闘牛を見ると自分も何かを真剣にやらなければと感じてしまう

por 中崎啓文

レガネス闘牛観戦記
※見た当日に書いていますがメモをとりながら見ていたわけではないので 多少記憶に(という事は以下の文章に)曖昧かつ不正確な部分があります。

 2000年7月27日PM8:00〜、レガネス。 クーロ・バスケス、ホセリート、ホセ・トマス。

 先日レガネスに券買いにいってはじめて屋根付きであることを知る。そのせいでソルとソンブラの区別がなく、よって値段も一定。6000円の券を2枚買う。場所はテンディード・バッホ1の3列目。

 同行の友人P子(仮名・以後Pとする)とオペラで待ち合わせ。ついでに観光で来ているというAさん一家もひきつれ地下鉄5番線でオポルト→バスで闘牛場へ。

 闘牛場に入ってまず思ったこと。屋根が重い。なにか妙な重圧感を感じる。テンディード・バッホの3列目にしてはアレナが遠い。そのぶん一人分の座席が広くてたとえ上下両隣に割腹の良いオッサンが座ったとしてもこれなら余裕充分。その点ではよい。それに角度がある。どうやら席の高さも充分にとってあるらしい。良く見たらアレナからバレーラまでの高さもかなりある。まるで洗濯機に目を回して吸いこまれるかのような錯覚を覚える。

 はじめてのドーム闘牛場にクラクラしていたところへ闘牛士入場。はじめに馬に乗って出てくる2人の呼び名は知らないがそのうちの一人がふらついてあっちいったりこっちいったりしている。いきなり腰砕け。そして闘牛士入場。いつもの通り挨拶してるうちに屋根の半分が開きはじめる。「おぉスペインにしてはハイテク!」などと屋根に気をとられてる間に気がついたらいつの間にか1頭目が始まっていた。

 で、1頭目。
気がついたら始まっていたのであまり記憶にない。とりあえずクーロ・バスケスの後ろ足が常に引けているのが気になった。それ意外はなにも覚えてません。

 2頭目。
出てきて最初にカポーテ振ったときからして客の反応がクーロ・バスケスの時と如実に違う。というか誰の目にも違うのは一目瞭然だったんでしょう。個人的には相変わらずホセリートはものすごく真剣だと思った。真剣といえばみんなそれなりに真剣にやっているのでしょうがなんというかホセリートの場合は全身全霊でもって牛と対峙しようとしているというか毎回出てくる牛に対して決してどんな些細な事でも手を抜かないぞというような気迫のような覚悟のようなものを感じるのだ。牛は決して良い牛ではなかった(ように見えた)がきちんとクルサードしてきちんと牛を動かしていた。剣も決まったが耳はなし。それでもホセリートには拍手が起こった。

 3頭目。
カポーテ(もしくはムレタ)通したときに頭を何度か変な風に振る牛。癖なのだろうか?何かを探しているのだろうか?カポーテを体の後ろで構えて体の横を通す技(名前知らない)で盛り上がる。ホセ・トマスが出る時はホセ・トマスの事で頭いっぱいいっぱいなのでピカとバンデリはあまり見てません。見てても覚えてません。

 で、ムレタの演技。彼はムレタを後ろで構えてパセする方と反対の布に一瞬牛の注意を向けておいてそれからパセをしたりすることが多い(ように見える)。牛にクルサードさせる、ということなのだろう。それでもってやはり体ギリギリに牛を通すホセ・トマス。その後真剣に持ちかえてからのマノレティーナで会場をさらに沸かす。

 個人的にはホセ・トマスがムレタを体の後ろで両手で持った瞬間からもうワクワクしてしまう。「俺はそれを見に来たんだ!」と思う。そして今日もしっかり見せてくれました。ありがとうホセ・トマス。しかし剣刺し三度失敗。個人的に去年秋のホセ・トマス10回ピンチャソの悪夢を思い出し笑うに笑えない。結局その後デスカベージョ(っていうんでしたっけ)で終了。そういうことなので耳はなし。残念。

 4頭目。
頭の高い牛。そういう牛は頭を跳ねあげるって斎藤さん言ってましたよね?その通りの牛。クーロ・バスケス一味、揃いも揃って全くいいとこなし。全然動かなくなった牛にあきらめて見栄もきらない(きれない)始末。そしてとっとと剣刺しへ。その剣刺しでピンチャソしてビヨヨ〜ンと剣が飛んだときは思わず失笑。

 ここでちょっとトイレ休憩。「今日はなんだか毎回唐突にはじまるね」と友人Pと話していて「○○○kg」とか書いた立て札を持ってアレナの真ん中で回ってる兄ちゃんがいない事(Pが)に気付く。どおりで。かわりにどっかに電工掲示板でもあるのかと思って探したけどどこにもなかった。

 5頭目。
最初はガーッと走ってきて柵にぶつかっては柵の木片を散らすといった感じで勢い良かったもののその勢いで途中ピカドールの馬ひっくりかえしたりしつつムレタの頃にはすっかり動かない牛に。前足で地面をほじくりつつ終始うつむき加減。それでもホセリート。じりじりクルサードしては牛を動かす。地道に牛を動かして客の心を徐々につかむ。

 途中ホセリートは全然動かないまま振りかえっては牛を動かしまた振りかえっては牛を動かすという場面があった。僕はそれはそれで凄いと思った。が、斜め前に座ってた黒人が「そんなの闘牛じゃねえよ」と叫んでいた。彼からすれば面と向って牛と闘うということこそ闘牛、という事なのだろうか?

 でも僕には遊んでるようにも手を抜いてるようにも全然見えなかった。剣は1度外して2度目で決める。個人的には「耳」でもよい内容だと思ったので友人Pと一緒に賢明に白ハンカチを振る。でも耳にはならず。なんで?今日のお客は闘牛知らないんじゃ?と思ってしまった。自分の事は棚に上げて。

 そういえばあまり関係ないがPがホセリートのカポーテは他の人のカポーテよりも若干(素材自体が)柔らかそうだ、といっていた。いわれてみればそんな気も。

6頭目。
出てきていきなりガーッと走る牛。そして出したカポーテに向ってまっすぐ走ってくる牛。今日の牛の中では一番良いと思ったのだがホセ・トマスはカポーテでゆっくり牛を動かしながら様子をみていた。3頭目がああだったから牛の体力を考えて大技はやらないのだろかとくらいに思ってみていたのだがピカが入ったあたりで前足の膝ついて牛交代。

 うーん。ダメな牛だったんだろうか?それともピカで駄目に?しかし牛を交代させろっていって客が振っていたのは白いハンカチ。もしくは座布団だったり。緑のハンカチなんか誰も振っていない。やはり普段は闘牛なんかあんまり来たことない人達なのかもしれない。そして交代で出てきた牛の背中に牧場のリボンがないぞ!手落ちか?そういうものか?

 それはともかく交代して出てきた牛をやはりゆっくり回すホセ・トマス。そしてピカ・バンデリなどもまぁ順調に入って(やっぱりあんまりよく見てなかった)ムレタを持ってホセ・トマスの演技。確かに多少ムレタの位置が高いなと思いつつもそんなの全然気にはならない。相変わらず体スレスレを通っていく牛。ときにはムレタで270度くらい牛を引っ張ってみたりやっぱりホセ・トマスは凄い。

 僕の大好きなマノレティーナこそやらなかったものの今日一番のファエナ。剣刺しは一発で決まったかのように見えたがどうやら若干横に入ってたらしく再度剣刺し。今度は決まってしばらく間を置いて倒れた。よし今度こそ耳だ!と思ってハンカチを振るも周りのみなさん既に帰り支度。「おいおいせっかく良い仕事したんだから最後まで見ようよ!ハンカチ振ろうよ!」と思うも誰もハンカチ振っていない。よって耳なし。なんじゃそら。

 闘牛士退場のときPはクーロ・バスケスに向って座布団投げていた。僕も投げてやろうかと思ったが止めてPに渡すとその僕の分まで投げていた。ホセリートとホセ・トマスにはもちろん拍手。結果的には耳は1枚も出なかったもののそれなりに良い闘牛をした。

 どうも僕が見にいった時はなかなか耳を切れないホセリートだがあの人の闘牛を見ると自分も何かを真剣にやらなければと感じてしまう。そして人の気持ちに影響を与える仕事ができる人はやはり凄いと思う。ホセ・トマス。くそう、剣さえバシッと決まれば!しかしホセ・トマスももちろん凄い。もう僕はホセ・トマスのファンなので凄いとしかいいようがない。敢えてホセ・トマスについては語らないがとにかく凄い。もう1度言う。凄いよ。スペインに来たら必ず見なさい。って誰にいっているのだ? FIN

 

 中崎君とは、去年一緒に住んでいたことがある。その時、闘牛を何も知らなかったが、ビデオを見せて闘牛を教えた。彼は、画学生なので、肉体の動きを普段から詳細に見る訓練をしているので教えたことを直ぐに理解した。ラス・ベンタス闘牛場から帰ってきて飯を食いながらビデオを見ていると、良く横に来て一緒にビデオを見ていた。

 クルサードのこと、牛のこと、色々教えた中で、自然とホセ・トマスが好きになっていった。何故なら最高の闘牛士だからだ。イドロ・デ・マドリードだからだ。

 今年も、アランフェスとトレドに一緒に行った。両方ともホセリートとホセ・トマスが出ていた。恐らく、アランフェスの闘牛が彼が見た最高の闘牛だっただろう。感情が揺り動かされる闘牛だった。あれはそう見られる闘牛ではなかった。トレドでモランテを見たとき、あんなに綺麗な闘牛があるんですね、と言っていた。

 この観戦記を読んでこの日どんな闘牛が行われていたか良く判る。彼は闘牛が耳だけじゃないと言うことも良く判るようになったようだ。これなら、サン・イシドロ祭を退屈しないで見れるかも知れない。

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