97年に観た闘牛

斎藤祐司

 97年4月から11月までスペインに行った。目的はより闘牛を理解する為だ。エル・ニーニョ・デル・ソル・ナシエンテこと、下山敦弘(闘牛士)さんの為に開かれた慈善闘牛を10月19日に観る。

 牛にやられて左半身不随。リハビリをして機能回復に努めている。スペイン人でもなく、ましてや有名闘牛士でもない下山さんの為にスペイン人闘牛士が無償で出て来て彼に牛を捧げる。

 日本人に同じ事が出来るだろうか。

 勿論彼のリハビリでのがんばりに周りが巻き込まれていったからだ。(その辺のことは去年の11月TV朝日で放送されたので知っている人も多いだろう)これも、闘牛の素晴らしさではないだろうか。今年マドリードで会う約束。

 [下山さん。やっぱりあなたの一番好きなホセリートを闘牛場で一緒に観たいなぁ」そして・・・。

 闘牛士のスタイルは3つに分かれると思う。

 1,理念先行型。(セサル・リンコン、ホセリート、ホセ・トマスなど)

 2,着手先行型。客受けに重点を置いている闘牛士(ヘスリン、コルドベス、リトリーなど)

 3,やる気先行型。技術よりも自分のやる気を全面に出す闘牛士(ビクトル・プエルトなど)

 2,には興味がない。勿論沢山ファンがいることは百も承知だ。しかし牛の誘い方、パセのやり方が全然違うのだ。1には飾らない素顔がある。観ている側にその人の人生を感じさせてくれる。2,は不健康な女の厚化粧。いくら表層を飾っても、もとの健康を取り戻すことが先だろう。まぁそれも人生といえば人生なのだが。3,は理屈でない感動がある。

 サン・イシドロでは、ホセ・トマスが勝利者に成った。この時のファエナは殆どが左手のナトゥラルだった。しかも牛の角の間に体を入れて牛を誘っていた。やるべき事を誤魔化しなく真面目に誠実にやる。それは誰でも出来る様でいてなかなか出来ない。まさに理念先行型。

 彼の成功は97年最も重要な事だ。闘牛の未来に繋がるファエナだったと言っても過言じゃない。今年5月2日から約1ヶ月間にマドリードに5回出場が決まった事でも重大さが判るだろう。

 4月26日闘牛場で待っているとセサル・リンコンが来た。5年ぶりなのに覚えていてくれて嬉しかった。5月19日闘牛服の着替えの写真を撮らせて貰う。部屋に部外者は僕だけ。一番大事なマドリードの闘牛当日なのに気軽に応じてくれた。

 23日インタビュー。自宅に招かれる。夢の様だった。10月28日再び自宅でインタビュー。

 印象に残ったのは、正しいことを真面目に続ける人には成功が待っている。無名でも努力し続ける自分を信じ愛することが大切だ、ということ。帰りにムレタとカポーテを貰う。

 闘牛100回、内セサルを半分観る事は出来なかった。

 7月13日バルセロナで強盗にあって骨折したからだ。でもその日のセサルのファエナには泣けた。97年最高のファエナ。骨を折ったけど本当に来て良かったと思った。

 アルバセーテやマドリードまで車で送ってくれたり、一緒に食事したり、沢山の事があなたと結びついて記憶されています。闘牛の事、闘牛以外の事もあなたから学ぶ事が出来ました。本当に色々ありがとう。知り合えて良かった。こんな風に長期間追っかけをするのも今度が最後だと思います。

 91年5月21日からですから、長い時間と沢山のお金が掛かりました。あなたの事を本に書きたいと思っています。いつかその本を届けたいと思います。これからもあなたの活躍と健康を遠い日本から祈っております。

 が、今年もまたサン・イシドロへ、あなたに会いに行きます。最後はカポーテに書いてくれた言葉で絞めます。    

Mi gran amigo,con un fuerte abrazo.

−−−東京闘牛の会(TTT)会報 『闘牛』より−−−


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