日が出て暑い、日が沈んでも暖かい。マドリード、ラス・ベンタス闘牛場。牛、エル・ベントリジョ牧場。闘牛士、ビクトル・プエルト、エル・カリファ、ラファエル・デ・フリア。ほぼ満員の入り。テンディド6、バッホにてYさんと一緒に観る。
ビクトル・プエルトは1頭目で、物凄い罵声と口笛を吹かれた。が、これに対して僕は疑問を持った。その前にそこまでの経過を説明しよう。ベロニカで左前脚を痛めピカは3回とも左に入った。ピカを刺した位置は定位置のテンディド8で1回、テンディド6で1回、テンディド5の辺りで1回だった。ムレタは左手の膝を折ったパセから始め、テンディド10のソンブラからアレナの中央へ行って右手のパセをしたら、パセの後、牛が逃げていったので、ソルのテンディド6へ移動した。
これは牛のケレンシアを考えてのことだ。それから左右のパセをクルサードして繋ぐと牛が動いた。ビクトル・プエルトの牛を観る目に感心した。パセの後、膝走りしたりピカなどで痛めた後遺症は如何ともしがたい。牛のケレンシアでやっていたが動きが悪くなって剣を代えた。剣刺しはテンディド7,8の辺りの日陰に連れていって落ち着かせスエルテ・ナトゥラルで少しずれていたが1発で決めた。ビクトル・プエルトは、右手を挙げて直ぐに倒れるというポーズを取ったが、バンデリジェーロがカポーテを振って牛を回した。するといつも騒ぐ、テンディド7が口笛を吹いて抗議した。
ビクトル・プエルトはバンデリジェーロを牛から離し放って置いた。牛はフラフラ千鳥足になって口から血の固まりを2回ほど吐いて、それでも倒れなかった。テンディド7を中心に観客は総立ちになって罵声を浴びせた。早く殺せという抗議だろうが、デスカベジョも打てる状態じゃないしどうしろと言うのだろう。バンデリジェーロがカポーテを振って早く牛を倒そうとすると、罵声を浴びせ、今度は、早く殺せと物凄い罵声を浴びせる。どうしろと言うのだろう。意味が全く判らない。ビクトル・プエルトは平然と立っていた。何故なら牛がもうすぐ倒れるのを知っていたからだ。そして、牛は倒れた。モヌメンタル・ブランカ。チューロとまで言われていた。でも、僕は1人で立って拍手を送っていた。ビクトル、お前は偉い!牛、闘牛のやり方を隅々まで知ってやっている。彼は間違ったことはやっていない。あれを動物虐待というなら闘牛を観なければいいのだ。彼は彼の闘牛哲学を徹底して実践した。
4頭目のビクトル・プエルトは、前の牛で罵声を浴びせた観客を黙らせた。正確には、「オーレ」を合唱させた。ラルガ・カンビアールからベロニカを繋ぐと左後ろ脚を痛めた。キーテは、チクエリナで馬の前に持っていき、ピカは良いところに入った。牛に不安があったがムレタでは、アジェダード・ポル・アルトから始め体の近くを通すパセを続けパセ・デ・ペチョ、美しいトゥリンチェラを繋ぐと、「オーレ」がなった。牛をアレナ中央に持っていって、右手の低い長いパセをクルサードして繋ぐと「オーレ」はより大きくなった。
テンプラールの手の低い大きなパセを繋ぐが、牛が膝を着いたり、パセの後逃げるようになった。剣を代え、牛を中央に連れていってピンチャソ1回の後、良いところに2/3刺さった。牛は直ぐに倒れた。ピンチャソ1回だったので弱い耳要求にしかならなかった。ビクトル・プエルトは、彼は彼であるという闘牛をやり通した。牛の見方の確かさ、闘牛確かな知識に裏打ちされたそのやり方で、1頭目で物凄い罵声を浴びせた観客を黙らせ、闘牛の技術によって歓びを感じさせた。退場の時は、喝采を浴びて出ていった。これだけ確かな闘牛術を出来るのなら、エスプラに代わる闘牛博士になれるだろう。
エル・カリファは、牛が悪かった。遠くから呼んでくる牛に当たったが、牛に力がなく、直ぐにばてた。一昨年のプエルタ・グランデの様なファエナにならなかったのは牛による。それとプエルタ・グランデを1度やると観客の見方が厳しくなるので、「ピコ」とか言うヤジも言われていた。しかし、カリファは今日は良くやった。セビージャで観たときよりずっと良かった。
去年プエルタ・グランデしたラファエル・デ・フリアは、勉強不足。遠くから呼べる牛なのにそれが判らない。左角が体の方を通るときパセが短くなるので始めにそっち側で牛を誘う。判ってないね君は。そういうことを1つ1つ覚えていかないと良い闘牛士にはなれないだろう。ファエナの最後はいつも牛との距離が2mくらい。距離の取り方が下手くそ。力不足と言われても仕様がないだろう。
今日のビクトル・プエルトには感動した。ラス・ベンタスで罵声を浴びても平然と自分が学んできた闘牛術を信じてやっている姿に・・・。それが間違っていないことはちゃんと闘牛を観ている人には判る事だと思う。ここ2,3年技術向上を念頭に入れて闘牛を楽しんできた成果が、今日出たような気がする。あれだけ騒いで罵声を浴びせていたテンディド7を黙らせて退場していく姿を、尊敬と共に痛快に思った。今日は、剣刺しで耳をなくしたが、ビクトル・プエルトの闘牛に哲学を観た!
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