2000年6月2日、ラス・ベンタス(マドリード)の結果

ミゲル・アベジャン、流血!そして執念のプエルタ・グランデ!
後はだた、涙!涙!涙!

por 斎藤祐司

 とにかく結果だけを取りあえず伝えなければならない!そうしないと闘牛士に失礼だ!

 ミゲル・アベジャンは、1頭目の牛でコヒーダされた。傷口が開き肉が見えていたが血塗れになりながら手の低い長いパセを繋ぎ耳1枚を取る。

 最後の牛は、ソトルコがやるものと思っていたら、医務室の入り口からアベジャンが出てきた。闘牛場は拍手に包まれた。そして、1頭目と同じく、ポルタガジョーラ前で、ラルガ・カンビアールから始めた。牛とのタイミングが悪く危うくコヒーダされそうになったが上手くかわしてベロニカを繋ぐ。闘牛場にオーレがコダマした。キーテは、体に近くを通すチクエリナを繋ぐと観客はオーレを絶叫した。ラルガを決めると観客は立ち上がって喝采を送った。ブリンディースは、ロベルト・ドミンゲスに捧げられた。TV中継の解説をやっていたロベルトは、感激で胸が詰まって解説が出来なかったそうだ。これは、下山さんの話だ。

 ムレタは、アレナの中央に立ってブルラデラにいる牛を誘うと牛は走りだした。アベジャンは、両足を揃えて右手で持ったムレタで誘い背中から牛をパセし、振り向いた牛を前からパセし、また、背中から牛をパセし、振り向いた牛を前からパセを繋ぐと闘牛場の観客はオーレを絶叫した。

 観客はみんなアベジャンの見方だった。出てきただけで喝采が起き、カポーテで感動を与え、ムレタで感情を絞り出した。足を大きく開いた手に低い長いパセが繋がるとオーレはさらに大きく闘牛場にコダマした。ナトゥラルを繋ぐと牛がアベジャン方に向かってきた。それでも繋ぐとまたコヒーダされた。闘牛場は悲鳴に変わった。

 立ち上がるとまた、コヒーダされたと同じナトゥラルを繋いだ。オーレ!闘牛場に感情を帯びた声がコダマした。右手の足を大きく開いた手の低い長いパセが決まると観客は総立ちになった。観客は確信しただろう。この闘牛士がプエルタ・グランデに行くことを。剣は、スエルテ・ナトゥラルでピンチャソ1回。スエルテ・コントラリアで物凄い剣を決めた。

 観客は総立ちになって牛の倒れるのを待った。剣が決まった後、右手を上に上げたアベジャンが、牛の目の前に立った。バンデリジェーロにカポーテを振らせないようにして・・・。牛は最後の力を振り絞って思い切り首を振った。アベジャンの体は1回転してアレナに叩き付けられた。

 助け起こされてまた、同じように牛の目の前に立った。牛は口から血を吐き出しながら崩れ落ちた。闘牛場は白いハンカチで埋まった。白い闘牛服は真っ赤に血で染まり、観客の喝采に応えた。物凄い口笛の中でプレシデンテは耳1枚を出した。

 後は直ぐにプエルタ・グランデの前でアベジャンを待った。肩車されたアベジャンが大きく開かれたプエルタ・グランデから出てくるとアフィショナードは、「トレロ、トレロ、トレロ」口々に叫んだ。アベジャンの写真を撮った。彼は、右足の尻の下を切っている。痛そうに肩車から降りて車に乗った。僕の横に、涙をボロボロボロボロ流していた女の子がいた。彼女は声にならなかった。ただ、ミゲル・アベジャンを観て涙していた。

 あの瞬間の彼女の顔がとても美しいと思った。写真を撮っていると怒られたがとても美しい顔だった。帰りのメトロでは下を向いていれなかった。何故なら涙が流れてくるからだ。人前で泣くなんて・・・。でも恥ずかしい涙じゃない。僕は堂々と涙を流していた。部屋に帰ってきて下山さんにTELを入れた。

 2人とも、TELで泣いて話せなかった。あーこんなに感動したら1年間また、一生懸命生きていける。ありがとうミゲル・アベジャン!ありがとう、ラス・ベンタス!ありがとう、プブリコ・デ・マドリード!そして、闘牛、ありがとう!

 それにしてもミゲル・アベジャンの死んでも良いって言う気迫は物凄い!牛の前に体をさらして、命懸けで闘牛をする。この闘牛に文句を言う奴は生きるのを辞めろ!こんなに体を張ってまでやらなければ、ラス・ベンタスではプエルタ・グランデが出来ないのだ。本当に価値のあるプエルタ・グランデだった。ありがとう御座います。君のことをマドリードの観客は忘れないだろう!


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