−−−東京闘牛の会(TTT)2003年7月定例会報告−−−
por 斎藤祐司
6つのビデオを流した。
1つ目は、5月13日のセラフィン・マリン。驚いたのはカポーテを振ってパセしようとしたら誘った体の右側じゃなく、左側を牛が通っていったことだった。闘牛場に悲鳴が起こった。牛は右角がブスカンドする。それもブスカンドなどと言う生易しいものじゃない。悲鳴が上がる。右角が体の前を通るときに体目掛けて向かってくる非常に危険な牛だった。
病院行きか、牛に殺されるか、それとも・・・。しかし、クルサードしてパセを繋ごうとしている。闘牛場が戦慄した。観客は手に汗握ってセラフィンの闘牛を見守って感動して、恐怖心を、興奮に変えてこの息詰まる緊張が凝縮した時間に身を任せているのだ。それにしても尋常じゃない勇気だ!剣が決まり耳1枚。恐怖と戦慄で緊張が凝縮した時間から解放された。無名の闘牛士の価値ある耳。これがベンタスの耳だ!いたんだなぁこういう闘牛士が。
2つ目は、5月26日のウセダ・レアル。問題になったのは牛との距離。ピカの時に遠くから呼んで来る牛。ベンタスの観客はこういう牛が好きだ。
牛の動きが素早い。パセをすると返りが早いから足の直ぐそばに角がある。緊張感と牛の素早い動きに観客は興奮して、「オーレ」を叫び続けた。何度も危ない場面があったがそれをちゃんと交わして良いファエナを続けた。下手な闘牛士ならこういう風にパセを見事に繋げられないだろう。
剣が決まり当然耳1枚だと思ったがハンカチが殆ど振られなかった。それには理由がある。問題が2つ。1つは、この牛は距離を取って遠くから呼んで来る牛だった。この距離を見誤ったこと。もう1つは、牛が来る場所に立っていたこと。つまり、誘ってパセを引き出すのではなく、牛が来るからパセをしていた。だから、牛を闘牛士がコントロールしていないと言うことが不満なのだ。牛は場内1周。
3つ目は、5月14日のフェルナンド・ロブレニョ。一生懸命ひたむきに闘牛をやっている。だから、好感を持たれる。勇気もある。そして技術もある。丁寧にクルサードを繰り返しパセを繋いだ。遠くから牛を誘ったり、正面を向いて誘ったり良いパセを繋いだ。トゥリンチェラが綺麗だった。血管が切れそうなくらいのハイ・テンションでクルサードを続け「オーレ」を叫ばせ続けた。このひたむきさが胸を打つ。手の低い長いパセ。剣は、良いところに決まり耳1枚。
4つ目は、6月3日のエル・カリファは、闘牛開始前に観客から拍手を貰う。2日前父親の死んだ。初めの牛は天国にいる父親に牛を捧げた。込み上げてくるものがある。
ファエナは、アレナ中央で背中を通すパセから始めた。逃げるように離れていった牛を遠くから誘い牛を呼んでパセを繋いだ。観客はカリファの味方だった。右角がブスカンドする。危ないが逃げ腰にならない。天国のお父さんも後押ししている。命を懸けてパセを繋ぐ。「オーレ」が鳴る。
ナトゥラルと繋ぐ。「オーレ」が続く。剣は、1発で決めた。もう闘牛場に白いハンカチが振られた。耳2枚。前回はコヒーダされてプエルタ・グランデは出来なかった。みんなと抱き合って泣いていた。非常に価値のあるプエルタ・グランデだった。
5つ目は、6月7日ビクトリーノ・マルティン牧場の牛を相手にしたロブレニョ。非常に反応が良い牛。中央で牛を誘う時のコロカシオンが良い。もうすでに角2本分クルサードしている。パセ・デ・ペチョの後牛の前で見栄を切る表情が命懸けの闘牛を象徴している。剣を代え、右手のパセをする。牛は動くものにとことん反応する。「オーレ」がこだまするが、剣が決まらなかった。
最後6つ目のビデオは5月20日メホール・ファエナになったセラフィン・マリン。悪い牛だった。ナトゥラルは進行方向に向かって90度直角に回って腰の2,3cmの所を通過していく。360度ある観客席のある角度からは牛の角が闘牛士に刺さっていくように見える。でも平気でパセを繋いでいる。物凄い緊張感。牛に対する気が狂った様な底知れぬ勇気。これは絶賛に値する。尋常じゃない勇気と冷静さを持ち合わせている。クルサードだって角2本越して牛の前に立っている。こいつは間違いなく本物だ。およそ信じられないファエナだ。クルサードしただけで拍手が沸くというのはホセ・トマス以外知らない。
剣を代えてファエナの締めはマノレティーナ。物凄く近くを牛を通していた。丁寧に正面を向いてクルサードして体の後ろムレタを1度隠してから出して牛を誘う。これは本当にホセ・トマスのようだった。信じられないファエナだった。命を懸けるというのはこう言うことなんだ!
後は剣刺しだけ。所が牛が止まって剣を構えると牛は頭を上下に振った。だからとても刺しにくい状態で剣を失敗した。
今年は牛が悪かったが、セラフィン・マリンという闘牛士を発見した。ロブレニョも去年に続き良かった。カリファも復活。ベンタスの観客はどんなときでも良い闘牛を見つけようとしている。
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