『牛と体の間隔は限りなくゼロに近い闘牛を見せたホセ・トマス』 

por 伊丹伊織

プロローグ

 学生時代の貧乏ヨーロッパ旅行の時、スペイン人の陽気さは、私をハイテンションへと導いた。スペインは私にとってそういう国だ。そんなスペインは好きだ。前回の旅行は闘牛やフラメンコに費やす金がなかったので、今回のスペイン旅行では鑑賞することがひとつのテーマだ。

 日本ではなかなか存在していない、生きている実感(ハイテンション)を期待して、、、闘牛観戦を私はしたことがないから、当然闘牛の知識は0だ。Webで情報収集していた時、斎藤さんのページを見て私は反応した。理由は「競馬と闘牛は関連している」というメッセージがあり、私も競馬好きだったからだ。斎藤さんの観戦記は、ほぼ全読した。(ダウンロード→印刷→通勤電車で読む)また、技の解説とその闘牛画像が載っていて、わかりやすい。その結果、以下のことが認識された。

 1 闘牛士は個性豊かでかつ上手下手がある。
 2 その闘牛士によって闘牛は面白かったりつまらなかったりする。
 3 牛にも個性があり、動きの善し悪しによってもスタイルが変わる。
 4 危険であればあるほど、ドキドキハラハラする良いファエナであり、観客は盛り上がる。

そして、エル・フリを見たくなった。その理由は―――
 昔イギリスに行った時、見た競馬は条件戦であまり感動がなかった。
 レベルが低く、田舎のノンビリした雰囲気、それはそれで良いのだが。
 その後、99年の5月にクラシックをイギリスで見た。
 圧倒的なGIの雰囲気に私は呑まれた。

 レベルが高いもの=良いものとは必ずしも限らないが、やはり良いものは良い。 「競馬と闘牛は関連している」→「海外競馬はレベルが高いものがよかった」→「闘牛もその可能性が高い」 →「闘牛のレベルは闘牛士のレベル」→「しかし素人の私に判断できない」→「斎藤さんの感覚は同感できる」 →「斎藤さんの注目闘牛士」→「私も好みそうだ」→「エル・フリかホセ・トマス」 →「ホセ・トマスは日程が合わない」→「よってエル・フリが見たい」

 ところが日程が近づくにつれ、出場する闘牛士のメンバーは変更した。その結果、エル・フリよりもホセ・トマス観戦の方が私の旅には合う日程になった。よって、ホセ・トマスを観に8月29日のサンセバスチャン デ ロス レジェスの闘牛場に行くことにした。

 8月29日 サンセバスチャン デ ロス レジェスの闘牛観戦記

 行き方−サンセバスチャン デ ロス レジェスへの行き方マドリの地下鉄PLAZA DE CASTILLA駅へ行く。地上に出るとバスターミナルがある。151番台のバスが終点闘牛場(SS.D.L.R PLAZA DE TOROS)である。152,153,154,その他バスでも行けるようだが、闘牛場の近くまでしか行かないと思われる。

 発進時刻は約15分から30分おき位の間隔で、所要約30分で到着する。闘牛場正面までキッチリと行くのは151番台のバスのみなので、これに乗ることを勧める。帰りのバスは20時以降、闘牛場まで来ないので注意。かなり離れた手前のバス停まで戻ることになる。帰りはバスのほとんどはPLAZA DE CASTILLAまで戻ってくれる。

 さて、17時に着いた私はチケット残りの関係上、以下のチケットになった。SOMBRA TENDIDO2(これが気がかりだ)FILA13(実際には角度がついていて距離は近いが高さがある視点となった)4500pst(約3300円)19時からスタート場内はほぼ満席状態で、みんな正規の場所に行儀よく座って観戦している。セリエAとは大違いだ。カメラ条件は200mm、3.5f、1/250、ISO100と400だった。

 1頭目 名前も忘れた闘牛士。初めは、彼の登場してきた理由が理解できなかった。パセの時の体と牛との間隔は、牛がもう1頭入るのではないか?と思える程開いていた。お手伝いの人たちが場面場面で、牛の位置を移動させるためにやるものとの区別がわからない程だ。見ていて終始とても安全な闘牛だ。

 最後に牛を刺して、おしまい。静かな場内、、、これが闘牛?でも次のホセ・トマスが出てきた時に、この名前も忘れた闘牛士がナゼ出てきたのか理由がわかった。初めて闘牛見る私に闘牛の行われる一連の手順を教えてくれるためだったのだ。(^^;;; 牛登場から始って、最後に牛が退場するまで闘牛の流れを知るために、彼は私にとって貴重な存在となった。

 2頭目 ホセ・トマス牛はやや小柄なタイプだが筋肉質系で無駄な贅肉がない感じ瞬発力とスピードがあり、私好み?の牛だ。たぶんこの日1番の牛だろう。牛と体の間隔は限りなく見た目、ゼロに近い。パセの時、何か音がしているような気が、、、これ牛の体とホセ・トマスの体が擦れている音ではないの?と思われるほどだ。(ちょっと誇大表現か)



 カポーテの時、牛を何回か往復させた後、ホセ・トマスが牛に背を向ける。その瞬間、牛がこの往復運動による負担のためバランスを崩してズッコケ倒れる。「なんてカッコイイんだろう。」ムレタもパセの連続が繰り返される。場内は盛り上がりまくっていて、後ろのオヤジの「オーレィ、ゥオゥーレェィ」(うなるようなオヤジ的発音で)が私の後頭部に響く。

 あいかわらず、パセの間隔はない位に見える。おいおい、こんなに接近していたら本当に接触してしまうぞ(^^)と思った瞬間! 本当にコヒーダされた! 隣の婦人の「ギャーーァ」という悲鳴が私の右耳鼓膜を強く打った。すぐ助っ人が入り、ホセ・トマスは回避したがまた牛に向かっていった。そして、あいかわらずスレスレのパセを行う。コヒーダされたのに。場内大歓声。私も大歓声。剣は2発目で牛が倒れた。皆総立ちで白いハンカチを振りまくる。そして、耳2枚となった。



 3頭目 ミゲル・アベジャンこの闘牛士はけっこう、人気があるように思えた。全体的な技は、ホセ・トマスにはちょっと劣るという感じ。無難に終わるが、なぜか観客は盛り上って、耳2枚。ナゼ? たぶん、1つ前のホセ・トマスの余韻がそうさせたのではないか?

 4頭目 名前も忘れた闘牛士。あいかわらず、闘牛もどきのようなことをする。何も感じない。1頭目と同じような展開なのに、今度はナゼか耳2枚。ナゼ?おそらくホセ・トマスが創り出したこの闘牛場の雰囲気では、もうなんでもかんでも耳2枚なのだと思った。

 5頭目 ホセ・トマス前回と違ったことといえば、右足に包帯を巻いていることだ。それと、牛がなかなか動かないタイプなのか、ケガの影響なのか、スピード感が前回に比較してやや少ない。剣刺しもなかなか、牛が動いてくれないので時間を要した。やはり耳2枚。

 6頭目 ミゲル・アベジャンいきなりラルガ・カンビアールをかます。この回のミゲル・アベジャンはやけに気合が入っていた。おそらく、この日は最初のホセ・トマスがあまりにも素晴らしかったからだ。その結果「なんでもかんでも耳2枚」という状況になった。ミゲルも先程耳2枚だったが、この効果を受けてのものだった可能性がある。よって、ミゲル自身のプライドがそうさせたのだろう。前回より今回の方が粘っこい闘牛をした。時間も倍くらい要した。

 よって私は今日の夜行列車の時間を気にし始めた。(^^;剣は1発で仕留めた。ミゲルの剣は先ほどもそうだったが、刺さってから牛がなかなか倒れない。2本目?と思っても、ミゲルは「いやいや、待ってな、必ず倒れる」と立てた1本指を「チッチッ」とばかりに横に振る仕草をとる。刺した剣をちょんちょんと抜き動かすと半分抜けたところで倒れた。そして、予想通りの耳2枚。

 最後に、3人はそれぞれ肩車されて場内を一周して帰っていった。(お手伝いの人たちも)闘牛とはそんなに耳がいっぱい出るものなのか?否そうではない、最初のホセ・トマスがあまりに良かったからだ。そのおかげで、「なんでもかんでも耳2枚状態」になったのだ。私目では、ミゲルも頑張ったが今日のサンセバスチャンはホセ・トマスのものだと思った。以上。最後に良い闘牛に出会えたことを斎藤さんに感謝します。次はやはりエル・フリか?

−観戦後感想−対象へアクションを起こすか起こさないか−

 闘牛の牛は、実は何もしないと動かない。じーっとしているだけだ。しかし、ひとたび、カポーテやムレタを見せるととたんに向かってくる。(正確に言うと牛によって反応は若干違うが。)闘牛は、闘牛士が牛という対象にアクションを起こすことによって始めて成立する。「闘牛士→牛」ということだ。そして「闘牛士→牛」を行うと「牛→闘牛士」となる。

 そのアクションがより強ければ強い程、闘牛士のリスクも強くなり、よりよい闘牛になる。最初に出てきた、名前も忘れた闘牛士は牛に対するアクションが弱く少ない。だからいい闘牛に見えない。

 ホセ・トマスは牛に対するアクションが強く種類も様々で豊富だ。その結果コヒーダされたが、コヒーダされた後もそのアクションは落ちるどころか、ますます激しくなった。だから、感動する闘牛になったのだ。コヒーダされもしない、安全な闘牛は闘牛でない。まー、コヒーダされる程のリスクがあり、かつコヒーダされないのが本当は一番良いのだが。

 人生も同じだ。人が何らかの対象にアクションを強めれば、その対象からの反応ある人生となるだろう。何に対してもアクションを起こさない人生ならば、何もない人生となるだろう。そして、どちらの人生を選ぶかは、その人の自由だ。


エピローグ

 すばらしい闘牛にハマッた私。また見たいと思った。また見るであろう。その夜、夜行列車でロンダへ。ロンダの闘牛博物館に行く。闘牛場の中の何処でも入ることができる。そして、私は「上半身はだかで中心にて上向けに寝る。」というアクションをロンダ闘牛場に対して行った。

 当たり前だが、闘牛場は天文台のように真ん丸いと感じた。今は静かなこの闘牛場も、過去には昨日のサンセバスチャンの闘牛場のような幾多の闘牛があっただろう。その日、1日中背中が臭った。多くの牛と闘牛士とが残していった遺物なのだろう。

なお、伊丹伊織さんからメールがあり、自身のメールアドレスを載せて欲しいとの要望がありましたのでここに載せることにしました。



 とても初めて闘牛を観た人とは思えない観戦記だ。このHPを読んでこれだけ闘牛が理解されたのが大きな驚きであり、こういう風にしてHPを読んでいただけたら本望だ。どうせだれも読まないだろうけど、自分の観た闘牛を記述しておきたかったので、書いていただけなのに、ほぼ全部読んでいる人が居て、しかも闘牛を1回観ただけで理解したようなのだから。

 なかなか闘牛の見方を教えても消化して貰えないのだが、正確に闘牛を観てきたのがこの観戦記を読んで頂けたら解るだろう。こういう風にHPを活用して頂けたら本当に嬉しい限りだ。

 また、ホセ・トマスを初めて観たことも大きいと思う。この観戦記には、幸福な闘牛との出会いがある。僕が言うのは何だけど、非常に羨ましい出会いだ。  por 斎藤祐司

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