観客を沸かせたハイテンションのアントニオ・フェレーラ耳1枚。

2006年5月14日マドリード、ラス・ベンタス(第1級)闘牛場のサン・イシドロ5日目(20回目)開催の結果。

19時開始、21時35分頃終了。20時49分照明点灯。

プレシデンテ、トゥリニダ・ロペス・パストル。今年6回目のノー・アイ・ビジェテで、観客は満員。

牧場

カリキリ
   全体的に、頭が高く角が広い。体が太く脚が弱い。マンソが多い。
   1頭目、頭が高く角が広い。動きが鈍い。2頭目は、膝を着いたが良い牛。
   3頭目は、マンソ、コンプリカド。4頭目、頭が高く後ろ脚が流れる。マンソ。
   5頭目は、後ろ脚が体についていかない状態で何度も膝と着き交換になる。
   6頭目は、体が太く脚が弱い。
ソブレロ:エスクリバノ・マルティン牧場(5頭目の牛の換わり)。右角が良かったが、左角がブスカンドした。マンソ。


闘牛士

ビクトル・プエルト 沈黙、沈黙。

アントニオ・フェレーラ 口笛、耳1枚とそれに対する抗議。

イバン・ガルシア 沈黙(アビソ)、沈黙。

 晴れのちくもり。初めは暑かったが、日が暮れても寒くはなかった。少し風があった。カリキリ牧場の牛(Procedencia actual=現在の起源<基の血統>、カルロス・ヌニェス牧場)。ソブレロ。エスクリバノ・マルティン牧場。闘牛士、ビクトル・プエルト、アントニオ・フェレーラ、イバン・ガルシア。満員の入り。ソルのテンディド5にてYさん、Hさんと一緒に観戦する。

 ビクトル・プエルトは、怪我からの復帰初戦。それを言い訳にするなら、プロとしては失格だ。それなら出てこなければいいのだ。出てきたなら、自分の良いところを出す意欲と努力を闘牛場の中で見せるべきだ。本人もただパセを繋いでいれば良い訳ではないことを判っているはず。でも、それ以上出来ない。パセのあと、何でドタバタするの?パセとパセの間は、リガールするなら1歩足を引くだけで良いでしょ。つまり、ムレタで牛をコントロールしていない証拠。マンダールしていない。2頭目の牛は、膝を何度も着いていたので換えるべきだったかも知れない。いくら誘っても牛が動かなかった。結局ファエナにはならなかった。でも、これはノートを付けていたからあとから読んで判ることだ。印象としては、殆ど何も残っていない。唯一、ピカドールが乗る馬の横に指示して立っていたディレクトール・デ・リディアとしての存在感くらいか。

 アントニオ・フェレーラの初めの牛は良い牛だった。どうしてこれで耳を切れないのだろうと思って観ていた。カポーテやムレタに素直に付いてくるやりやすい牛だった。僕らは闘牛を観るときは、牛が良いと闘牛士が耳を切れるだろうと思う。逆に、牛が悪いと闘牛士のせいではないと考える。僕に限らず闘牛ファンはそういう風に思う。だから初めの牛が終わったあと、口笛が吹かれた。良い牛だからもっと出来るだろうと、言うことである。僕は耳が取れる牛だと思った。しかし、こういう考え方が全てではないかも知れないと考えさせられた。と言うのも、2頭目の牛でフェレーラが見せたファエナのあとで、考えると必ずしも上記の事を断定できない気がするのだ。何故なら、闘牛士には、自分がやりやすい牛と、ハタ目から観て良い牛だという牛でも闘牛士にとって決してやりやすいとは限らないと、思ったのだ。もっと、ハッキリ言えば初めの牛のファエナを観て失望したが、2頭目の牛のバンデリージャとファエナを観て素晴らしいと思ったのだ。

 ではそのフェレーラの2頭目の牛。頭が高く体が太い。後ろ脚を引きずっている。何度も膝を着いて交換になる。換わりに出てきた牛も、頭が高いが体が締まっている。動きが良さそうに見えた。しかし、初めのカポーテを振ったら、牛はカポーテの前で迷い躊躇して何処に来るか判らない動きをした。それをフェレーラはカポーテを出来るだけ外に振って牛に動きを教えるようにした。オーレがなった。メディア・ベロニカを決めると観客は喝采を送った。ピカは左前に2回入った。頭が高い牛なので良いピカだ。バンデリージャは自分で打った。

 アレナ中央で左に走って角の間で飛んで打って喝采がなる。アレナ中央で後ろを向いて立ち牛を誘い牛を交わしそれから左に廻って飛んで角の間で打った。喝采がなる。最後がタブラ前で牛を誘いキエブロ。見事に決まり、通り過ぎた牛がまたやってきたのをフェイントで交わしポーズを決めると観客は立ち上がって喝采を送った。それに応えてフェレーラは挨拶をした。素晴らしいバンデリージャだった。牛は観客に捧げられた。

 膝を折ったデレチャッソから始めアレナ中央へ。長いデレチャッソが3回繋がると観客からビエンの声が出た。クルサードして2回パセを繋ぎパセ・デ・ペチョで拍手がなる。離れデレチャッソを4回リガールして長いナトゥラル、パセ・デ・ペチョでオーレがなり喝采がなった。離れデレチャッソを5回リガールしてオーレが続き長いナトゥラルからパセ・デ・ペチョで牛の前に立って喝采がなった。離れそしてナトゥラル。クルサードして3回パセを繋いだが、1回目のパセで牛がブスカンドした。さらにクルサードして2回パセを繋ぎパセ・デ・ペチョで拍手。

 離れデレチャッソを3回リガールしてオーレが続きトゥリンチェラで牛の前に立って喝采がなった。トゥリンチェラのパセ時、牛を観ずにパセをした。観客は立ち上がって喝采を送っている。ナトゥラルの時からソルの観客席の前でファエナをしている。フェレーラは顔を赤くしてハイテンションでファエナを続け、ソルの観客はもう興奮状態で喝采を送っている。レマテが非常に切れがある。離れデレチャッソを3回リガールしてまた牛を観ないトゥリンチェラからパセ・デ・ペチョで立ち上がって喝采がなる。剣を代えて、デレチャッソからトゥリンチェラ、パセ・デ・ペチョで拍手。スエルテ・コントラリアで牛を置き、グラン・エストカーダ。牛の角に跳ね上げられて足の辺りを痛がってきたが角傷はない。牛が座り、闘牛場に白いハンカチが一斉に振られた。耳を要求する観客からの口笛が吹かれプレシデンテは耳1枚を出した。それに対する抗議の手拍子も起きたがこれだけ観客を盛り上げ喜ばせたら耳1枚は当然だ。笑顔の場内1周。観客は彼に喝采を送っていた。この牛で、このファエナは恐れ入った。

 イバン・ガルシアはもう少しやるかと思っていたが・・・。フェレーラのあとだと、見劣りする。自分の見せ方が下手。バンデリージャ1つ取ってもそう。闘牛の盛り上げ方も・・・。最後の牛のカポーテで転んで牛にコヒーダされてそのあとはビビッたのか腰が引けたパセになっていた。

 フェレーラはあれだけ観客を興奮させたら耳は当然。それに対する抗議があったのは事実だが、こういう闘牛を好まない人もいると言うだけの話。バンデリージャのキエブロはテンディド10の前辺りで、ファエナの後半は、テンディド5と6辺り。つまりソンブラとソルの観客の前でやったのだ。こういう自分の見せ方も非常に上手い。意識しているのかどうかは知らないが・・・。もし、これが耳でないのならフェレーラとかペピン・リリアとかは耳を切れないことになる。こういう闘牛士はいなければダメだ。ショーマン的な闘牛でも、未だやることをやっている闘牛士だ。伝統的な闘牛士しか耳が取れないのなら闘牛はすたれる。色々な闘牛士がいるからこそ、伝統的な闘牛スタイルもまた、栄(は)えるのだ。そして、こういう闘牛は、闘牛をよく知らない人が見ても分かり易い闘牛なのだ。これが重要だ。

 Yさんは闘牛の最中から、セバスティアン・カステージャの感動した耳と、フェレーラの耳は、同じ耳1枚なの。何か悲しくなる、と。その気持ちは充分判ります。でも、闘牛とは記録ではなく、伝統的に人々の記憶によって支えられてきた。観て感動して、それを他の人に伝えることによって伝説が生まれ、スターが生まれてきたのだ。だから、記録が同じ耳1枚でも多くの人々に記憶される闘牛が残っていくのだと思う。

 ともあれサン・イシドロ5日目にして耳7枚。4日連続の耳。しかも、見習い闘牛や騎馬闘牛が含まれない、闘牛だけでである。セビージャより耳が出ている。信じられない事だが、事実である。でも、セビージャの闘牛より良い闘牛であることに間違いはない!ただ、インターネットで切符が買えるようになって2年目。確かに客層が変わってきている。闘牛をあまり知らない人が多くなったような気がする。


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