉食獣に対してどうしても視覚が広くなるわけだ。

 牛は、平凡社『闘牛』によると、真正面10度と尻の後ろ10度が死角であるという。しかし、これは本当だろうか。牛は見えないところに向かって走ったり、角を振ったりするものだろうか。

 闘牛場でムレタを持った闘牛士と牛のもつれ合いを見ると、真正面が見えているとしか思えない。おそらく真正面が見えないといわれるのは、牛の角先で見栄を切る闘牛士に対して牛が静止しているからなのだろう。

 つまり、正面は目の位置から一定の距離がないと焦点が合わないのだと考えた方が正しいと思う。

 また、なぜムレタは赤いのか。牛が赤い色を見て興奮するのではない。牛は色盲だ。赤を見て興奮するのは人間の方である。 

 現在、闘牛用の牛として使われている牛は、カルタゴ時代に北アフリカ、特にエジプトからイベリア半島へ連れて来た牛と、すでに半島にいたオーロック( 西洋野牛) や原バイソンと交配され、半野性的状態で飼育された。

 現在牧場の種付けは1頭の牡に50〜60頭の牝がハーレムを作る。大きい牧場であれば7、8グループである。出産は競走馬のよに3月〜6月に限定されない。なぜなら自然にまかされているから1年中行われる。

 仔牛は離乳後に焼き印と耳が切られる。これは野性でなく人間が所有していることを表し、盗難防止ともなる。現在でも耳を切って印にしているのは、トナカイを飼っているラップ族である。焼き印は牛の右側に押される。前脚の上に、96年なら" 6" が入る。腹部には個体番号が入り、尻には牧場印が押される。

 牛は1歳から18ヶ月の間に牡(オス)牝(メス)が分けられ、2歳に試験が行われる。

 牡。テンタデーロは、牧場内で群れで暮らす牛を1頭、2頭の馬に乗った牧童が引き離し、それを追う。その速度が速ければ独立心が高く、良いとされる( 帰巣本能が少ない)。

 槍(ガロチエ)で背中を叩き追って、尻を押して倒す。倒して馬に向かって来ない牛は不合格になる。

 次にピカドールが槍を背中に刺して向かって来るか試される。つまり3度試される。中でも一番重要なのが倒して向かって来るか来ないかである。他の2つはより良い牛かどうかが見られる。

 試験は一生に一度、一瞬で試されるところに意味がある。なぜなら、競走馬のようにレースで使うごとに良くなるという、人間の調教は不必要だからだ。

 牝は種を残すにふさわしいかが試される。プラサ・デ・ティエントで槍が刺され、カポーテ、ムレタを振って闘牛場と同じ手順で行われるがバンデリジャは刺されない。

 牡の種牛は長い間観察され、プラサ・デ・ティエントで試される。体形、角の形など種として伝えたいいくつかの項目をクリアした牡牛は、槍を刺し、カポーテ、ムレタでパセをし、動き、気性といった最後の項目もクリアすれば合格。不合格の牛は殺される。

 この時、闘牛士によってパセは行われない。なぜなら闘牛士がやると悪い牛でも良く見えてしまうからだ。通常、牧童が行う。

 ところで牛はどこで立っているかご存知だろうか。脚で立っているというのは正確ではない。馬は1本の脚の一つの蹄で地面に立つ、人でいう中指1本で体を支える。通称前脚のひざ部分が人の手首に当たり、その後ろ側にカサブタ状のものが他の指の痕跡である。

 後脚は、飛節が人の踵で、その後ろ側のカサブタ状のものが他の指の痕跡である。牛は4脚の2本の指の蹄で体を支え、その後ろ側に乳首状の二つの突起が指の痕跡である。

 牧場から闘牛場への輸送で、この細く弱い脚が傷つけられることがある。車から降ろすとき脚を脱臼したり、闘牛場内の牛道で背骨を傷めたり、また片目の見えない牛もいる。

 牛にとって重要なのは、牡であること、去勢されていないこと、童貞であることだ。競走馬もまた童貞・処女のレースであるのと同じだ。

 彼らの性生活は人に管理されている。

 闘牛にとって肉体は重要なことである。牛の体。闘牛士の肉体。たとえ、それはフェテッィクに闘牛士の美形の顔であるにしてもだ。

−−−東京闘牛の会(TTT)月例会報告(第三回96年3月9日)から−−−


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