ビクトリーノの凄い牛!そして、エンカボがフィグラになれない理由。

2001年6月14日、マドリード、ラス・ベンタス闘牛場。(第1級闘牛場) 

 快晴のラス・ベンタス闘牛場。ほぼ7分の入り。

 ビクトリーノ・マルティン牧場。闘牛士、ルイス・ミゲル・エンカボ、アルベルト・ラミレス、ラファエル・デ・フリア。

 ルイス・ミゲル・エンカボは、良い闘牛士である。闘牛士としてのテクニックもあるし闘牛全体の事も理解してる。バンデリージャも良いし、何より牛を判っている。牛の誘い方が判っているし、牛の動かし方も判っている。大体ここまではフィグラになる条件をクリアしている。何が足りないか?運?それとも・・・。

 1頭目の牛は角が上を向いていた。走っているが脚は大丈夫だ。ベロニカを繋ぎメディア・ベロニカ。パセの後に膝を着いた。バランスが悪いからだ。ピカは左肩上に入り、刺し代えて右側に。ピカで牛が膝を着いた。バンデリージャは自分で打った。左に回り角の間で打つ。右に回り角の間で打つ。左に回り角の間で打つ。良いバンデリージャだった。喝采を受け挨拶をする。ムレタは右手の膝を折ったパセから内へ。右手のパセを通すとき牛がブスカンドする。パセの後、牛が止まらない。ナトゥラルを繋ぐが牛が膝を着く。ナトゥラルを繋いでパセ・デ・ペチョ。拍手。でも今一牛の動きが悪い。味がない。抜けるようなパセになっている。牛に力がないからパセに迫力がない。それでもパセの後の返りは早く危ない。これは腐ってもビクトリーノと言うところ。ナトゥラルの後トゥリンチェラを繋いで見栄。拍手が沸く。返りが早く危ない。右繋ぎパセ・デ・ペチョ。危ないので剣を代えスエルテ・ナトゥラルでピンチャソ・オンダ。スエルテ・コントラリアでメディアのテンディダ。

 2頭目は、出てきて直ぐに判ったが凄い牛。ベロニカを繋ぐとカポーテに向かって休まずに向かっていく、シン・パラールの牛。「オーレ」がなる。ピカドールが登場して定位置に付くまでエンカボはカポーテで牛の気を引きつけて置いたままにして観客から喝采を浴びる。この辺は闘牛というものを良く分かっている。ピカは左に入り、刺し代えて中へ。牛が踏ん張ると馬が持ち上がった。2回目のピカは左に入った。アルベルトのキーテは、チクエリナ2回、風が吹いて中断してメディア・ベロニカ。今一。バンデリージャは今度も自分で打った。アレナ中央から右に回りトロ・パサードで打つ。また中央から左に行って角の先で打つ。右に回りタブラの方に行って1本しか刺さらず、もう1度打つ。さっきよりもっとタブラに近いところで打ち喝采を浴びる。牛は観客に捧げられた。

 期待が膨らむファエナも素晴らしかった。右手の膝を折ったパセから「オーレ」がなる。ムレタを振った後、直ぐ振り返る牛。ワクワクする牛だ。こういう牛をトロ・ブラボというのだ。でも、直ぐ振り返るので闘牛士にとっては非常にやりにくい。こういう牛を上手く扱うと非常に面白い闘牛になる。パセ・デ・ペチョで一連のパセを締めくくり喝采を浴びながら場所を移動し距離を取ってムレタを左右に振って牛との距離を測りながら近づいていく。この間に牛に休養を与え誘う。牛はまたシン・パラールでムレタに向かってひたすら走り続ける。「オーレ」がなる。パセの後に体の後ろに牛の角が来るがそれを理解して体を動かさないと簡単に牛の角に刺される。「オーレ」が続く。

 ナトゥラルでも、かなりクルサードして牛を誘っている。「オーレ」が続く。右手のパセをしているときにエンカボは角と首の間に挟まるような感じで、牛が動く方向に一緒に回る。ムレタも剣も落としている。このままだとコヒーダされる。ブルラデラからバンデリジェーロたちがカポーテを持って走る。そして上手い具合に角に刺されることなく転がり落ちた。場内は興奮に包まれた。剣を代え、スエルテ・ナトゥラルで刺しに行ったが、剣がちゃんと刺しているのに抜いてしまった。つまり、凄いバホナッソだからだ。もう1度刺しに行こうとしたが牛が倒れた。観客の半分弱は耳を要求したが叶うわけがない。エンカボまたやったね。

 折角耳が確実だったのに剣刺し耳をなくす。エンカボもパターンだ。ここで剣を刺していればと言うときに失敗する闘牛士と、成功する闘牛士の差はフィグラになるかならないかの差によって現れる。何年か前のフェリア・デ・オトーニョの時も剣刺しで、刺さないで倒れた。何やってんの、と思ったものだが・・・。技量があるんだからフィグラになれるのにまるで自分で拒否しているような感じさえする。これじゃ、エスプラみたいに長いキャリアで闘牛博士とか呼ばれるようになるしかなくなっちゃうじゃないか。ちょっと悲しい剣刺しだった。牛は場内1周にはならなかったが非常に素晴らしい牛だった。これぞ、ビクトリーノという牛だった。

 アルベルト・ラミレスにはビクトリーの牛を扱うだけのキャリアがない。真面目な闘牛士だからこういう牛を相手に今日は良い経験が出来たことだろう。

 ラファエル・デ・フリアは、今年の唯一のプエルタ・グランデをした闘牛士。でも、これまたキャリア不足を露呈した。何がダメと言って、牛を誘うときの距離がいつも同じ。エンカボのようにもっと離れてムレタを振って牛との距離を確認しないと行けないのに何一つそう言うことをしない。君はフィグラの器じゃないね。

 今日の4頭目。エンカボが相手にしたビクトリーノのコブラドールという牛がサン・イシドロに出ていたら恐らくメホール・トロに選ばれていただろう。非常に素晴らしく、凄い牛だった。今日はこの牛に尽きる。


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