泣けたぜ、フェルナンド・ロブレニョ!男は血だらけになって命を懸け、観客の心に感動を伝えた!
剣で耳が2回とも消え場内1周が2回。

2003年5月28日マドリード、ラス・ベンタス闘牛場(第1級闘牛場)の結果。

 晴れのラス・ベンタス闘牛場。1頭目、3頭目、6頭目バルデフレスノ牧場、2頭目、4頭目、5頭目フライレ・マサス牧場。第1ソブレロ、ハビエル・ペレス・タベルネロ牧場、第2ソブレロ、エル・シエロ牧場。闘牛士、ファン・モラ、リベラ・オルドニェス、フェルナンド・ロブレニョ。ほぼ満員。テンディド6でTさんと観戦す。

 今日は兎に角、フェルナンド・ロブレニョのことから書かなければならない。何という男なんだろう。普通じゃない。いや、異常だ。こんなにしてまで命を懸けて闘牛をするか?いつ死んでも可笑しくない。牛の前であれだけ生身の肉体をさらけ出したら死んでも可笑しくない。そういう風に観客に感じさせてしまうのが、今日のフェルナンド・ロブレニョだった。

 3頭目の牛が出てくるとラルガ・カンビアールの3連発。それから綺麗なベロニカを繋ぐと闘牛場に「オーレ」がこだました。ゆっくりとしたメディア・ベロニカを決めると立ち上がって喝采を送る。フェルナンド・ロブレニョのやる気がストレートに観客に伝わってくる。最後のバンデリージャを打つと牛が倒れた。ヤジが飛び口笛が吹かれたが牛は代わらない。フェルナンド・ロブレニョはこの牛を、レアル・マドリードのジダンとロベルト・カルロスに捧げた。

 右手の膝を折ったパセから始めデレチャソを繋ぎパセ・デ・ペチョ。「オーレ」がなる。牛を中央に持って行って、クルサードしてデレチャソを繋ぎパセ・デ・ペチョ。一旦牛から離れムレタを背中の方に隠してクルサードする。真剣な表情で何か声を出しながら自分に気合いを入れているようだ。クルサードし終わったらデレチャソを繋ぐ。「オーレ」がなる。パセ・デ・ペチョ。喝采が鳴る。牛から離れナトゥラル。ムレタを体の後ろに隠してクルサードする。長いパセも繋がったが牛が段々動かなくなってきた。それをクルサードを繰り返しながらパセを繋いでパセ・デ・ペチョ。喝采が鳴る。

 牛から距離を取ってクルサードしながら近づいて右手のパセを繋ごうとしたらコヒーダされた。「ギャー」という悲鳴が上がる。体が1回転してアレナに叩きつけられた。角傷はない。が、左顔面にベッタリ血が付いている。また直ぐに立ち上がってコヒーダされた同じ右手のパセを繋ごうと物凄い顔で牛に向かいクルサードする。拍手が沸く。パセが繋がると闘牛場に、「オーレ」が絶叫がこだました。血の付いた顔で顔を真っ赤にしてパセ・デ・ペチョをして牛の前で見栄を切ると観客は立ち上がって喝采を送る。後は剣だけだ。剣を代えに行った。

 もう闘牛場の観客は感動で興奮していた。フェルナンド・ロブレニョに耳をやるのは当然だと誰もが思っていた。スエルテ・ナトゥラルで牛を置いてピンチャッソ。「あー」という溜息が闘牛場を覆った。拍手がなる。大丈夫というような拍手が。スエルテ・コントラリアで牛を置いてまたピンチャッソ。また溜息に包まれた。拍手がなる。スエルテ・ナトゥラルで牛を置いて剣を刺しに行った。コヒーダ。牛の背丈ほどしかない小さな体が簡単に持ち上げられてアレナに叩きつけられた。「ギャー」という悲鳴がなり驚きの声で闘牛場は騒々しくなった。

 フェルナンドは、助け起こされたが気を失いそうになっている。それを気力を振り絞るようにして立ち上がり牛に向かっていった。俺は泣いていた。喝采が鳴る。剣はコントラリアで入っていた。牛の前で指を向けてポーズを取っていたが牛が倒れずデスカベジョ。1回で決めると観客は総立ちになって喝采を送る。残念ながら白いハンカチは振られない。でも、闘牛場は感動に包まれていた。ブルラデロに戻ってきて水で手や顔を洗ったり、コヒーダされた所を観たりしていた。モンテラはジダンが持っていた。ロベルト・カルロスも直ぐ近くのフェルナンド・ロブレニョを心配そうに観ている。ようやく気づいたようにジダンからモンテラを受け取った。

 牛が引きずられて退場すると再び闘牛場が喝采に包まれた。フェルナンド・ロブレニョはアレナに出てきて観客に挨拶した。喝采が鳴りやまずそのまま場内1周になった。それを批判する口笛は一つも鳴らなかった。闘牛場の観客が感動で興奮した。みんなフェルナンド・ロブレニョの味方だった。回ってきたフェルナンド・ロブレニョの顔は笑顔と言うより真剣な顔で体の痛さを堪えているような感じがした。左顔面は血の後が未だ残っていた。泣けた。涙が目からこぼれ落ちた。感動で胸が熱くなる。凄い男だ!場内1周を終えたら直ぐにエンフェルメリア(医務室)に向かった。それをTV中継のレポーターがカジェホンの中を付いてインタビューしていた。

 6頭目。オルドニェスへの罵声と口笛が止む頃、エンフェルメリアの扉が開きフェルナンド・ロブレニョが出てきた。俺はそれを観た瞬間、「バーモス・フェルナンド」と叫んでいた。闘牛場に再び現れたフェルナンド・ロブレニョへ喝采が送られた。牛が悪く2頭交換になった。代わった牛もそんなに良くなかった。フェルナンド・ロブレニョのパセもそんなに良いパセではなかったが、感動があった。そして観客はみんなフェルナンド・ロブレニョの味方だった。この牛でも何度もコヒーダされそうになった。その度に悲鳴が上がった。パセ・デ・ペチョをやった後、見栄を切ると喝采が鳴った。危ない牛でも萎えることがないやる気とテンションの高さは変わらない。もう剣が決まれば、「俺たちが耳を出してやる」という雰囲気が闘牛場の中に充満していた。しかし、今度もピンチャソ1回。その後、決まった。コントラリアで前の方に刺さっていた。それでも今度は白いハンカチが一斉に振られ闘牛場全体を覆った。耳は出なかった。しかし、また場内1周。

 この男、命を懸けて闘牛をやっているのが初めて闘牛を観た人にも解る。だから観客は興奮し感動する。俺の隣にいたそんなに闘牛を観たことがない青年が6頭目のそんなに良いわけではないパセが続いているのに興奮で手が真っ赤になるくらいまで拍手を送って興奮していた。フェルナンド・ロブレニョの闘牛はそういう人が観ても闘牛の神髄を感じることが出来るのだ。フェルナンド・ロブレニョはこういう闘牛をしていたらいつ死ぬか解らない。今の内に見に行っておいた方が良い最も重要な旬の闘牛士の1人だ。

 ファン・モラは1頭目で見せ場を作った。例の両脚を揃えてするナトゥラルは美しい。今日何もやらなかったのは、お坊ちゃま、リベラ・オルドニェス君。何にもないなぁこいつ。あるのは闘牛士一族という家柄と目が綺麗な青年ってだけ。「お坊ちゃまぁー、闘牛って言うのはクルサードするところから始まるんですよぉー」 「お坊ちゃまぁー、剣を刺しに行くときは牛の頭が下がっているときはムレタを振って頭を上げてから刺しに行くものですよ」  「お坊ちゃまぁー、ピンチャッソは1,2回、多くて4回くらいにして下さい。10回もやるもんじゃございませんよぉー」


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