2000年5月28日、アランフェスの結果

マキシモ・トレロ!ホセ・トマス!
耳4枚。ホセリート、耳1枚。

por 斎藤祐司

 快晴のアランフェス闘牛場。ハンディージャ牧場。ホセ・マリア・マンサナレス、ホセリート、ホセ・トマス。ソルのバレラにて下山さんと観戦する。他に、エドゥー、米ちゃん、中崎君、と2名、合計7名でアランフェスにて闘牛を観た。

 マンサナレスは、何もしなかった。彼が演じた役割はホセリートとホセ・トマスの引き立て役だった。クルサードはしない。パセをすれば牛を遠くを通し腰が引けていた。牛を誘うときの距離もいつも同じだし、角度を変えて誘うこともしなかった。2頭目では殆ど牛の持っている能力を引き出すことを放棄して闘牛士としても義務を果たさなかった。剣刺しもバホナッソとメディアにしか刺せなかった。80年代に4回もNO1闘牛士になった彼も今年で引退。命を賭けて闘牛などもう出来ないのだ。稼ぐもん稼いだもんな。

 ホセリートは、立派に闘牛士としての義務も役割もファンの期待にも応えた。1頭目は、体の長い、頭の高い、首の細い牛だった。概ねこういう牛は、パセの途中で首を振ってムレタをはらうものだ。だから闘牛士にとっては決してやりやすくない、難しい牛なのだ。カポーテから牛に動きを教えていった。ベロニカを繋ぐとオーレがなった。ピカは左にずれて入った。馬は牛に倒された。キーテは、チクエリナを3回して、セルペンティーナ(片手でカポーテを回すパセ)を決めた。

 ムレタでは、膝を折ったパセから始めパセ・デ・ペチョ。オーレはなり音楽が鳴った。右手の手の低い、腰を反って腹を出した長いゆっくりしたパセを繋いで観客を引きつけた。ナトゥラルでも手に低い長いパセを繋いだ。この牛でこの様なパセが出来たのも、牛に動き方を教えていったからだ。膝を折ったパセから始めたのはそう言う意味があるのだ。

 パセ・デ・ペチョの時も誤魔化しはしていなかった。牛が動かなくなると、牛の鼻に触るかと思うところに立ってクルサードして牛を誘ってパセを繋いだ。クルサード度に、闘牛場は静かになり、パセの後、オーレがなった。右手でパセ・デ・ペチョを決めるとどっと沸いた。剣は、スエルテ・ナトゥラルで良いところに良い剣を決めた。耳1枚。

 2頭目では、牛に恵まれなかったが、良くやった。牛に持っている能力を充分出させた。耳にはならなかったが観客に不満はなかった。それは牛が悪いことを観客が知っていて、ホセリートが牛の持っている能力を引き出していることを判っていたからだ。こういうのを観ると、牛に対する尊敬の念をホセリートが持っていることが判る。

 ホセ・トマス。この名前を聞いただけで、闘牛場に足を運ばない人は闘牛ファンとは言わないだろう。それほど、今年のホセ・トマスはマキシモだ。

 1頭目の牛は首が太かった。ベロニカを繋いで中央でメディア・ベロニカを決めると観客はもう彼のものだった。キーテは、カポーテを後ろに持ち変えると、オーという声が闘牛場になった。ガオネラを繋いでラルガを決めるとオーレとがなり立ち上がって拍手した。ムレタでは、両足を揃えた両手のパセを繋ぎ中央へ。クルサードして手の引く長いナトゥラルを続けオーレを叫ばせた。

 牛が動かなくなってくると、クルサードしてムレタを振り牛の首の動きを確認してムレタを目の前に出してパセを繰り返した。クルサードしてムレタを振り目の前に出す。牛が動かない。クルサードしてムレタを振り目の前に出す。牛が動かない。クルサードしてムレタを振り目の前に出す。牛が動かない。クルサードしてムレタを振り目の前に出す。ようやく牛が動いた。しつこい。だがこういうことをやっているときの、間、がとても心地よい。

 剣を代えて、マノレティーナを繋いだ。牛をあまりにも近くを通すので悲鳴が上がる。案の定コヒーダされる。上着の背中が2カ所縦に引き裂かれていた。助けられた後、破れた上着のままでまた、マノレティーナを続けた。オーレの声はより一層大きく叫ばれた。剣はケチの付けようがなかった。牛は直ぐ倒れ耳2枚。凄い盛り上がり、凄い興奮だった。

 2頭目は、体つきの良い牛だった。走り回っているときもブルラデラに角を突かない賢い牛だった。こういう牛が僕は好きだ。だが、カポーテでベロニカを綺麗にやれなかった。力がなかったのだ。それにパセ後には、コッホになっていた。ピカが入るともっと悪くなった。

 ムレタでは、牛との距離を取って誘った。遠くから牛は吸い寄せられるようにムレタに向かって走っていった。オーレ。右手を繋いでパセ・デ・ペチョ。オーレ。また距離を取って牛を誘った。ムレタを振るとそこに向かってくる牛だった。オーレ。右手でトゥリンチェラをして、牛を回した。もう一度、トゥリンチェラをして牛を2回転させるパセをすると、闘牛場は興奮に包まれた。物凄いパセだった。観客は立ち上がって拍手した。

 ナトゥラルでも、パセをして一歩足を引いてまたパセ。パセをして一歩足を引いてまたパセ。と、何度も繋ぎ、オーレが続いた。左手のパセ・デ・ペチョの時に、コヒーダされる。悲鳴がなり、牛の下になったホセ・トマスは動かなかった。角に刺されているのじゃないか、アレナの上にいる彼がいつ角に首や胸を刺されるのか心配だった。

 助け起こされると、タブラの方にゆっくりと歩いていってムレタと剣を代えて呼吸を整えた。

 それから最後のファエナの仕上げに入った。膝を折って牛を誘う。牛はもう疲れていた。ムレタの前で牛が止まる。ムレタと、ホセ・トマスの顔と、牛の顔が正三角形になったままその位置に止まっていた。観客は息を潜め彼がコヒーダされないことを祈った。そのままの姿勢でムレタを動かすと牛はムレタに向かって動き出した。オーレ!

 反対側に行った牛をもう一度膝を折って誘った。牛はまたムレタの前で止まった。ムレタと、ホセ・トマスの顔と、牛の顔が正三角形になったままその位置に止まっていた。観客は息を潜め彼がコヒーダされないことを祈った。そのままの姿勢でムレタを動かしても牛は動かなかった。正三角形の位置は変わらなかった。そのまま何秒かが過ぎた。もう一度ムレタを動かすと牛はムレタに向かって動き出した。オーレ!

 反対側に行った牛をもう一度膝を折って誘った。牛はまたムレタの前で止まった。ムレタと、ホセ・トマスの顔と、牛の顔が正三角形になったままその位置に止まっていた。観客は息を潜め彼がコヒーダされないことを祈った。そのままの姿勢でムレタを動かしても牛は動かなかった。いや正確には、牛はホセ・トマスの方をちらっと観た。観客は悲鳴を飲み込んだ。声を上げたらやばいからだ。そのまま何秒かが過ぎた。もう一度ムレタを動かすと牛はムレタに向かって動き出した。オーレ!

 それから牛が膝を折ったパセにちゃんと反応するようになった。パセを繋ぐと観客は狂気のようにオーレを叫び続けた。最後のパセ・デ・ペチョが決まると立ち上がって歓喜の声を上げた。剣は、スエルテ・コントラリアでメディアにバホナッソに入った。デスカベジョ1回。牛が倒れると白いハンカチが闘牛場を360度囲んで揺れた。トレロ・トレロ!口々に叫ばれた。バホナッソは関係なかった。耳2枚。

 闘牛が終わった後、7人で話した。エドゥーは、「マンサナレスは最低。何にもしない。ホセリートは素晴らしい。ホセ・トマスは最高」と言っていた。中崎君は、「去年より凄くなってません?」と聞いてきたので、「去年は物凄かった。物凄いことをやってた。でも、今年は、それに心が揺れるようになってきた。それが凄い」と、言った。闘牛を始めて見た子もいたが、「本当にありがとう御座いました。来て良かった」と、言っていた。

 僕は、闘牛が終わった後、ぐったりした。疲れた。本当に良い闘牛を観ると物凄く集中するから疲れる。これは物凄くつまらない闘牛を観た後よりもっともっと疲れる。でもこの疲れは、幸福な疲れだ。幸せを感じながら酒がなくても酔っている恋心のようなものだ。良い写真が一杯撮れた。これも真面目に命を賭けて闘牛をやってくれた2人の闘牛士のお陰だ。ありがとう御座います。


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