ビクトル・プエルト耳1枚。ウン・ペダッソ・デ・トレロ。ファン・モンティエル、素晴らしい仕事

2001年4月25日セビージャ(第1級闘牛場)

 快晴のレアル・マエストランサ闘牛場。トレストレジャ牧場。闘牛士、エル・コルドベス、ビクトル・プエルト、ダビラ・ミウラ。

 エル・コルドベスは、2頭とも牛に恵まれなかったとは言え、クルサード不足。牛を誘うときに牛の角の間に自分の体を入れないので牛が動かない。また、誘うときの距離、角度に変化を付けなければ牛の集中力は維持できない。そんな基本的なことが未だに出来ていない。親の七光りではそのうち消えていくだろう。

 ビクトル・プエルトは、闘牛を楽しんでいる。彼のやろうとしていることが観客にも伝わるし、非常に分かり易い闘牛だ。技術も、知識も備わった1流闘牛士であることを証明した。1頭目の牛で、去年から始めたカポーテを縦に半分に折ってやるガオネラを繋ぎラルガをした。ベロニカもちゃんとカポーテを振っているし初めのテルシオから観客を飽きさせない。

 2頭目では、左利きの牛を相手にカポーテを振って牛に動きを教える調教をして見せた。ピカは左利きだったので3回とも左側に刺した。バンデリージャも3回ともバンデリジェーロが角の間でちゃんと打った。拍手が沸いた。ムレタは、膝を折ったパセで牛が動きやすいように大きく振って始めた。それから、アレナの中央に立って左側から牛を誘う。牛が動かず距離を縮める。明らかに体の後ろを通そうとする意図が分かる。距離が縮まって5m位になってちょっと近すぎると思っていたがそれでも牛を誘って後ろを通した。パセ・カンビアール。

 それから、右手のパセを左足を軸にしてムレタを牛に常に見せながら繋いだ。トゥリンチェロッソを繋ぎ観客を沸かせた。パソドブレが流れる。誘う前にムレタを振って牛の動きを確認してクルサードしてパセを繋いだ。どうすれば牛が意のままに動くか彼は分かっている。見本になる闘牛をやった。1頭目もそうだったが剣は良いところに刺さった。当然の耳だった。バレンシアでも耳3枚切ったしセビージャでも良い闘牛を見せた。4日にまた出る。楽しみだ。サン・イシドロでも耳が観れそうな気がする。

 ミウラは、基本的に牛を分かってない。誘うときの距離がいつも一緒だ。これでは良い牛の時は動くがそうじゃないときは何もできないだろう。今日は最後の牛が良かったので、良いファエナが出来た。でも、エル・フリのようにパセの時、腰を倒しすぎる。クルサードが足りない。カポーテ裁きが未熟だ。牛についてよく分かってない。

ファン・モンティエルの素晴らしいカポーテ裁き。

 今日はその他にどうしても書かなければならないことがある。それはミウラのバンデリジェーロのファン・モンティエルが今日見せたカポーテ裁きについてだ。

 バンデリージャを打つときにカポーテを裁くのはもう1人のバンデリジェーロだ。牛に負担をかけずに闘牛士に渡すために出来るだけ無駄なカポーテを振って牛を動かしてはいけない。でも、この事が分かっていてもなかなか出来ないもだ。今日のファン・モンティエルは、いっさい無駄なカポーテを振らず、牛を置くためだけに、振っていた。尚かつ、牛に負担をかけない穏やかな振り方で牛が通りすぎたら後ろ向きのまま離れていってバンデリージャが打たれるのを待った。

 カポーテの振り方、牛の置き方。無駄のない動き。完璧なまでに牛を操作した。3回目のカポーテを振ったときには闘牛場に、「ビエン」の声が上がった。長いこと闘牛を観ているが、バンデリジェーロのカポーテ裁きに「ビエン」の声が出るなどと言うことは始めての経験だった。バンデリージャも3回とも上手く打ったので拍手がなった。そして、観客はバンデリージャを打ったバンデリジェーロに対してよりも、カポーテを振っていたファン・モンティエルに対して喝采を浴びせた。モンテラ(帽子)取って観客の喝采に応えていた。

 セビージャのアフィショナード(闘牛ファン)はこういう細かい部分までしっかり観て、良いことをすると喝采を送る。素晴らしいことだ。そして、ファン・モンティエルのカポタソに感動した。こみ上げてくるものがあった。それは何も僕がファン・モンティエルの知り合いだからと言うわけではない。アルテルナティーバをして正闘牛士にまでなった男が、自分の名前では食えなくなって、闘牛士をサポートするバンデリジェーロになって生活をしている。

 陰に隠れているにせよ、闘牛というものを熟知した、牛というものを本当によく分かって闘牛の仕事をしているのが良く分かるカポタソだった。正闘牛士で食えなくてもこれだけの腕があればどこからでも声がかかる。92年セサル・リンコン。それから何人か渡り歩いて99年までリトリの所にいた。そして、去年からミウラの所。地味な仕事を出来るだけ地味にやっていても良い仕事は目立つものなのだ。

 彼は昔に比べれば髪の毛に白いものが目立ってきたが腕全然落ちていない。99年のサン・イシドロ祭では最優秀バンデリジェーロに選ばれている。闘牛が終わって退場の時に挨拶に行った。「ファン。良いカポタソだった。凄く感動したよ」と言って握手をした。嬉しそうに車の中に去っていった。良い仕事をした男の顔は何処か照れくさそうでもあった。  !Suerte Juan!


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