por斎藤祐司
今年のサン・イシドロでの4つの闘牛(ビデオ)を紹介した。4人とも、会報で闘牛士のスタイルで書いたタイプ1.である。つまり、理念先行型闘牛士。
始めは、5月30日。片目の闘牛士ハビエル・バスケス。
彼が、観客を沸かせたのは片目のための同情からではない。牛を誘うとき角の間に体を入れてからパセを始めるからだ。
牛との距離があるときは、角と体の間にムレタを置く。腕を牛に向かって伸ばしムレタを出し、後ろの足を後方に伸ばし手とのバランスをとって、前足に重心を置く。この姿勢が最も美しかった。あとは牛が向かってきたらムレタを振るだけだ。
牛を誘うときが最も重要なのだ。このクルサードが出来ていないと、ラス・ベンタス(マドリード)では認められない。
最後にやったベルナディーナというパセには泣けた。牛の1m前に立ってムレタを後ろに持って左右に振る。牛の頭が左右に動く。逃げない。牛の動きを確認してパセ。
「よかったねハビエル。片目をなくして。だって、両目が見えてたときよりも、ずっとずっと良い闘牛をして観客を感動させているんだから。」
98年始めてのプエルタ・グランデ(以下PGと記す)は、エウヘニオ・デ・モラ。
去年のサン・イシドロで最優秀見習い闘牛士。マタドールになって、今年PG。そして、最優秀正闘牛士。
5月24日のファエナは、両膝を着いたパセから1回転半、牛を回して観客の度肝を抜いた。体の近くでムレタを振りパセ、そして、角度のあるパセ・デ・ペチョ。こんなパセ・デ・ペチョ見たことない。観客を驚かせ続けたファエナ。剣刺しも良かった。
「若いって良いよな。怖いもの知らずで。野心的な顔、切れのあるパセ。彼が一流であることを充分証明した。今後闘牛界を背負っていく闘牛士の1人だ」
もう一つのPGは5月28日のホセ・トマス。
去年の最優秀闘牛士。この日の闘牛はメホール・ファエナに選ばれる。
とにかく牛が良かった。この牛を、しっかり動かしたホセ・トマスも勿論良い。
去年と今年ではちょっと違う。誘うとき、ムレタを揺らすようになったのが残念だ。しかし、それでも最高の闘牛を見せてくれた。右手のパセは今年の方が良い。剣刺しに至ってはホセリートと双璧のボラピエを決める。
「今や彼が闘牛の中心だ。今見なきゃ損をしますよ」
最後は、今年最も感動した闘牛。6月5日のマヌエル・カバジェーロ。
この日のこの牛は最優秀牧場に選ばれた。ご存じビクトリーノ・マルティン。痺れさせたのは牛ではなく、マヌエルだ。
牛だけならホセ・トマスの牛の方が良かった。だが、ラス・ベンタスらしく難しい牛を相手にして最高の闘牛を見せたマヌエルを含めての選出だ。
ピコも使っていたが、ムレタを全く揺らさないで牛を誘ったパセには涙が出た。勇気とは尋常じゃない。彼は、闘牛士に成るために生まれてきた男だ。ピカドールも良かった。でも、そういう風に作ったのはマヌエルだ。始めから最後まで全て良かった。
「始めから闘牛士。最後まで闘牛士。そして、男。マヌエル・カバジェーロ。涙ぼろぼろだぜ」
そして、付け加えなければならないことが1つある。最優秀見習い闘牛士になった、ミゲル・アベジャン。5月26日に見せたカポーテの技には驚かされた。あそこまでやったキーテは見たことない。僕の好みじゃないが今後、注目の闘牛士だ。
去年に比べて牛が良かった。それと新旧交代がもうすぐ起こりそうだ。セサル・リンコン、ホセリート、エンリケ・ポンセ?、うかうかしてられないよ。
−−−東京闘牛の会(TTT)98年7月定例会報告−−−
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