恐怖のための戦慄!コヒーダ!凄い感動!出してやれよ馬鹿野郎!
プレシデンテが拒否してセバスティアン・カステージャはプエルタ・グランデ出来ず!

2005年5月22日マドリード、ラス・ベンタス(第1級)闘牛場の結果。

 2005年サン・イシドロ第12日目。快晴。強風が吹いて非常のやりにくい、危ない場面があった。チャロ・デ・ジェン牧場(1頭目、2頭目、5頭目、6頭目)、ホセ・イグナシオ・チャロ・サンチェス・タベルネロ牧場(3頭目、4頭目)の牛(Procedencia actual=現在の起源<基の血統>、アタナシオ・フェルナンデス牧場)。闘牛士、ファン・ディエゴ、セバスティアン・カステージャ、セラフィン・マリン。プレシデンテ、セサル・ゴメス・ロドリゲス。今年6回目のノー・アイ・ビジェテ。ソルのテンディド5バッホにて、アナスタシアさん、Yさんと一緒に観戦する。19時開始、多分21時15分頃終了。

 ファン・ディエゴは、牛が悪かった。と言ってしまえばそれまでである。工夫がないファエナ。殆どの観客には何の印象も残らなかっただろう。それは、他の闘牛士の引き立て役でしかなかったからだ。そういう印象しかないのだ。4頭目の牛は、変えた方が良い牛だったがプレシデンテは観客の要求を無視した。悲しいかな来年からサン・イシドロには出れなくなるかも知れない。

 今日の主役はセバスティアン・カステージャ。この事に異議のある人は誰もいないだろう。闘牛場の観客の中には、怖くて怖くてしょうがなかった人が沢山いただろう。去年サン・イシドロで、闘牛場を墓場にしようとしたセバスティアン・カステージャが、今年も命賭けの闘牛を、再びラス・ベンタス闘牛場で行ったのだ。このフランス人の前にマドリードの観客は再び唖然呆然となった。半端じゃない呆れるほどの勇気、こんな牛でファエナが出来るのかと思っているとその牛での驚異的なファエナを目の前で見せられてはそれは当然だった。

 2頭目の牛で耳1枚を切る。が、牛は良くなかった。牛は出てきて後ろ脚を引きずっていた。ベロニカをするとパセの時に牛が飛んだ。こういう牛は前脚が弱い。それとパセが短く危なかった。ピカは、左前に入り馬が倒された。ピカドールが危なかったが危険を回避した。次のピカも同じ所に入った。バンデリージャが6本打たれ、ファエナは、膝を折ったパセから始め牛の動きを確かめた。牛をアレナ中央へ持って行きデレチャッソで牛を誘うが強風が吹く。その中でもパセを繋ぐこの根性。怖さ知らずの無鉄砲。風でムレタが半分くらいの面積になっているのにパセを3回繋いでパセ・デ・ペチョ。拍手がなる。

 距離を取り、デレチャッソで牛を誘いパセを3回リガールすると、「オーレ」がなった。レマテのパセ・デ・ペチョで拍手がなる。距離を取りデレチャッソで牛を誘い3回リガールしてパセ・デ・ペチョ。「オーレ」が続き拍手が沸く。こんなに動く牛?とても動きそうもない牛だったが、簡単にパセをリガールする。驚いた。離れデレチャッソで牛を誘い手の低い長いゆっくりとしたパセを4回リガールしてパセ・デ・ペチョ2回で牛の返りが早く危なかった。離れ今度はナトゥラル。2回目のパセの時にコヒーダされる。体も持ち上がり何度か振り上げられた。牛の前に落下した後も牛は角を振り回していた。ピカの時に、馬に必要以上に長い間角を突き立てたり押したりしていたので、コヒーダされたらやばいことになると思っていたが、その通りになった。ブルラデロからは誰よりも真っ先に、ホセ・アントニオ・カンプサーノが走ってきた。クアドリージャが後を追う。ようやく助け起こされた。足か腹に角が刺さったと思ったがコルナーダはないようだった。

 立ち上がると再びみんなの心配を振り切って牛に向かった。デレチャッソのパセを3回リガールすると闘牛場は、「オーレ」の声に包まれた。パセ・デ・ペチョ、手を変えてもう1度パセ・デ・ペチョで牛の前に立って見栄を切ると喝采がなった。剣を代えて、クルサードしてマノレティーナ2回。危ないのに手を抜こうとしない。クルサードし直してもう2回マノレティーナを繋ぎパセ・デ・ペチョで牛の返りが早く危なかった。それでも、「オーレ」と喝采がなった。スエルテ・ナトゥラルで牛を置いてバホナッソに近いカイーダで牛が座りプンティージャを刺すが牛がたった。また座って2回で牛が死んだ。闘牛場は白いハンカチに包まれた。耳を催促する口笛が沢山鳴った。プレシデンテは、耳1枚出すことを許可する白いハンカチを出した。嬉しそうに場内1周する。未だ少年も面影が残る顔でニコニコして耳をかざしている。初めてラス・ベンタス闘牛場で耳を切った。しかも舞台はサン・イシドロ。彼の勇気に観客は喝采を送った。

 エンフェルメリアに行くのかと思ったら本当に無傷だった。5頭目の牛が出てくると前脚がカックンカックンしていた。だから、ベロニカを繋ぐと膝を着いた。左角が危ない牛であることがパセの通り方で判った。パセの前に突進するのを躊躇するような動きだったので余計に扱いにくい牛であるのは容易に判った。ピカが右前に入る。2度目のピカも同じ所に前よりも長く強く入った。バンデリージャが6本打たれたが2本ずつ打った後にバンデリジェーロが振るカポーテに首を左右に振って何処に行くか判らない軌道で向かっていた。マンソでコンプリカドでペリグロだった。非常の危ない牛。こんな牛でファエナなど出来るわけがないと闘牛場の誰もが直感しただろう。ところが1人だけそう思っていない人間がいた。それがセバスティアン・カステージャだ。彼はアレナ中央へ向かうとこの牛を観客へ捧げた。喝采がなった。だが、誰も出来るとは思わなかった。

 タブラの方に歩いていって膝を折ったパセを繋ぐと、「オーレ」がなった。やるじゃないかと思っていたら、6回目のパセで、つまり左角でコヒーダされた。闘牛場に悲鳴が響いた。2頭目の時と同じように、ブルラデロからは誰よりも真っ先に、ホセ・アントニオ・カンプサーノが走ってきた。クアドリージャがそれを追う。ようやく助け起こされた。今度も無傷のようだった。奇跡的だ。また、みんなの心配を振り切って牛に向かった。アレナ中央でムレタを牛向かって出すと強風が吹いた。だだでさえコントロールしにくい牛なのにこの条件では非常に危ない。危険すぎる。それでもデレチャッソで牛を誘い3回リガールしてパセ・デ・ペチョをすると、観客は「オーレ」を叫んだ。正しくは怖くて声に力がないくらいだったが。

 それから離れデレチャッソ4回リガールしてパセ・デ・ペチョで、「オーレ」が続き喝采がなった。また離れブリンディースの時に投げたモンテラがひっくり返っていたのを剣で直すと観客が喜んだ。デレチャッソを4回リガールしてパセ・デ・ペチョで、「オーレ」が続き喝采がなった。クルサードしてないね。と、言うと、横のYさんが、出来ない出来ない。出来る牛じゃないものと、言った。その通りなのだ。でも、このファエナには感動があった。人の心を揺さぶる感動が・・・。デレチャッソで牛呼んで4回パセを通してパセ・デ・ペチョ。「オーレ」が続き喝采がなった。クルサードしていないからか、ナトゥラルを1回もしていないからか、口笛や三拍子の抗議の手拍子が少しなった。デレチャッソを繋ぎパセ・デ・ペチョ、トゥリンチェラで剣を代えた。アジュダード・ポル・バッホでパセを繋いだ。パセが短く危なかった。スエルテ・ナトゥラルでカイーダに剣が決まると観客は歓声を上げて立ち上がった。

 みんなが耳を確信した瞬間だった。アビソがなった。牛が倒れずデスカベジョ。1回失敗。溜息が漏れた。2回目で牛が倒れた。観客は一斉に白いハンカチを出して振った。ペティシオン・マジョリタリアと言っていい数の白いハンカチだった。口笛も鳴る。でも、2頭目の時よりも音が小さい。プレシデンテは最後まで観客の要求を拒否した。耳が出ない事への観客の不満が相当に大きい。また、耳を出さなかったことについてプレシデンテに拍手を送る観客も少数であるがいた。それはファエナでクルサードしなかったことや、ナトゥラルをしなかったこと、デスカベジョが2回だったことなど色々理由があるだろう。しかし、これほど感動のあるファエナをした闘牛士に耳を出さないと言うことが僕には納得いかなかったのだ。それでも耳出してやれよ馬鹿野郎!と、叫びたい!いずれにして観客は知っている。彼の尋常じゃない勇気と、恐怖を克服して牛向かう物凄い意志を。そして、理屈ではない感動がここでセバスティアン・カステージャというフランス人によって行われたことを深く記憶するだろう。

 セラフィン・マリンは、悪い牛で工夫して闘牛をしていた。距離の取り方も良かったし、クルサードもちゃんとしていた。ダメ牛からパセを引き出していたが、なかなか良いパセにはならなかった。3頭目の牛でコヒーダされて右手を痛めエンフェルメリアに行った。最後の牛でも彼がちゃんと闘牛をやっていたから、ファエナ中に口笛を吹かれることはなかった。だが、耳になるようなファエナではなかったのだ。今日はしようがない。

 今日の闘牛を、3つ星で判定すれば、セバスティアン・カステージャは、今年のサン・イシドロ中、セサル・リンコン、エル・シドと並んで最高の3つ星である。これは断言する。それに比べて、プレシデンテのセサル・ゴメス・ロドリゲスは最悪の黒星を付ける。牛は代えない、耳は出さないはで最低だ!何考えてるんだお前は!ファン・ディエゴは星なし。セラフィン・マリンは星1つ。牧場は星1つ。

 闘牛士はよく人間じゃないという言い方がある。今日のセバスティアン・カステージャを観ているとこの言葉がピッタリだと思う。いやそれ以上に凄いと思った。もう一つ頭に来たのは、アナスタシアさんが、セバスティアン・カステージャは凄いと思うけど好きじゃないと言ったことだ。こう言うのは理屈じゃないのだ。アベジャンじゃないとこういう闘牛を観ても感じないというのが、僕から言わせれば異常だ。ここで行われたものを本当に観たの?と、思ってしまう。こういう見方じゃ、良い闘牛が判らないんじゃないのかなぁ?ガッカリするよなぁ、もう。

 終わった後、みんなに会った。剣が決まったときまでは、プエルタ・グランデだと思っていたのに・・・。と。こういう反応がノーマルだ。正常だ。Mさんは、いやー面白かった。こんなに面白いとは思わなかった。若いからあそこまで出来るんだよなぁ。かみさんとか子どもとかいたら出来ねぇよ。と。マドリード、ラス・ベンタス闘牛場の観客は今日のセバスティアン・カステージャを絶賛する。だから25日にまた出場するときにも満員の観客で埋まるだろう。アボノを持っている人間で25日行かない奴は、馬鹿だ。大馬鹿者だ。しかし、俺はその大馬鹿者だ。何故なら25日はグラナダにセサル・リンコンを観に出かけるからだ。俺にとっては真っ当な、正当な理由ではあるが、観たかったなぁ!非常に残念!


http://www2u.biglobe.ne.jp/~tougyuu/以下のHPの著作権は、斎藤祐司のものです。勝手に転載、または使用することを禁止する。


ホームに戻る  2005年闘牛