距離の魔術!セサル・リンコン剣が悪く耳1枚まで。連続のプエルタ・グランデを逃す。

2005年5月26日マドリード、ラス・ベンタス(第1級)闘牛場の結果。

 2005年サン・イシドロ第16日目。コリーダ・デ・ラ・プレンサ。快晴。無風で暑い。ハンディージャ牧場(1頭目、4頭目)、ベジョシジョ牧場(2頭目)、エル・プエルト・デ・サン・ロレンソ牧場(3頭目)、グアダレスト牧場(5頭目)、コンチャ・イ・シエラ牧場(6頭目)の牛(Procedencia actual=現在の起源<基の血統>、ファン・ペドロ・ドメク牧場など)。ソブレロ、エル・トレオン(セサル・リンコン)牧場の牛。闘牛士、セサル・リンコン、マティアス・テヘラ、ミゲル・アンヘル・ペレラ=コンフィルマシオン・デ・アルテルナティーバ。プレシデンテ、ホセ・マヌエル・サンチェス・ガルシア。今年9回目のノー・アイ・ビジェテ。テンディド1のバレラに、今年初めてファン・カルロス国王が観戦に来た。ソルのテンディド7の1列目で写真撮影しながら観戦する。19時開始、終了時間記録せず。多分21時30分頃終了。

 入場行進が終わった後、テンディド7から拍手が起こった。これは先日プエルタ・グランデしたセサル・リンコンに対してのものだったが、セサルは、ペレラのコンフィルマシオンと言うこともあったのか出てきて挨拶はしなかった。

 ミゲル・アンヘル・ペレラのコンフィルマシオン・デ・アルテルナティーバ。初めの牛では非道かった。ムレタが角に何度もはらわれていた。ペレラは未だこういう牛の扱い方を知らない。セサルなら判るだろう。おそらく耳1枚の価値があるファエナは出来ただろうが、ペレラには無理だった。この事は、5頭目セサルが同じハンディージャ牧場の牛を相手にして見せたファエナを観れば容易に想像がつくことだ。僕は観なくてもそれが判ったが・・・。6頭目は、ファン・カルロス国王に牛を捧げ、ちゃんとした闘牛をした。それでも耳が出るようなファエナにはならなかったけど、彼が良い闘牛士であろうと言うことを感じさせるファエナだった。

 セサル・リンコンは、もう少しの所で連続のプエルタ・グランデを逃した。また、記録への挑戦が始まるかと思ったが残念だ。2頭目の牛のベロニカでコヒーダされたが、牛をファン・カルロス国王に捧げた。こんな牛は良くないのに、やっぱり義理だろうなぁと思った。牛は、マンソで牛が動かなかった。ここに立って来なかったらしょうがない場所に立っているのにダメだった。牛が悪いのに抗議しない観客には失望した。ソブレロなら自分の牧場のエル・トレオンなのに。血統的に良いし、良い牛を出している。だから、期待したんだけど・・・。

 5頭目の牛は走ってきてブルラデロ前で止まった。目が良く見えているのだ。足の止まったベロニカが4回続くと、「オーレ」が鳴りメディア・ベロニカを決めると喝采がなった。牛は悪くない。ピカは、左後ろに2回入った。アドルフォが2回良いバンデリージャを打って喝采を浴び挨拶した。セサルは牛を遠くに置いてファエナを始めた。バンデリジェーロがブルラデロから出てきて牛を動かそうとしたがセサルは戻るように手を振った。バンデリジェーロは信じられないというような感じでブルラデロの中に消えた。30mか40mの距離離れていただろう。その距離で立ち位置を決めてデレチャッソでムレタを振って牛を誘った。闘牛場の観客は静寂の中で見守った。牛が見える距離の限界を超えているのに牛は、ムレタに向かって走り出した。闘牛場の観客から驚きの声が上がる。牛がムレタに吸い込まれると観客は、興奮を、「オーレ」の声に乗せて叫び始めた。4回リガールしてトゥリンチェラ、パセ・デ・ペチョを決めると喝采がなった。

 それからゆっくり牛から離れまた、30mか40m距離を取ると観客は驚きと喜びのような声を出した。これが他の闘牛士には真似の出来ないセサル・リンコンの距離の魔術だ。それから闘牛場はシーンとなった。セサルが立ち位置を決めてデレチャッソでムレタを振って牛を誘うと、牛はまた、まるで魔法にかかったようにムレタに向かって走り出した。驚きの声が上がる。セサルは牛を誘ったままの姿勢でピクリとも動かない。牛が近づいてきてからようやくムレタを振って手の低い長いデレチャッソをリガールした。「オーレ」がこだまする。闘牛場の観客は確信しただろう。こんな距離から牛を呼べる闘牛士は他にはいないと。もう完全に闘牛場の観客はセサルのものだった。

 それからまた牛に背を向けて距離を充分にとってデレチャッソで誘う。牛はセサルの魔法にかかってしまった妖精のようにムレタに向かって走り出した。手の低い長いデレチャッソを4回リガールすると、「オーレ」の声は絶叫に近い叫び声でこだました。パセ・デ・ペチョが決まると観客は立ち上がって喝采を送った。凄い感動が闘牛場を包み込んでいた。それから距離を取ってナトゥラルで牛を誘う。こっちでも長い距離から牛を呼べる。手の低い長いナトゥラルが続くと、「オーレ」の絶叫がこだました。パセ・デ・ペチョで喝采がなる。

 距離と間を取り牛に一時の休憩を与えてからナトゥラルで牛を誘う。手の低い長いナトゥラルを繋ぎトゥリンチェラ、パセ・デ・ペチョで喝采が、「オーレ」をかき消した。闘牛場の観客は興奮を隠そうとしなかった。セサルが剣を代えている間、ずっとザワザワしていた。スエルテ・ナトゥラルで剣を構えた。レシビエンドをするかと思ったが、ボラピエで剣刺しをしてバホナッソに剣が決まると観客は一斉に立ち上がって歓声を上げた。牛は直ぐに倒れた。闘牛場の観客は興奮で白いハンカチを振り続けた。口笛が鳴る。プレシデンテが耳1枚を許可する白いハンカチを1回出したが未だ足りないと観客は興奮で白いハンカチを振ったが2枚目は出なかった。何故なら剣がバホナッソだったからだ。もし良いところに決まっていたら耳2枚出でていただろう。残念だ。連続のプエルタ・グランデは叶わなかった。が、素晴らしい、そして、誰にも真似が出来ない感動的なファエナだった。

 耳1枚をアルグシルから受け取り場内1周が始まった。そこかしこにコロンビアの国旗が見える。僕はファエナ中に叫び声を上げそうになるくらい興奮した。写真を撮っていたら知らないうちに目から涙が流れていた。満面笑みのセサルがゆっくりとアレナを歩いている。イドロ・デ・マドリードが帰ってきたような姿だった。コロンビアの帽子も投げられる。コロンビアの国旗も。バッグも投げられてそれにコロンビアの国旗を結びつけて肩にかけて両手を挙げて歩いている。あー本当、91年の頃のセサルを思い出した。良かった。今年もサン・イシドロに来て本当に良かったと思った。

 マティアス・テヘラは、3頭目の牛が悪くソブレロが出た。これが良い牛で、ファン・カルロス国王に捧げたのに耳を切れない。耳を切れる牛なのにそれが出来ない。失望した。もし、2頭目のセサル・リンコンの時にこのソブレロが出ていたら、確実に耳1枚以上のファエナが出来ただろう。それを思うと余計残念。ミゲル・アンヘル・モンチョリの番組に出ていた新聞記者が、野心が不足していると言っていたが、本当に向上心がない奴だ。このままで良いと思っているその根性が闘牛士人生を縮めるだろう。

 誰にも真似の出来ないファエナで闘牛場の観客を熱狂させたセサル・リンコンは、これで耳3枚目を取った。おそらく、今年のサン・イシドロのトゥリンファドールは確定的だ。後は、エル・カリファとエル・シドに可能性があるが、どちらもあと1回しか出場機会がない。エル・シドは剣が悪いからよっぽどのことがない限り決定的な状況だ。

 闘牛が終わった後、コリーダ・デ・ラ・プレンサの表彰が行われ、ファン・カルロス国王から、この日のトゥリンファドールのセサル・リンコンにトロフィーが贈られた。

 M夫妻、番長、三木田さんと終わった後、話した。みんなあの距離は凄いねと驚いていた。距離だけじゃなく離れてここで良いと止まったところから誘うとちゃんと牛が動くの驚いていたのだ。三木田さんは、あの距離から誘って牛が動いた瞬間、鳥肌が立ったと興奮していた。翌日、実兄でモソ・デ・エスパーダのルイス・カルロス・リンコンにTELしておめでとうを良い、セサルは、マエストロ・デ・ディスタンシアだ、と、言ったら嬉しそうに笑いながらありがとうサイトと言っていた。セサル・リンコンは、40歳目前にして円熟のファエナをラス・ベンタス闘牛場で披露した。これだけ牛を扱える闘牛士が何処にいる?皆無だ!ビバ・セサル!


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