ウセダ・レアルの耳を握り潰した気難しい観客!エル・ベントリジョの凄い牛、場内1周!モランテ、剣刺しで耳消える。

2003年5月26日マドリード、ラス・ベンタス闘牛場(第1級闘牛場)の結果。

 晴れているが風が冷たいラス・ベンタス闘牛場。ヌニョス・デル・クビジョ牧場に代わりアストルフィ牧場5頭、エル・ベントリジョ牧場1頭。ソブレロ、エル・ベントリジョ牧場。闘牛士、フィニート・デ・コルドバ、ウセダ・レアル、モランテ・デ・ラ・プエブラ。ほぼ満員。テンディド6でYさん、Tさんと観戦す。

 ヌニョス・デル・クビジョ牧場の牛が獣医検査で不合格になった為、代わりに、アストルフィ牧場5頭、エル・ベントリジョ牧場1頭が出場。レグラメント(闘牛規定)により切符の払い戻しも実施された。が、代わって出場した牛は良い牛が多かった。特に5頭目のエル・ベントリジョ牧場の“カンティネロ”は場内1周をした。

 フィニート・デ・コルドバは、出来る牛で何もしなかった。何をやっているのか?去年までは色々弁解もする気にもなったが、今日の闘牛を観てフィニートって終わったと思った。ダメだこりゃ。昨日のアルフォンソ・ロメロは何もする能力がない。フィニートは出来るのでそれをしない。レベルはかなり違うが・・・。

 ウセダ・レアルは、フィニートのやった2頭を相手にしていたら簡単だったろう。今日2頭目の牛は非道い牛で、ダメだった。それでもやることをやっていた。今日1番問題になったのは5頭目のエル・ベントリジョ牧場の牛。ピカの時に遠くから呼んで来る牛。観客は喜んだ。ベンタスの観客はこういう牛が好きだ。そしてこういう牛はビクトリーノ・マルティン牧場の様な牛が多い。

 ファエナは、右手の膝を折ったパセから始めた。牛の動きが素早い。パセをした後の返りが早い。始めから「オーレ」がなった。ナトゥラルでも同じ。牛はムレタを出せば向かってくる。クルクル回ってパセをリガールできる。デレチャソでもナトゥラルでも。パセをすると返りが早いから足の直ぐそばに角がある。それをアグアンタールしてパセをリガールする。こう書いても判らないかな?それを我慢して動かずにパセを繋いでいく。緊張感と牛の素早い動きに観客は興奮して、「オーレ」を叫び続けた。何度も危ない場面があったがそれをちゃんと交わして良いファエナを続けた。下手な闘牛士ならこういう風にパセを見事に繋げられないだろう。

 パセ・デ・ペチョの後の返りも早くすんでの所で角に刺されずにすんだ。これもまた重要な技術だ。牛が止まると見栄を切り喝采を浴びた。剣を代え、スエルテ・ナトゥラルでちょっとカイーダ気味の剣が入った。当然耳1枚だと思った。牛がなかなか倒れずデスカベジョ1回。ウセダ・レアルは文句なしに耳だと思っただろう。所が白いハンカチが殆ど振られなかった。ちょっと、ビックリ。これじゃ闘牛士が可哀想だ。あれだけ命を懸けて闘牛をし技術も見せていたのに・・・。

 しかし、それには理由がある。ラス・ベンタス闘牛場のオピニオン・リーダーはテンディド7だ。その連中がファエナの最中から口笛を吹いていた。今日のウセダ・レアルで問題だったのは2つ。1つは、この牛は距離を取って遠くから呼んで来る牛だった。この距離を見誤ったこと。もう1つは、牛が来る場所に立っていたこと。つまり、牛を誘ってパセを引く出すのではなく、牛が来るからパセをしていた。だから、牛を闘牛士がコントロールしていないと言うことが不満なのだ。

 おそらく、ウセダ・レアルはこの事が判らないだろう。何で俺は耳を切れなかったんだろう?と、思っていることだろう。耳が出ずにカジェホンの中で喝采を浴び、アレナに出る元気もないくらいだった。失望しただろう。ガックリ肩を落としてみんなに慰められていたそうだ。あれは闘牛士を潰しかねない。絶望的になるだろう。この前の耳の時のファエナより今日の方がずっと良かったじゃない。そう思っているだろう。実はその通りなのだ。ここラス・ベンタスの観客は完璧を求める。柔な闘牛士なんか直ぐに潰される。世界で最も気難しい観客がいるのだから。

 モランテ・デ・ラ・プエブラは、5頭目のウセダ・レアルが相手にした牛では闘牛が出来ない。6頭目の牛が悪く交換。代わって出てきたのがエル・ベントリジョ牧場の牛。パセをすると足の前に角が来る。こういう牛はモランテ向きじゃない。だから上手くできなかった。しかし、3頭目の牛では、カポーテからやる気満々。牛をパセする方にクルサードして行って美しいベロニカを繋ぐと「オーレ」がなった。メディア・ベロニカも実に綺麗。

 ファエナは、アジェダード・ポル・バッホから始めナトゥラルを繋ぐ。長いナトゥラルが決まると「オーレ」がなった。パセ・デ・ペチョ。拍手が沸く。デレチャソも手の低い長いパセをリガールする。「オーレ」が続く。トゥリンチェラが綺麗に決まる。もう左右のパセを、手を低く長いそれでいて腰の入った形の美しいもので綴った。ラス・ベンタスはモランテの美学に支配された。モリネーテ、ファロール、キキリキ、トゥリンチェラッソ。それらはモランテの美学の飾りでしかなかった。そして、牛との間に交わされている気迫も観客伝わっていた。それでも、テンディド7はクルサードが足りないとか、ピコだとか、言っていただろうが・・・。

 剣は、動いたりして牛を置きづらかった。ピンチャソ1回。拍手。レシビエンドを試みてまたメディアに近いピンチャソ・オンダ。デスカベジョ3回。耳は当然のように消えた。

 今日は良いものを観た。モランテは、剣を失敗して耳を失い、ウセダ・レアルは剣を決めたのに気難しい観客のせいで耳を握り潰された。あれで腐らなきゃ良いけど。ラス・ベンタス闘牛場の観客は世界で1番厳しい観客だ。だから、闘牛士の将来を平気で潰しかねないし、実際に何人もの闘牛士を潰して来ているのだ。さっ、明日エル・フリが出る。この気難しい観客の前でどうなるか?若いからといって許されていたことが、天才として大目に見ていたことが、人気があるからといってあまり非道いこと言われないで来ていたことが・・・・・・。明日の闘牛で、フリの闘牛士の将来が決まるかも知れない。俺はテスティーゴになるべく闘牛場へ行く。どうなるか、楽しみだなぁ。


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