堪えようとしても溢れ出る涙が止まらない!感動の闘牛士セサル・リンコン耳2枚。闘牛場は物凄い感動に狂っていた。

por 斎藤祐司

2007年4月24日セビージャ、レアル・マエストランサ(第1級)闘牛場の結果。
18時半開始、記入しなかったが多分21時頃終了。19時56分照明点灯。

ノー・アイ・ビジェテで、観客は満員。

トレストレジャ牧場の牛

   全体的に、太い牛が多かった。ムレタやカポーテに着いている来るが力強さが足りない。
   1頭目は太く膝をよく着く牛。2頭目は左角が短かった。
   3頭目は右角が短い牛でブスカンドした。。4頭目はインバリド。
   5頭目は脚が弱いがやりやすい牛だった。6頭目は割と良い牛だった。

  ソブレロ:トレストレジャ牧場(4頭目)。ソソで難しい牛。

闘牛士

セサル・リンコン 沈黙、耳2枚。

エンリケ・ポンセ 沈黙、挨拶。

サルバドール・コルテス 沈黙、沈黙。

 追記:4頭目の牛でセサル・リンコンがコヒーダされた。牛の上で2回跳ね上げられて、
激しくアレナに叩き付けられた。頭から血を流し足を引きづりながらファエナを続けた。

 晴れて熱い!満員で人の熱気と日差しで蒸し暑いような陽気。トレストレジャ牧場の牛(Procedencia actual=現在の起源<基の血統>、ファン・ペドロ・ドメク牧場)。闘牛士、セサル・リンコン、エンリケ・ポンセ、サルバドール・コルテス。ノー・アイ・ビジェテで満員の入り。ソルのグラダで観戦する。

 今日は何という感動的な闘牛を観ることが出来たのだろう。ポンセやサルバドール・コルテスはどうでも良い。書かなくて良い。兎に角セサル・リンコン。物凄い感動だった。セサル・リンコン事だけを書きたい!いや書かなければならない!!!

 この日4頭目の牛は頭が高く首のこぶがまん丸だった。ベロニカを繋ぐと動きがおかしかった。パセの後、角からアレナに触れて1回転した。口笛が鳴り激しい抗議が起き牛が交換になった。替わって出てきた牛は、ベロニカを繋ぐと普通に動いた。悪くはない。メディア・ベロニカを決めると拍手が沸いた。ピカが左後ろに入ると牛がコッホになった。2回目のピカは遠くから呼んで刺したので観客が喝采を送った。バンデリージャが5本打たれた。ブリンディースは、アポデラードのルイス・マヌエル・ロサノに捧げられた。セビージャ最後の闘牛だからかも知れない。もしかしたらラス・ベンタス闘牛場でもこういうシーンが観られるのかも知れない。

 ファエナは膝を折ったデレチャソ4回から始まった。特にこれと言った癖は牛にはなさそうだった。離れアレナ中央へ。それから手の低い長いデレチャッソを4回繋ぐと「オーレ」がなりパセ・デ・ペチョで拍手がなった。離れ手の低い長いデレチャッソを4回繋ぐと「オーレ」より大きくなってパセ・デ・ペチョで喝采がなった。ここで楽団がパソドブレの演奏を始めた。手の低いナトゥラルが3回繋がると「オーレ」が続いた。闘牛場の「オーレ」の合唱をする指揮者がセサル・リンコンだった。クルサードして2回ナトゥラル、そしてパセ・デ・ペチョで喝采がなった。

 離れナトゥラル。クルサードして手の低い長いナトゥラルが2回続き3回目の時に牛にコヒーダされた。セサルの体は牛の上で2回跳ね上がられてそれからアレナに叩き付けたれた。セサルは動かない。2回跳ね上がられた時に、角が腹に入ったと思った。腹の辺りが血に染まっている。セサルにポンセやバンデリジェーロが駆け寄って抱きかかえられた。顔も血に染まっている。絶望的な気分になった。大怪我をしたんじゃないかと思ったからだ。それからセサルはアレナに立って顔を歪めている。バンデリジェーロの1人が水のボトルを持って走っていってセサルの頭にかけた。

 コンパニェーロはセサルの状態を確かめようと体を触ったりしていた。セサルは自分の意志で闘牛を続けようとアレナに立っていた。足を引きずりフラフラの状態だった。観客は立ち上がって、何度も「ノー」と叫んでいた。僕は段々胸が締め付けられるような感覚になってきた。バンデリジェーロたちに止められてタオルで頭に付いた血を拭かれていた。嫌々する子供のようにそれでも牛に向かおうとしていていた。観客は立ち上がって、何度も「ノー」と叫び続けていた。相当数に観客が腕を上げて、「ノー」と叫んでいた。セサルはムレタと剣を受け取り牛に向かおうとしていていた。ポンセだけがアレナに残りセサルのタレキージャの腰の辺りをひっぱて止めていた。

 しかし、セサルはそれを振り切って牛に向かっていった。足を引きずり、頭からアレナに叩き付けられたので額の辺りから流血していた。殆ど思考能力がない状態だろう。出来ることは、今まで体に刻んできた物を無意識で出すしかない。そういうファエナしかできないのだ。そして、こう言うときこそ人間の本質、闘牛士の本当の力量が問われるのだ。そして、向かっていく牛は、手加減をしない。相手が弱っていくからと言って可哀想にとも思わない。必死で闘牛士に向かってくる。これが闘牛である。

 フラフラの状態で手の低い長いデレチャッソが4回繋がると「オーレ」の絶叫がこだました。パセ・デ・ペチョで、牛の前に立つと「オーレ」の声が喝采にかき消された。目には球のようになった涙が溜まった。ノートを書こうにも全く見えないのだ。隣のおばあさんは、「エモショナンテ」と言って左右の指で両目の涙をぬぐっていた。僕も球のようになった涙を指でぬぐった。そして、ノートに記入した。アポデラードのルイス・マヌエル・ロサノもカジェホンの中で泣いていた。それからまた牛に向かった。手の低い長いデレチャッソを4回繋ぐと「オーレ」絶叫の声はさらに大きくなった。パセ・デ・ペチョをして牛の前に立ち止まると観客は総立ちになって喝采を送った。この喝采がなかなか終わらない。こういう風に胸が詰まるような感動に覆われている時は人間の行動パターンは複雑にはならない。手拍子して喜びを表したりする様な嘘くさい表現はなくなる。単純に立ち上がって喝采を送るだけで充分感動を表しているのだ。

 それからコヒーダされた左角の方でパセをするナトゥラル。手の低い長いナトゥラルが3回繋がると「オーレ」の絶叫がこだました。アドルノで1回パセの後に上に廻しパセ・デ・ペチョで牛の前に立ち止まると観客は立ち上がって喝采を送った。何という感動だろう!涙を堪えようとしても堪えられずに、溢れ出る涙が止まらない!!!剣を代えに行っていることもあるが、立ち上がっての喝采が長いのだ。パセ・デ・ペチョの時に僕は右の拳を前に伸ばしてガッツポーズをして立ち上がって喝采を送った。ここには男の真実がある。デレチャッソを4回繋ぐと「オーレ」が続いた。そのまま牛を置いた。左前脚がずれていたので観客が、「ノー」と言ったがセサルはそのまま剣刺しに行った。スエルテ・コントラリアからムレタを振って牛を誘いレシビエンド。が、失敗!溜息が漏れ、それから、「ノー・パサ・ナダ」という拍手が沸いた。

 今度はスエルテ・ナトゥラルでグラン・エストカーダがレシビエンドで決まった。セサルは腕を伸ばして振って剣が決まって牛が直ぐに倒れるとジェスチャーした。すると牛は本当に直ぐに倒れた。闘牛場に歓声が沸き、揺れる白いハンカチが闘牛場を一杯にした。「トレロ」コールは出ない。何故か?それは、余りにも感動してそれを声に出してしまったら、泣いてしまうし、泣いている人は、号泣してしてしまうからだ。だから、「トレロ」コールは起きなかった。つまり、それだけ深い感動が闘牛場にあったことを意味しているのだ。

 本当に堪えようとしても溢れ出る涙が止まらない深い感動に包まれていた。胸が大きくなって苦しい。痛い感じがする。僕はこれまで何百回と闘牛を観てきたが、泣きならが闘牛を何回も観てきた。でも、そういうときの涙は頬を伝わる涙だった。今日みたいに、堪えようとしても溢れ出る涙が止まらない深い感動に包まれた涙は初めてだった。ありがとうセサル。本当にありがとうセサル・リンコン。あなたに会えて良かった。今日これを観ただけでも今年闘牛を観にスペインに来た甲斐があったという物だ。やはりセサルは、僕にとってアウテンティコ・イドロ(本物のアイドル)だった。そう確信した!プレシデンテは耳2枚を出した。

 闘牛中継のTVのインタビューでセサルは、「私の人生の中で今日が1番美しい日になった」と、言っていたそうだ。耳2枚持って場内1周を終えた後、アレナ中央へ行って挨拶をしてアレナの砂を胸の中に入れた。セビージャの観客はそれを見てまた喝采を送った。今日はセサルに闘牛場で泣かされてしまった。終わってからもボロボロボロボロ涙が出てきた。人目をはばからず涙を流した。下山さんとTELしたら、言葉に詰まって何か言うと、号泣しそうで困った。非常に衝撃的な闘牛だった。魂をセサルに取れたような感覚だった。カスタ・デ・トレロ!グランディシモ・トレロ!


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