2000年6月9日、ラス・ベンタス(マドリード)の結果

牛は良かったが、強風の中の闘牛。その中でみんな良くやった。
マヌエルお前が1番良いや。でも、耳切れよ!

por 斎藤祐司

 快晴の闘牛場。風が冷たく、冬のように寒かった。風が強くカポーテやムレタをまともに振れる状態ではなかった。これほど風が強いのも非常に珍しい。牛、ビクトリーノ・マルティン牧場。ファン・モラ、マヌエル・カバジェーロ、フランシスコ・エスプラに代わって、ホセ・ルイス・モレノ。

 ファン・モラは、この強風の中で、キーテで良いベロニカとメディア・ベロニカを見せた。1頭目では、手の低いナトゥラルを繋いで良いところを見せたが、牛がパセの後に巻き込むように回るので何度も危ない目にあった。風も強かったので何度もパセが出来なくて立っていた。右手でも足を大きく開いてパセをしたが牛はもう動かなくなっていた。剣は、ピンチャソ1回の後、バホナッソ。

 2頭目では、強風のためにカポーテをまともに振れなかった。右手のパセだと危ない牛で、ナトゥラルをした。牛はパセの後に巻き込むように回るのでついにコヒーダされる。腰を打ってタブラで少し休んでナトゥラルをしたがパセをこれ以上繋げない。牛が危なくなっていた。それでも右手を下が続かなかった。剣は半分入ったがバホナッソだった。

 マヌエル・カバジェーロは、この3人の中で最も技術があるところを見せた。いやひょっとしたら闘牛士の中で1番かも知れない。1頭目は、強風がなかったら耳になっていただろう。剣をムレタに添えてパセしようとしても強風が吹くのでしばしばパセが中断した。タキージャドールと剣の端が風で三角形の形になる。それでも、物凄く手を下げて出来るだけムレタに風が当たらないようにしてパセを繋いだ。

 また、ムレタを全く揺らさずに牛を誘ってパセした。これは並みの闘牛士じゃ出来ない。しかも、この強風の中でクルサードしながらそんなことやる奴なんてマヌエルだけだろう。風が吹いたときに股の間にタキージャドールの端とムレタを挟んで風が止むのを待ったり、あらゆる技術を見せた。ナトゥラルも手が低かったし、良いパセだった。勿論、クルサードもしていた。でも、そこまでやってもそれらをぶち壊しにしたのは、強風だった。剣は、スエルテ・コントラリアで、バホナッソで半分入った。アー、痺れたんだけどなぁ。

 2頭目は、ワクワクする牛だった。出てきただけで、拍手が起きた。体型、角の形、気性、どれを取っても良かった。ブルラデラに角を突き立て、カポーテに向かっていった。この牛は止まることを知らないようにカポーテが振られると直ぐに向きを変えてカポーテに向かってきた。それをマヌエルは子供をあやすようにこともなげにカポーテを振ってアレナの中央に持っていってラルガを決めた。心憎いばかりのカポーテ捌きだった。

 ピカは3回入ったが、マヌエルの牛の置き方、ピカドールの牛の誘い方は、今年のサン・イシドロで最高のものだった。3回目は、10m以上離れたところに牛を置いた。闘牛場がマヌエルの牛の置き方に驚き、ピカドールの牛の誘い方に喝采を惜しまなかった。唯一つ注文があるとすれば、ピカの刺し方だった。刺す場所が初めは左だったし、最後は後ろ過ぎた。それと深く刺しすぎた。これがなければもっと最高だった。このシーンは牛の強さ逞しさを象徴する。だから、観客は喜ぶのだ。これらを演出したのは、マヌエル・カバジェーロだった。

 観客は、この牛が良い牛であることを判っていた。マヌエルに期待が集まる。が、残念なことにピカですっかり体力を使ってしまい特長だった止まらないところは削り取られていた。クルサードして牛を誘い丁寧に忍耐強くパセを繋いだ。ここでもムレタを全く動かさないで牛を誘ってパセをした。この男、尋常じゃない。それでも牛はあまり動かなかった。ピカが悔やまれる。剣も上手く行かなかった。観客は牛の場内一周を望んだが叶わなかった。しかし、動かなくなったのだからそれで良いと思う。

 ホセ・ルイス・モレノは、1頭目の時は可哀想なくらい強風が吹いた。あれでやれっていうのが無理な話した。ムレタを持って立ってられないくらい強風が吹いた。牛も可哀想だ。勿体ない。風はアレナの土を舞い上がらせ白線の石灰をボカス様に強く吹いた。牛は、風で闘牛士に探りを入れるようになった。足は流れ腰が揺れるパセになった。でも仕方ない。まともにムレタを振るのは無理なのだから。剣は素晴らしかった。

 最後の牛は、頭を下げたまま、ずっとカポーテに向かっていく牛だった。10m以上カポーテに付いていった。前脚がコッホになったがそれでもその特性は失われなかった。僕の正直な気持ちはこの牛でマヌエルにやって貰いたかった。そうすれば良いパセを引き出せていただろう。モレノじゃちゃんと出来ない。クルサードはしていたし良くやったが、彼には技量が欠けている。残念だがそう言うことはハッキリ判るものだ。

 全体的に良い牛が出てきた。ビクトリーノ・マルティンの牛は良い牛が多いが闘牛士には非常に難しい。何故なら、油断すると闘牛士を探りに来るからだ。それに止まらない牛の時もある。こういう牛は、マヌエルのように技術がある闘牛士がやれば面白いが、モレノじゃ役不足だ。ファン・モラも良かった。惜しむらくは、エスプラに出てきて欲しかった。

 面白かったが、風でマヌエルの耳が消えたことが残念でならない。これで、今年のサン・イシドロは終わった。やっぱり後半に良い牛が出ると盛り上がる。ロサノはその辺を計算して牛を出しているんだろう。上手いな。彼等のやり方には不満はいっぱいあるけど。


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