プレシデンテがインドゥルトを拒否。セサル・ヒメネス、ピンチャッソ1回で尻尾が消え耳2枚。牛、場内1周。

2005年4月15日セビージャ、レアル・マエストランサ(第1級)闘牛場の結果。

 快晴。Tシャツで暑いくらい。日が暮れて風が吹くと上着が必要。トレストレジャ牧場の牛(Procedencia actual=現在の起源<基の血統>、ファン・ペドロ・ドメク牧場)。闘牛士、エル・シド、セサル・ヒメネス、サルバドール・ベガ。満員。ソルのグラダにて、写真撮影をしながら観戦する。開始18時30分。終了は20時45分頃。

 エル・シドには、ガッカリした。耳を切らなかったからではない。その内容についてである。最初の牛は、もうちょっと考えて丁寧にファエナをしていれば耳に値するファエナになっていただろうに、それが出来ない。それでもここセビージャではピンチャッソ2回じゃなかったら耳は出ていたかも知れないけど・・・。そして4頭目。何あれは?ムレタでデレチャッソから初めて牛が膝を着く。牛がピカの後、後ろ脚を引きずるようになった。だからなのか、パセが短かったし牛が膝を着いた。そしてブスカンドした。それでもデレチャッソを続け剣を代えた。1度もナトゥラルをすることなく剣を刺した。フィグラならそういうことをするか?ラス・ベンタスならヤジられているが、セビージャの観客は、左をやっていないとか、ナトゥラルをしていないと小声で言うが、ヤジを飛ばさない。闘牛士はそれに甘えている。これで良いのか?と、思ってしまう非道い内容だ。大いに不満!ビクトリーノ・マルティンの凄い牛での物凄いファエナを観ているだけに本当にガッカリした。コリーダ・ドゥーラかと思ってしまう。

 「セビージャは冷たかった」前回出場したときセサル・ヒメネスは言った。そうセビージャは、外の人間には冷たいのだ。フェリアのカセタに行ってもそう。内の人間には甘いけど。そして、ブランド好き。有名っていうモノに弱い。セサル・リンコンも、ホセ・トマスも初めの頃は全然セビージャでは受けなかった。耳だと思うファエナでも白いハンカチは振られなかった。しかし、セサル・ヒメネスは今日セビージャの外部には閉ざされている扉を開いた。

 まず1頭目のエル・シドの牛のキーテでやる気を見せた。チクエリナから後ろに行った牛をカポーテの裏を通すメディア・ファロールを通しそれを2回続けメディア・ベロニカ。「オーレ」と喝采がなった。2頭目の自分の牛での立ち位置素晴らしかった。牛を誘うときに角2本分クルサードしたところに立っている。このコロカシオンが素晴らしかった。こう言うのを観ると、サン・イシドロでのコンフィルマシオンを意識しているのが判るし、ホセリートがちゃんと教えているんだなぁと言うのが判る。去年とは見違えるような仕事ぶりだ。元々牛を判っているし、闘牛士としての才能がある人間だ。それをホセリートに、具体的に丁寧に教えて貰えば才能は開花する。去年とこんなに違うのかと、まずビックリした。

 そして、5頭目の、“オホス・ネグロス”という牛で、あわやインドゥルトをするところだった。牛は出てくると走り回りブルラデロに行った。初めは止まり次もその次も止まった。その次のブルラデロを角で突いた。そして、モーと鳴いた。動きは良かったが何か嫌な感じがした。鳴く牛はあまり動かなくなるからだ。それからカポーテに向かった。膝を折ったベロニカから足を止めた長いベロニカが繋がると、「オーレ」がなった。メディア・ベロニカも良い。拍手が沸く。

 ピカが左後ろに入り牛が離れると膝を着いた。決して牛は万全の状態ではないことが判る。キーテは、牛を遠目から呼んでガジョシーナ繋ぐと、「オーレ」が大きくなった。レマテのラルガも綺麗に決まり牛の前に立ちポーズを取ると喝采がなった。牛を呼んでピカが入ると拍手がなった。サルバドール・ベガのキーテは、テンプラールなベロニカ3回で牛が膝を着き、またベロニカ3回でラルガ。「オーレ」がなった。良いパセだが人の牛でパセの回数が多すぎる。こういう配慮のない闘牛士は、ダメだ。自分良いところだけを見せようとし過ぎ。自分の牛の時にやればいいのに。

 牛は観客へ捧げられた。アレナ中央でデレチャッソで誘う。来ないので少し近づく。もう1度誘うと牛が走り出した。闘牛場が驚きでざわついた後、「オーレ」がこだました。デレチャッソからパセ・デ・ペチョ。牛はもう鳴かない。距離を取り手の低い長いデレチャッソが4回。それからまたデレチャッソが続きパセ・デ・ペチョで牛の前に立って見栄を切ると「オーレ」の声が喝采に変わった。素晴らしいファエナの始まりだった。そして、バンドがパソドブレの演奏を始めた。距離と間を取り、モリネーテから手の低い長いデレチャッソ繋ぎパセ・デ・ペチョ。面白いようにパセが繋がるが、牛を誘うときにクルサードは角2本分して始めている。だから、牛が動くのだ。

 距離と間を取り、クルサードは角2本分してナトゥラル。手の低い長い美しいナトゥラルが4回繋がると「オーレ」はより大きく闘牛場にこだました。パセ・デ・ペチョの後、距離を取り、ナトゥラルを繋ぐ。大きな「オーレ」が続きパセ・デ・ペチョの後牛の前にピタッと立ち止まって見栄を切ると闘牛場は喝采に包まれた。距離を取りデレチャッソを繋ぎ、牛に背中を向けて前を通すシルクラール通すと、「オーレ」喝采がなった。一連のパセをパセ・デ・ペチョで終えて見栄を切る。喝采がなる。白いハンカチがチラホラ客席で振られている。剣を代えて、アレナ中央で剣刺しに行こうとすると、観客がそれを制止した。インドゥルトを求めているのだ。

 セサル・ヒメネスは後ろを振り返ってプレシデンテを観た。腕を大きく広げて刺せないよというジェスチャーをした。プレシデンテは何の反応もしなかった。それならとまた刺しに行こうとすると、「ノー」という声があちこちから上がった。もう1度後ろを振り返ってプレシデンテを観た。今度は、剣を刺せというジェスチャーをした。それならとアレナ中央で剣刺しに行ったが、集中力を維持するのは難しいモノだ。ピンチャッソになった。溜息が漏れる。もう1度牛を置き直して剣は見事に入った。歓声が沸く。もう客席では白いハンカチが無数に振られている。牛は直ぐに座った。白いハンカチは闘牛場を360度埋め尽くした。雪が降っているように。プレシデンテは耳1枚を許可する白いハンカチを出したがそれでも収まらない。2枚目を許可する2回目の白いハンカチが出た。

 トレストレジャ牧場の“オホス・ネグロス”という名前の牛は場内1周をした。もし、あのまま剣刺しに行っていればピンチャッソはしなかっただろう。1回で決まっていれば尻尾が出ていたような気がする。非常に残念だ。牛も良かったが、牛の持っている力を引き出したのはセサル・ヒメネスだ。だから牛のインドゥルトを求めたのはちょっと疑問だ。ファエナはおそらくフェリアのメホール・ファエナに選ばれるだろう。今年のフェリアで観た中では最も感動したファエナだったと断言できる!

 サルバドール・ベガは、3頭目の牛でコヒーダされた。それから観客は闘牛士に感情移入して「オーレ」を叫んだ。剣がピンチャッソ1回の後、カイーダで決まったが、耳の要求がなかった。それでも場内1周の観客からの催促で場内1周をした。何とか仕様としている姿に観客は打たれたのだ。内容的には、それなりではあったが、クルサードが甘い。見習い闘牛士の頃に比べて、ファエナの始まりで見せる膝を折ったデレチャッソの切れがなくなっている印象だ。

 今日は今年観た中で最も感動したファエナを観た。セサル・ヒメネスは去年までと違いコロカシオンが素晴らしい。ここに立って牛を誘ってこなかったら仕方ないという場所に立っている。それと、去年までのように何でも膝を着くロディージャなどはしない。ちゃんとした闘牛、ちゃんとしたファエナで観客の気持ちを掴める技術を習得しつつある。フリがアポデラードのロベルト・ドミンゲスよって変わったように、セサル・ヒメネスは、アポデラードのエンリケ・マルティン・アランスと技術顧問のホセリートによって変わったと言って良いだろう。こんなに楽しみな闘牛士が出てきてどうする。困ったもんだ。嬉しい誤算だ。それと闘牛が終わって退場するときに、セサル・ヒメネスは肩車を拒否した。担ぎ屋が肩車しようとしたが、拒否して自分の足で闘牛場を去った。尻尾が欲しかったからか、1回ピンチャッソをしてしまったからか、それとも、ファエナに満足していなかったからか、それは判らないが、何らかの不満が彼にその行動を取らせたのだと思う。

 でも、期待したエル・シドにはガッカリした。下山さんがポツリと言った。今日のエル・シドが本当の姿です、と。うーん。仮にそうだとしても、去年のセビージャのエル・シドよりは何倍も良いけど・・・。


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