ピカドール、アンデルソン・ムリージョの歴史的なグラン・クイダッソ!エスプラと共に場内1周!

2001年6月9日、マドリード、ラス・ベンタス闘牛場。(第1級闘牛場) 

 小雨の降り続くラス・ベンタス闘牛場。ノー・アイ・ビジェテ。

 ビクトリーノ・マルティン牧場。闘牛士、フランシスコ・エスプラ、マヌエル・カバジェーロ、ウセダ・レアル。

 フランシスコ・エスプラは、やっぱりプロである。職人である。2頭とも素晴らしかった。初めの牛は角が開き上を向いている牛だった。ベロニカを繋ぐが脚は悪くならない。ピカは左肩上。2度目は少し背骨より。あまり良いピカでない。カバジェーロのキーテは、ベロニカを繋ぎラルガ。あまり良くない。いやな予感は当たったが。彼はこの日悪かった。バンデリージャはエスプラが打った。1度目は、左に回り角の真ん中で打つ。2度目は、遠くから牛に向かって走っていき左に回って角の間で打つ。3度目は、牛とタブラ(板の柵)の間が5mの方に向かって左に走って打ち喝采を浴びる。3度とも左に回って打ったが良いバンデリージャだった。

 ムレタは、右手から繋ぐが2回目のパセの後に座る。牛をアレナの内側に持っていきクルサードしてして右手のパセを繋ぎパセ・デ・ペチョ。沸く。ナトゥラルを繋いでいるときにコヒーダされる。牛はパセの後の返りが早い。これはビクトリーノの牛の特徴。右手を繋ぐと「オーレ」がなった。パセ・デ・ペチョ。場内が沸く。左手でムレタをファロールしてパセを繋ぐ。牛はアビオンする。ナトゥラルを繋ぐ。牛の返りが早く危ない。「オーレ」が続く。エスプラは牛を支配している。そして、凄い勇気だ。これは技術に裏打ちされてものだ。ナトゥラルからパセ・デ・ペチョ。「オーレ」と喝采がなる。剣を代え、スエルテ・コントラリアでメディアより少し多く入っている。場所は良いところ。牛が倒れる。白いハンカチが振られたが耳は出なかった。プレシデンテの判断は正しいと思う。

 2頭目は、感動的だった。この牛も角が開き上を向いていた。ベロニカを繋ぎメディア・ベロニカ。良い牛だ。ピカドールのアンデルソン・ムリージョが登場。初めのピカは、割と近くに牛が置かれた。ピカを持った右手を頭の上まで挙げて牛を誘い肩骨の間の背骨の上にきっちり刺した。見事。教科書通りのピカ。2回目のピカは、牛が遠くに置かれた。馬はタブラの所で待っていた。馬の向きを変えて牛を受ける右側を牛に向け右手に持ってピカの上の方を持って下はアレナに着けピカを前後に振る。牛はその動きを観て馬の方を見、体の向きも変えた。それから馬を前に歩かせピカを持って誘う。牛動かない。馬を後ろにやりそれからまた前に歩かせてピカを頭の上に挙げ牛を誘う。牛動かない。馬を後ろにやり今度はさっきより前に馬を歩かせ誘うと牛が走り出した。牛は蛇行しながらやってきたがしっかりと肩骨の間の背骨の上にピカを入れた。物凄い喝采がなる。

 まさに感動的なクイダッソだ。そして、3度目も割と遠めに牛が置かれた。難なくさっきと同じように馬の向きを変えて牛を受ける右側を牛に向け右手に持ってピカの上の方を持って下はアレナに着けピカを前後に振る。牛はその動きを観て馬の方を観体の向きも変えた。それから馬を前に歩かせピカを持って誘う。ぴったし誘ったとおりに牛がやってきた。クイダッソの位置も3回とも同じ。非常に良いところに入った。闘牛場全体がピカドールのアンデルソン・ムリージョのグラン・クイダッソの虜だった。退場していくアンデルソン・ムリージョに観客は全員が立ち上がって喝采を送る。こんなクイダッソ観たことがない!胸が熱くなるプロの技だ。

 エスプラも男。アンデルソン・ムリージョが退場して行くまでアレナの中でバンデリージャを持ったまま待っていた。退場し喝采が鳴りやんでからバンデリージャを始めた。今度も3回とも左側に回っていって打ったが良いバンデリージャだった。喝采がなり今度も挨拶をした。ピカドールのアンデルソン・ムリージョがあまりにも良かったので観客も盛り上がってる。エスプラも乗った。

 ムレタは、右手のパセをするとブスカンドした。危ない牛。アレナの真ん中でナトゥラルを繋いでいたら続けて2回コヒーダされた。この牛は右も左も危ない。コルナーダは非道くない模様。ナトゥラルを繋ぐが牛の返りが早い。パセの後、体の後ろに牛の角がある。剣を代えてスエルテ・コントラリアでメディアに刺さる。牛が倒れ、観客はまた白いハンカチを振り続けたがプレシデンテは耳を出さなかった。物凄い口笛。そして、エスプラに対して物凄い喝采。出てきて挨拶。喝采が止まず場内1周。テンディド3とテンディド4の間にあるプエルタ・デ・クアドリージャの所にいたアンデルソン・ムリージョにエスプラが挨拶。そして、アレナに出てくるように呼んだ。アンデルソン・ムリージョとエスプラが並んで場内1周。物凄い喝采。エスプラも粋なことをするぜ。口笛を吹いて抗議する観客は1人もいない。長い間ラス・ベンタス闘牛場で闘牛を観てきたが場内1周の時ピカドールが一緒に回ったのを観たのは初めてだ。

 今日1番期待した、マヌエル・カバジェーロは全然ダメ。最低の出来だった。非常にガッカリした。

 ウセダ・レアルは、1頭目で良いところを見せた。前脚がコッホの牛だったがムレタでは良くパセを繋いで「オーレ」をならせた。ナトゥラルでも長いパセを繋いだ。剣が刺さらずピンチャソ4回。アビソ1回。カイーダで決まる。

 今日の主役は闘牛士ではなく、ピカドールのアンデルソン・ムリージョ。歴史に残るグラン・クイダッソだった。終わって厩舎の方に行くとアンデルソン・ムリージョがいた。僕の前を走っていったスペイン人がカセット・テープでインタビューを始める。待つこと3,4分。その間にアンデルソンと目が合う。インタビューが終わり、「アンデルソン。おめでとう。」と言うと「オンブレ」と言ってfuerte abrazo(強い抱擁)をした。本当に胸が熱くなってきた。アンデルソンは91年から長いこと同じコロンビア人としてセサル・リンコンのピカドールとして活躍した。だから何度も彼のピカを観ている。でも、今日ほど感動したことはない。セサルがアレナから去り、アンデルソンは自分の腕でスペインで食っていこうとしている。31日のアルミジータ。今日のエスプラについて手慣れたラス・ベンタスに2年ぶりに帰ってきた。そしてこの仕事ぶり。知り合いだからこそ感動も増すが、そんなの別にしても凄すぎる。明日の新聞はアンデルソンだろう。ついでに、ウセダ・レアルに付いているカルロス・アビラにも挨拶。「カルロ」というとこれまた「オンブレ」と握手。昨日のファン・モラに付いていた、モナギージョ・デ・コロンビアもそうだが、セサルの所に付いていたクアドリージャはみんな元気で良い仕事をしている。

 闘牛場の前にM夫妻がいた。話の初めはアンデルソン・ムリージョから。須美さん、番長も来た。番長は「いやー、今日のトゥリンファドールはピカドールだ。凄い。いやー、今日は面白かった。今日は面白かった。」と感激していた。須美さんも「凄い」というので、僕が、「セサルの所にいたときはあんな事しなかったでしょう。でも、今はスペインで仕事にありつかないとダメだからああやって自分を売らないと」と言うと首を縦に振っていた。

 アンデルソン・ムリージョ。良かったね。これでスペインでの仕事に不自由しなくなるだろう。何故なら間違いなく今年のサン・イシドロのメホール・ピカドールに選ばれるだろうから。今日はこれから、アンデルソン・ムリージョに乾杯だ。それにしても改めて思う。セサル・リンコンという偉大な闘牛士は、本当に良いクアドリージャを持っていたのだと。


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