マティアス・テヘラはプエルタ・グランデの鍵を握っていたのに最後になくしてしまった。セサル・ヒメネス40m牛を呼ぶも・・・。

2006年5月23日マドリード、ラス・ベンタス(第1級)闘牛場のサン・イシドロ14日目(29回目)開催の結果。

19時開始、21時15分頃終了。

プレシデンテ、マヌエル・ムニョス・インファンテ。今年14回目のノー・アイ・ビジェテ。観客は満員。

牧場

エル・プエルト・デ・サン・ロレンソ
   全体として頭が高く角が広い。力強さが足りなく膝を着く牛が多かった。
   1頭目は、ソソ。2頭目は、力強さが足りない。
   3頭目は、コンプリカド。4頭目は、ソソ。5頭目、6頭目は、マンソで危険。


闘牛士

エル・ファンディ 沈黙、沈黙。

セサル・ヒメネス 拍手と口笛(ディビシオン)、沈黙。

マティアス・テヘラ 耳1枚、挨拶。

 晴れ時々曇り。強い風が吹いて日が暮れる前から寒い。エル・プエルト・デ・サン・ロレンソ牧場の牛(Procedencia actual=現在の起源<基の血統>、アタナシオ・フェルナンデス、リサルド・サンチェス牧場)。闘牛士、エル・ファンディ、セサル・ヒメネス、マティアス・テヘラ。満員の入り。ソンブラのバレラにエレナ王女とその旦那が観戦に来ていた。ソルのテンディド5にて観戦する。

 今日は順番を変えてマティアス・テヘラからにする。今日はやる気を全面に出して体も張ったし命も賭けた本当に良い闘牛をした。観客の誰もがプエルタ・グランデをさせたかったに違いない。本当に残念でならない!これだけ必死になっているマティアス・テヘラを観たのは初めてだ。セバスティアン・カステージャには負けるが、本当に感動的だった。お前もやれば出来るじゃないかと思った。何より必死になって牛に向かっていく姿が美しかった。これが闘牛だよなぁと思った。

 では、今日のマティアス・テヘラ。初めの牛が出てきた印象は、頭が高く角が広く体が太い。動きが鈍いというものだった。ベロニカを繋ぐと右角が短く見えた。ピカ前に牛がカポーテでコントロールが利かず落ち着きなく動き回っていた。ピカは左前に入った。牛が離れると膝を着いた。カポーテを振っても膝を着いた。口笛や手拍子がなる。2度目のピカも同じ所に入った。ファンディのキーテは体の近くを通すチクエリナ3回でラルガを決め拍手がなった。バンデリージャが6本打ち終わり、牛は観客に捧げられた。

 膝を折ったデレチャッソを繰り返し牛の動きを確認した。それからデレチャッソ、マノ・カンビオ、パセ・デ・ペチョで拍手がなった。アレナ中央へ移動。手に低いデレチャッソを3回繋いでパセ・デ・ペチョで拍手。2回目が角にはらわれていた。風が吹いてムレタが振れない。ここでテンディド5,6へ移動した。それが良かった。手の低いテンプラールなデレチャッソを3回リガールするとオーレが続いた。パセ・デ・ペチョで喝采がなった。ソルのお客さんが喜んでいる。離れデレチャッソを3回リガールするとオーレ続きパセ・デ・ペチョで拍手がなる。左角の方が良いと思っていたが右も良かった。ただ、牛は初めからバテ気味で良くここまでファエナを続けていると思った。

 離れ今度はアジュダード・ポル・バッホからクルサード3回手の低いナトゥラルが繋がるとオーレが続いた。パセ・デ・ペチョで喝采がなる。離れナトゥラル。クルサードして2回手の低いパセを繋ぎまたクルサード。牛の動きが悪い。テンプラールなナトゥラルをしパセ・デ・ペチョで喝采。牛が止まった。それでも動かずにパセを繋ぐから観客が闘牛士に興奮する。離れトゥリンチェラ、ナトゥラル。牛が動かないのでクルサードして2回パセを繋ぐのがやっと。またクルサードして2回パセ。牛がまた止まった。左手のムレタを背中の方に出してシルクラールを綺麗に長く廻すと歓声が上がった。パセ・デ・ペチョで見栄を切ると観客は立ち上がって喝采を送る。

 マタローの声が上がったが、ファエナが続いた。手の低い長いデレチャッソが3回繋がるとオーレが大きく続いた。パセ・デ・ペチョで見栄を切ると観客は立ち上がって喝采を送った。凄い!この必死さが胸を打つ。シルクラールが決まったとき耳を確信したが、そのあとのデレチャッソで3回のパセで耳2枚やっても良いという気になった。このダメ牛からここまで手の低い長いパセを引き出したのは賞賛に値する。剣を代え、ムレタを振ったら牛が後ろ脚から崩れた。もうパセは繋げない。起きあがり、スエルテ・コントラリアで牛を置いてピンチャッソ。闘牛場に溜息が漏れた。その次にカイーダで決まった。牛は口から血を吐きながらもんどり打って倒れた。闘牛場に白いハンカチが沢山振られて口笛が鳴る。プレシデンテは耳1枚出すことを許可した。あー、1回で決まっていたら耳2枚出でていたかも知れない。残念だ。

 プエルタ・グランデがかかった最後の牛も非道かった。出てきた牛は、体が太く、頭が高く凄い角をしていた。角は開き尖った先は上を向いていた。いわゆる即死型の角だ。ビビってしまう角の形だ。しかし、バンデリジェーロがカポーテを振ると逃げた。マンソ。ブルラデロに行くと角を突いた。マティアスが牛向かってこないのでアレナ中へ出ていって迎えた。ベロニカをしようとしたらスピードを緩め一瞬止まりかけてジャンプした。非常にやりにくい牛だ。それでもカポーテを丁寧に振ってベロニカを繋ぐと牛が少しずつ動き出した。ピカは左後ろと左前に入った。バンデリージャが5本打たれファエナが始まった。

 膝を折ったデレチャッソを繋いで牛の動きを確認した。カポーテの時に感じた右角が悪いという感じもなく両方いけそうだった。パセ・デ・ペチョでアレナ中央へ。デレチャッソするがパセが切れない。牛がパセのあと付いてくるのでやりにくい。デレチャッソで3回パセしてパセ・デ・ペチョで拍手。離れデレチャッソを3回繋ぎトゥリンチェラで拍手。ムレタが角にはらわれる。離れナトゥラル。危ない。パセが短い。それでも繋ぎパセ・デ・ペチョで拍手がなる。離れ手の低いナトゥラルを3回繋ぎパセ・デ・ペチョ2回で拍手がなる。離れデレチャッソのトゥリンチェラで牛が逃げる。それからテンプラールなデレチャッソを3回繋ぐとビエンという声が出た。牛がパセの途中で止まりそうになるのをこらえてパセを繋いだ。レマテはパセ・デ・ペチョで喝采がなった。

 離れデレチャッソ。またパセのあと牛が逃げる。クルサードして手の低い長いパセ繋がりパセ・デ・ペチョで喝采がなった。兎に角この牛から耳を取るんだという気持ちが手に取るように分かる。いつコヒーダされておかしくない状況なのに命を賭けて闘牛をしている。この姿が実に美しい。人間の最も美しい姿だ。デレチャッソ2回で風が吹いた。このパセも体の近くを通っていた。それからクルサードして手に低い長いパセが3回続くとオーレが続いた。パセ・デ・ペチョ2回で喝采がなった。観客は立ち上がっている。興奮している。みんなマティアスの味方だ。あとは剣だけ。剣さえ決まればプエルタ・グランデ出来る。彼は今プエルタ・グランデの鍵を手にしている。剣を代えて、スエルテ・ナトゥラルで牛を置き、ピンチャッソ。溜息が漏れる。スエルテ・ナトゥラルで牛を置きまたピンチャッソ。完全に耳が消えた。スエルテ・コントラリアでバホナッソ。口笛が鳴った。

 あー、非常に残念だ。あそこまでやったんならプエルタ・グランデをさせてやりたかった。観客の気持ちは1つだった。でも、本人が1番ガッカリしただろうけど・・・。牛が退場するときに口笛が鳴り、マティアスに対して喝采が送られそれに応えてアレナに出て挨拶をした。昨日のエル・シドは2頭目で剣が決まってプエルタ・グランデ。今日のマティアスは2頭目でもピンチャッソを繰り返してプエルタ・グランデが出来なかった。つくづく闘牛は難しい。しかし、今日のファエナは記憶に残るファエナだった。あれだけ必死になれば観客の心をわしづかみできる。そうなったらお客を呼べる有名闘牛士って事になるのだ。

 エル・ファンディは、毎年上手くなっている。昔はバンデリージャだけが見せ場の闘牛士って感じだったけど、今はカポーテも素晴らしい。ムレタだけがもう少し努力が必要だけど・・・。チクエリナだって両足を揃えて動かずに体の近くを通し観客を驚かせる。バンデリージャは勿論世界一。今日は2頭目の牛の最後にビオリンを決めそのあと、牛の頭に手を置いてアレナを半周して喝采を浴びた。あんな事出来る闘牛士は今はファンディだけだ。昔は、エル・ソロのを観たことがある。隣にいた英語を話す女性が驚いて興奮していた。誰にでも判る興奮というのも闘牛には必要なのだ。ファエナも悪くはなかったが、耳が取れるような物ではなかった。でも、今日は良い仕事をした。

 セサル・ヒメネスは、3回連続プエルタ・グランデがかかっている日だった。良い感じでファエナが始まったんだけどそれが続かなかった。初めの牛は遠くから呼べる牛だった。膝を折ったデレチャッソから始めアレナ中央へ行った。それから2本引かれた白線の内側に牛を置き、セサル・ヒメネスは反対側の白線の内側に立った。距離にして約40m。闘牛場が静かになった。おっ、セサル・リンコンを始めるのかと思った。観客は牛を動かないだろうと思っていた。でも、ムレタを振って呼ぶと牛が走り出した。4回パセをリガールするとオーレがなった。パセ・デ・ペチョで喝采がなった。それからまた同じように距離を取り40mの所から牛を呼んだ。オーレがなる。でも牛は動かない。クルサードして3回パセをすると牛が膝を着いた。パセ・デ・ペチョ3回でオーレなり喝采がなった。が、ここまでだった。あとは牛が動かなかったのだ。

 榎本さんの見解だと、呼べる牛じゃないのに無理をすると牛が動かなくなると言う。僕の見解は、セサル・リンコンの距離の魔法は真似しようとしても出来る物ではない。相当の技を持っていないと出来ない。2回も40mから牛を呼んだだけでも立派だと思う。結局このファエナは意見が分かれて、終わったあと、拍手と口笛が鳴った。2頭目の牛のファエナは、膝を着いたデレチャッソをかなり長い間繋いで観客を盛り上げたが、牛が悪くパセが繋がらなかった。剣を代えにタブラに向かうとき、セサルは怒っていた。これで完全にプエルタ・グランデが消えたからか、それとも、思うようにファエナが出来なかったからか。

 プエルタ・グランデは難しい!セサル・ヒメネスは3回連続のプエルタ・グランデを狙ってラス・ベンタスにやってきたがそれが出来なかった。代わりに、マティアス・テヘラがプエルタ・グランデを開けようとしたが、寸前に持っていた鍵をなくしてしまった。残念でならない。しかしだからこそラス・ベンタス闘牛場の満員の観客の前でプエルタ・グランデする価値が物凄く大きいのだ。闘牛士が、有名になるためには通らなければならないのが、満員の観客の中でラス・ベンタス闘牛場のプエルタ・グランデを通る事だ。

 だからこそ、4回連続のプエルタ・グランデの記録を破るのは至難の業なのだ。マティアス、腐るな!そうやって必死になっている君の姿は未だ目の中に残っている。来年また会おう。ラス・ベンタス闘牛場で。

 闘牛が終わったあと、みんなに会った。榎本さんはマティアスの剣刺しについて、ムレタを持っている左手の振り方が悪いと言っていた。Tさんは、感心して訊いていた。僕には、マティアスの左手の振り方が悪かったのかどうかは、記憶にない。Wさんと、あそこまで行ったらプエルタ・グランデさせてやりたかったと残念がった。感動的なファエナだった。今日はマティアス・テヘラに感謝して酒を飲もう。


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