ウセダ・レアル、耳1枚?セラフィン・マリン、また衝撃的なファエナ!こいつは本物だ!

2003年5月20日マドリード、ラス・ベンタス闘牛場(第1級闘牛場)の結果。

 晴れているが風が強いラス・ベンタス闘牛場。マリ・カルメン・カマチョ牧場。ソブレロ、ナバルロサル牧場。闘牛士、ウセダ・レアル、アントン・コルテス、怪我のエウヘニオ・デ・モラに替わりセラフィン・マリン。満員。テンディド6でYさん、Tさんと観戦す。

 ウセダ・レアルは、やることをちゃんとやったファエナだった。技術もあるし牛も良かったのもあるが牛を判っている。でも、剣が決まり、シン・プンティージャで牛が見事に倒れたので耳が出ただけ。僕はこのファエナは耳に値しないと思った。

 アントン・コルテスは、やることをやろうとしていたが上手く行かなかった。

 それより何よりセラフィン・マリン。13日に命懸けのファエナをしてラス・ベンタスを、恐怖の悲鳴と、心臓が破けそうな戦慄と緊張、呆れるほどの勇気と、そして見事な牛の扱い方をして感動させた彼が、また衝撃的なファエナをした。

 3頭目の牛でも良かったが、問題は最後の牛。牛が悪く交換。換わって出てきた牛も良い牛じゃなかった。カポーテではまともなベロニカが出来ない。バンデリージャも苦労していた。ムレタでは悪い牛だったのでなかなか「オーレ」がならなかった。それでも丁寧にクルサードを繰り返しパセを繋ぐ。右手のパセをすると牛の角は右足の直ぐ近くにある。それを全然慌てずに避けてまたパセを繋ぐ。ナトゥラルをすれば牛がスーと回っていくと思いきや、進行方向に向かって90度直角に回って腰の2,3cmの所を通過していく。360度ある観客席のある角度からは牛の角が闘牛士に刺さっていくように見える。パセの度に観客の恐怖と驚きの声が上がる。でも本人は平気でパセを繋いでいる。

 丁寧なクルサード続けて牛を動かしていたが、デレチャソで手に低い長いパセをリガールすると「オーレ」が続きパセ・デ・ペチョの後、喝采にかき消された。物凄い緊張感。牛に対する気が狂った様な底知れぬ勇気。これは絶賛に値する。良いときのセサル・リンコン。判りやすく言えば、ホセ・トマスのような尋常じゃない勇気と冷静さを持ち合わせている。クルサードだって角2本越して牛の前に立っている。こいつは本物だ。間違いなく本物だ。およそ信じられないファエナだ。クルサードしただけで拍手が沸くというのはホセ・トマス以外知らないが、同じ現象がこのラス・ベンタスで起こっている。

 剣を代えてファエナの締めはマノレティーナ。3頭目の牛の時もやってけどこれがまた凄い。牛の前1mの所に立ち、正面を向いてクルサードして体の後ろからムレタを出して牛を誘う。牛はムレタに向かって突進する。体の真横5cmもないところを角を振り上げながら通過する。観客は、「オーレ」と声を上げるよりも恐怖で声を出せない状態だった。丁寧に正面を向いてクルサードして体の後ろムレタを1度隠してから出して牛を誘う。また牛は体の真横5cmもないところを角を振り上げながら通過する。これは本当にホセ・トマスのようだった。信じられないファエナだった。目から涙が流れていた。写真を撮っているというのに・・・。命を懸けるというのはこう言うことなんだ!

 観客はもはやこの信じられない光景に驚き呆れてようやく、「オーレ」の声を出し続けた。後は剣刺しだけ。所が牛の置き方も悪かったが、牛が止まって剣を構えると牛は頭を上下に振った。だからとても刺しにくい状態だった。スエルテ・コントラリアでピンチャッソ。「あー」という溜息混じりの声が闘牛場を埋めた。それから喝采が鳴り、大丈夫また耳が出るよと言うような喝采だった。アビソが鳴った。スエルテ・ナトゥラルで置き直しても牛はまた頭を振っていた。バホナッソのメディア。スエルテ・コントラリアのピンチャッソ2回。スエルテ・ナトゥラルでカイーダだった。

 剣が決まっていれば耳2枚はちょっと難しかったかも知れないが確実に耳は出ていた。仮にピンチャッソが1回あっても耳は出ていただろう。本当に惜しいことをしたが、終わってからみんなで明日もまた観たい!と言って悔しがり、そして、今日の驚きと讃辞をそれぞれ口にした。おそらく、ラス・ベンタスのアフィショナードに、「今誰が1番みたいですか?」と聞いたら殆どの人がもう1度セラフィン・マリンが観たいと言うだろう。いやー追っかけたくなるような闘牛士だ!来年でも良いから、観てぇー!ホセ・トマスとのマノ・ア・マノ。


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