インクレイブレ!非道い牛で良くあんなファエナが出来るホセ・トマス!難しい牛で良いファエナ、エウヘニオ。

2002年5月28日マドリード、ラス・ベンタス闘牛場(第1級闘牛場)の結果。

 晴ていて強風の吹くマドリード、ラス・ベンタス闘牛場。牛、アルクルセン牧場。闘牛士、ホセリートに代わりダビ・ルギジャーノ、ホセ・トマス、エウヘニオ・デ・モラ。ノー・アイ・ビジェテ。テンディド6、バッホにてYさんと一緒に観る。今年初めてファン・カルロス国王が来てソンブラのバレラにて観戦する。

 1頭目から、5頭目までは非道い牛ばかり。殆どの牛が後ろ脚に欠陥があった。パセの時バランスが悪く、首と前脚は外を向いて後ろ脚がついていけず転けそうになったり、マンソで、しかも、直ぐに膝を着いたり非道い牛場からが出た。

 ダビ・ルギジャーノは、この前耳を切ったのでチャンスが与えられたが、後の2人に比べれば明らかに劣っている。1頭目の牛はまあ良いとしても、4頭目の牛では非道かった。右手の膝を折ったパセから始め、ろくにクルサードをせずにパセを繋ごうとするが、怖くて腰が動く、逃げ腰のパセ。怖いから、牛の目の前でムレタを左右に振っているだけ。直ぐに剣を代え、テンディダで決めた。それでは牛は倒れないので、デスカベジョをするが5回失敗。アビソが鳴る。その後、2回目に決まる。が、物凄い口笛。このクラスの闘牛士は、与えられたチャンスは罵声を浴びても口笛を吹かれてもドンドン出るべきだ。持っている能力が超1流なら、マヌエル・カバジェーロのように良い闘牛になれるのだから。

 ホセ・トマス。2頭目の牛は非道かった。5頭目の非道かった。だから牛は国王には捧げなかった。カポーテは振ると逃げるマンソ。足を止めたベロニカが出来なかったが、カポーテを外側に大きく振って牛に頭を下げて向かってくるように調教を始める。ムレタでも始めは膝を折ったパセを繋いで牛に動きを教えていた。クルサードして丁寧にパセを繋ぐが牛の動きは始めから良くない。それでも、クルサードして丁寧にパセをしていると、調教の効果が徐々に現れてきた。牛は少しずつ動くようになった。それでも、良いファエナなんて期待できるような状況じゃない。

 ホセ・トマスは諦めない。兎に角しつこいくらい丁寧にクルサードとパセを繰り返す。すると、牛はもっと動き出した。ナトゥラルが決まり出すと、「オーレ」がなった。パセ・デ・ペチョの後、距離を取って牛を休ませてから、またナトゥラル。長いゆっくりとしたパセが繋がると、「オーレ」の声は感情を帯びて叫ばれ出した。インクレイブレ!インクレイブレ!信じられない!もうこれは驚異的と言っていいような、ムレタ捌き、牛の調教だ。

 ホセ・トマスがクルサードすると拍手が沸く。牛が悪いと言っていたテンディド7の連中も黙ってクルサードしてパセを繋ぐホセ・トマスを見守る。ゆっくりとしたナトゥラルが長く繋がると、闘牛場は声を1つにして、「オーレ」を叫び続けた。パセ・デ・ペチョが決まると、剣を代えに行った。今日もまた長いファエナだ。アビソが鳴った。これに対する抗議の口笛が鳴る。アジェダード・ポル・バッホのパセを膝を折って繋ぐ。「オーレ」が続く。スエルテ・ナトゥラルで、バホナッソ気味にメディアで刺さった。剣を抜き、今度は良いところに決まった。耳要求があったが勿論でない。喝采が鳴り、挨拶に出てきてカジェホンに戻ろうとするホセ・トマスに喝采が鳴りやまず、場内1周を催促した。笑顔で場内1周。耳は取れなかったけど物凄く良い仕事をした。観客は充分満足した。

 こんな仕事が出来るのは1流の中の1流。超1流しかできない極上の仕事ぶりだ。

 エウヘニオ・デ・モラは、3頭目の牛を国王に捧げた。非道い牛だったけど始めからそうしようと思っていたのだろう。6頭目の牛は角が上を向いて頭の高い牛。これも難しい牛。ただ、カポーテを振っているときに、角が斜めになって旋回するようにパセしていたので、ちゃんとしたやり方をすれば出来そうな牛ではないかと思った。でも、バンデリージャを打つときには全然動かなくなる。後は、エウヘニオの技術、能力の問題。

 右手の膝を折ったパセから始めパセ・デ・ペチョ。もう始めから「オーレ」がなる。やっぱり判っている。クルサードして右手のパセを繋ぐ。ナトゥラルは物凄く手の低い長いパセ。「オーレ」が大きくなる。エウヘニオってこんなに手の低いナトゥラルをしたっけ。ビックリした。パセ・デ・ペチョの後、充分距離を取ってまたナトゥラル。手の引く長いパセが繋がると、「オーレ」がより大きく叫ばれた。そして、右手の大きくゆっくりとしたパセ・デ・ペチョ。闘牛場がドッと沸いた。こういう、大きくゆっくりとしたパセ・デ・ペチョはなかなか観られない。右手のパセを繋ぎトゥリンチェラで締めて剣を代えた。スエルテ・コントラリアで、何と、肩の肉を剣で刺し通して、剣が30cm以上腹の方に出ていたので、そのまま抜き、もう一度刺したが今度はピンチャソ。3度目はスエルテ・ナトゥラルでちゃんと決まった。これも剣が1回目でちゃんと決まっていたら耳を切っただろう。

 今日は、アルクルセンの牛が非道かった。この牛は97年ホセ・トマスが初めてサン・イシドロでプエルタ・グランデした時の牛。当然期待していたがガッカリだった。でも、ホセ・トマスのファエナには不思議な魔力がある。あんな牛を動かせる闘牛士は殆どいない。91年のセサル・リンコンなら出来るだろうが、他には思い浮かばない。兎に角、あれほど非道い牛で良くこれだけ牛を動かせるものだ。信じられないファエナだ。

 エウヘニオも、超1流。あの牛をあれだけ頭を下げさせ良いパセを引き出したのはその証拠になる。剣は馬鹿みたいなへまをやったが、まっご愛敬。

 終わってから、寿美さんMさんたちを会って少し話した。Mさんは、ホセ・トマスは耳は取れなかったけど凄いと言っていた。エウヘニオは、あの牛であんな良いファエナできるとは思わなかった。と、言ったので、僕は、出来ると思っていた。と、言ったら、本当と、笑っていた。

 ホセ・トマスとエウヘニオは良い仕事をした。今日はセサル・リンコンにも会って本当に長い1日だった。でも、良い酒が飲めるのかと思うと、嬉しい。


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