大興奮の闘牛場。こんな牛、観たことない!アドルフォ・マルティンの驚きの牛!ペピン・リリア、コヒーダ。

2006年5月2日マドリード、ラス・ベンタス(第1級)闘牛場の結果。

 晴れのち曇り。初めはTシャツでも暑いが日が暮れると強風が吹き上着がないと寒い。コムニダ・デ・マドリードの日で、ゴヤ闘牛。アドルフォ・マルティン牧場の牛(Procedencia actual=現在の起源<基の血統>、マルケス・デ・アルバセラーダ(コンデ・サンタ・コロマ)牧場)。闘牛士、ペピン・リリア、ルイス・ミゲル・エンカボ、フェルナンド・ロブレニョ。プレシデンテ、マヌエル・ムニョス・インファンテ。7割くらいの入り。ソルのアンダナーダにて観戦する。開始18時30分、20時36頃終了。

 闘牛場に着いて切符を買い、プログラムを貰って席に着いた。プログラムを観て思い出した。今日は、アドルフォ・マルティン牧場だ。どんな牛が出てくるのか楽しみだ。そして、戦慄するような牛が出てくるかも知れないので、ドキドキでもある。そして、意にそぐわず、驚きの牛が出てきた。

 ペピン・リリア。今日はじめの牛は、トリル(牛門)から出てきて止まった。角が上を向いて体が締まっている。色は芦毛。観るからにアドルフォ・マルティン牧場の牛だ。その体型に対して拍手が沸いた。ベロニカを繋ぎメディア・ベロニカ2回でビエンの声が出て拍手。ピカは左前に2回入った。エンカボのキーテは、右角を通すベロニカを3回やった。これには疑問を持った。バンデリージャのあと牛は客席の誰かに捧げられた。膝を折ったデレチャッソを繋ぐと右角が短いのが判った。アレナ中央へ。距離を取りデレチャッソをするとブスカンドした。やっぱりと思った。左だろうと思ったが、ペピンはそれでもデレチャッソをする。

 3回パセを繋いでパセ・デ・ペチョ。拍手がなる。離れクルサードして2回デレチャッソを繋ぎパセ・デ・ペチョ2回。小さなオーレがなり拍手がなった。しかし、段々パセの繋がる回数が減ってきている。離れデレチャッソを2回繋ぐとブスカンドした。トゥリンチェラで牛の前に立って拍手がなった。離れナトゥラルをするとパセが長くなったがムレタを牛の角にはらわれた。ナトゥラルの方がムレタの動きに牛が着いてくる。が、こっちもブスカンドした。危ない牛。ナトゥラルをするとパセがメディア・パセになった。離れてデレチャッソを仕様としたときコヒーダされた。

 アレナに落ち動けなかった。バンデリジェーロたちがカポーテを振って牛の注意を引きつけた。立ち上がったペピンは、胸を押さえて苦しがっていた。タブラまで行って様子を見て息を整えて剣を代えて出てきた。拍手が沸く。ナトゥラルを繋ぐとやはりパセが短かった。もうこの牛から良いパセを引く出すことが難しかった。いくらクルサードしても牛が動かない。むしろ、自分の身を危険にさらすだけだった。アビソが鳴った。スエルテ・コントラリアで、メディアでテンディダのカイーダでしかも斜めに入った。デスカベジョ3回。それでも拍手がなったのは、コヒーダされたからだ。これがペピンの唯一の牛になった。あとは医務室に行ったままアレナに登場することはなかった。

 ルイス・ミゲル・エンカボが初めに相手にした牛は、ラス・ベンタス闘牛場の観客を大興奮させた。牛は出てきてブルラデロに行って角を突き立てた。木っ端が飛んだ。この牛にも観客が拍手を送った。ベロニカを繋ぐ。右角が短いのが判った。左はちゃんと通るが、右が短いので、繋ぎにくい。カポーテの振りが小さくなり小刻みに左右に振って牛をあしらってアレナ中央でメディア・ベロニカを決めた。拍手がなった。しかし、こういう牛だからこそカポーテを大きく振って牛に動きを覚えさせるべきだと思う。それを出来ないのか、それとも、エスプラのように牛を扱ったのか知らないが、頂けない。風が強かったというのも理由の1つかも知れないが・・・。

 この牛はピカの時に、観客を大いに驚かせた。牛を馬から遠目に置いた。牛はピカドールの誘いに直ぐに反応して馬に向かっていった。ピカは左後ろに入った。喝采がなる。次も遠目に牛を置いて誘うと直ぐに反応してピカは肩甲骨と背骨が交差する丁度良いところに入った。喝采がなった。3回目のピカはアレナのほぼ中央に牛を置いた。それでも牛は誘いに敏感に反応して馬に向かっていった。牛が走り出すと観客は歓声を上げて驚き、そして、喜んだ。ピカはさっきと同じ丁度良いところに入った。テルシオを替えるラッパが鳴った。しかし、エンカボはプレシデンテにもう1度やらせるように要求して牛をアレナのほぼ中央に置いた。ピカドールはピカをくるりと回してピカの着いていない、ただの棒の先を牛に向けて構え牛を誘った。牛を今度も敏感に誘いに乗って馬に向かっていった。闘牛場は揺れるような大興奮に包まれた。観客は総立ちになって喝采を送った。こんな牛、観たことない!ピカドールのラファエル・ダ・シルバに喝采が送られ、彼は帽子を取って挨拶した。素晴らしいテルシオ・デ・バラスだった。おそらくというか、間違いなく今年最高のテルシオ・デ・バラスになるだろう 。

 興奮の中、バンデリージャはエンカボが自分で打った。タブラに立ち牛はアレナ中央に置いた。そこから右に走ってバンデリージャを2本刺した。喝采がなる。次は左に走ってバンデリージャを2本刺した。喝采がなる。次が、アレナ中央に立って牛はタブラ付近に置いた。それから牛とタブラの間に向かって右に走っていってバンデリージャを2本刺した。喝采がなった。3回とも実はトロ・パサードだったが、こういう牛だからと言うのもあるから仕方ないのかも知れない。喝采に応えて挨拶をした。

 牛は観客に捧げられた。膝を折ったデレチャッソをすると右角が短かった。それからアレナ中央へ。遠くから牛を誘うと牛は直ぐにムレタに向かって走り出した。当然だろう。ピカであれだけの距離から呼べるのだから。しかし、右手に持ったムレタに向かって走り出した牛は、ムレタではなくエンカボ目掛けてやってきた。危ない。避けて距離を取った。でも思った。ムレタを出して牛を誘って牛が動いたら、来るまで待つのではなく、近づいたらムレタを少し動かして牛の注意をそっちに向けることによってパセが出来るのだ。例えば、セサル・リンコンのように。あるいは、ポンセだってそういうことをする。ポンセの方が極端にそうするので嫌みではあるが、セサル・リンコンのように牛を操ると言うことは、エンカボには至難の業だ。この辺が、1流に少し足りない闘牛士と超1流闘牛士の違いだ!セサルなら物凄いファエナになっていたような気がする。それとムレタをピコ(先)で誘っている。ムレタはあくまで面で使わないと牛を操ることは出来ない。

 離れまたデレチャッソを繋ぐがやはり右が短い。怖いので腰が引けている。左だろうと思っていたら、ナトゥラル繋ぐが、3回目のパセが短かった。それでまたデレチャッソをするがメディア・パセになっていた。それで剣を代えた。口笛が鳴る。角を間違えたからパセが通らなくなった。または、ムレタの振り方が悪いからパセが通らないのだ。非常に無万の残るファエナだ。スエルテ・ナトゥラルで牛を置き、斜めに剣が入った。口笛が鳴る。牛は膝歩きをして座った。どうして出来ないんだろう。ガッカリだ。

 ペピン・リリアがコヒーダされたために、エンカボは4頭目と6頭目の牛を相手にした。でも、観るべき物はなかった。彼は頭では闘牛を理解しているが、それを牛の前で表現できずにいる。やっていることの意図が分かるが、充分牛を扱えていなかった。非常に残念だ。

 フェルナンド・ロブレニョは、実に惜しいことをした。初めの牛で上手くすれば耳を切れたはずだ。それが残念だ。ポルタガジョーラから始め観客の気持ちを引きつけた。ベロニカをするが足を止めてパセを通せない。左右に振ってアレナ中央へ牛を持っていった。ピカは左中へ2回入った。バンデリージャが5本刺された。ファエナは、アレナ中に立って遠くから牛を誘って背中を通るパセから始めた。オーレがなる。パセ・デ・ペチョを決めると拍手が沸いた。離れデレチャッソ2回。クルサードして1回パセ・デ・ペチョ2回。この牛は、1回1回クルサードしてパセを繋がないと良いパセを引き出せないようだった。

 そうフェルナンドが初めてサン・イシドロに登場したあの衝撃的なファエナの様にパセを繋ぐべきだった。ナトゥラル繋ぐとパセが長かった。左角の方が良い。ビエンの声がかかった。牛が膝を着いた。クルサードして3回ナトゥラル繋ぎパセ・デ・ペチョ。拍手が沸いた。離れナトゥラル繋ぐと牛の角にムレタをはらわれた。それでもクルサードして3回長いナトゥラルが通った。クルサードを繰り返して手の低い長いナトゥラル繋いだ。ここまで良いパセを引き出せるのだから、せめてファエナの中盤からやっていれば耳を切れたかも知れない。パセ・デ・ペチョで牛の返りが早くなった。剣を代えて、スエルテ・コントラリアでテンディダで斜めに入った。剣刺しの時にフェルナンドが転んだが大丈夫だ。デスカベジョ1回。残念だった。


 ペピン・リリアは、コリーダ・ドゥーラの闘牛士。ムレタと体の間が開いてパセを通したり牛を誘うときに、ムレタを大きく揺らして誘う。それは彼のスタイルだがアドルフォ・マルティンや同じ血統のビクトリーノ・マルティンの牛ではムレタを大きく揺らして誘うと牛が怒って突進するようになるのだと、下山さんが言っていた。逆に、そういうことを判ってムレタを大きく揺らして誘わないのがフェルナンド・ロブレニョだった。彼はこの牛の扱い方を知っている。良いパセの引き出し方も知っている。惜しむらくは、それをファエナの初めから出していれば凄く面白い闘牛になっていた。エンカボは、上記の通り、技術が頭を裏切っている。初めの3頭が非常に面白く、あとの3頭がつまらない牛だった。

 今日の闘牛は、マス・ア・メノス(MAS A MENOS)と言うのだと下山さんが教えてくれた。初めの3頭が良く、あとの3頭が悪い闘牛。それにしても、2頭目の牛は凄かった。アレナ中央から馬に向かって走っていくのには興奮した。あんな牛、観たことがない!物凄い感動だった。牛に感動するトリスタの心境になった日だ。牛が野性的だと、ハラハラ、ドキドキの興奮が味わえる。本当に興奮で体がしびれるようだった。気持ちが勃起した闘牛だ。つまり、サンタ・コロマの血統のコリーダ・ドゥーラの闘牛。

 コヒーダされたペピン・リリアは、翌日、肋骨の骨折が判明し医師の診断では、10日から20日の怪我と発表された。


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