−−−東京闘牛の会(TTT)2002年7月定例会報告−−−
por 斎藤祐司
4つのビデオでサン・イシドロを振り返った。
始めに流した6月8日、場内1周したビクトリーノ・マルティン牧場の牛でのエンカボ。体型はビクトリーノの牛らしくなかったので手拍子や口笛を吹かれたが、カポーテでパセを始めるとキビキビした凄い動きをした。これはいけると思った。左角が体の方を通るときに特に良い動きをした。エスプラとやったキーテ合戦も良かった。牛は観客に捧げられ、アレナ中央でナトゥラルで牛を誘った。試しのパセをしないでファエナを始めたが牛の動きが物凄い。シン・パラール気味の牛でパセの後の返りも早いがエンカボは上手に牛を扱った。
始めから、「オーレ」の合唱。牛が兎に角凄い。こういう牛はなかなか観れない。トゥリンチェラやパセ・デ・ペチョを決めた後のエンカボを格好良いと思った。当然耳2枚出るようなファエナだったが後半風が吹いてから良いパセを繋げなくて、剣と代えた後も直ぐ剣刺しに行った。観客から、「ケ・ノー」と言われていた。後5回いや後3回良いパセを繋いで、「オーレ」を叫ばせていたら耳2枚出ていただろう。牛は場内1周になった。
2つ目のエンリケ・ポンセは、去年までと違う。信じられないように突然変異した92年を思わせる闘牛を今年はやっている。何処が違うってパセするとき、腰が動かないのが良い。綺麗なベロニカを繋ぐと、「オーレ」がなった。ラルガを連続して繋ぎ喝采。
ファエナは、右手で膝を折ったパセから始めトゥリンチェラ、パセ・デ・ペチョ。「オーレ」がなる。充分距離を取って、デレチャソ。クルサードして綺麗に繋ぎ、パセ・デ・ペチョ。脇が開いているが、盛り上がっていく。余裕を感じさせるムレタ捌き。パセが綺麗。腰が動いていないのが良い。92年の様な闘牛だ。アジェダード・ポル・アルトからナトゥラルを繋ぎ、モリネーテ、パセ・デ・ペチョ。正面を向いて足を揃えたデレチャソを繋ぎパセ・デ・ペチョ。「オーレ」が続いた。剣を代えて、膝を折った手の低い長いパセを繋ぎトゥリンチェラ、パセ・デ・ペチョ。スエルテ・コントラリアに牛を置いて、良いところに決めた。牛が直ぐ倒れ、何と耳2枚。信じられない。ともあれ、ポンセは、久々にラス・ベンタスのプエルタ・グランデを開けた。(サン・イシドロでは初めて)この日寿美さんは、満面の笑みだった。
3つ目のアントニオ・フェレーラは、ベロニカをすると体の方に寄ってくる危ない牛。おまけに左前脚がコッホだった。牛のケレンシアはテンディド2〜4辺りにありそうだった。ピカは左右に1回ずつ入った。ファンディのキーテは、膝を着いてのチクエリナを繋ぎ立ってラルガ。「オーレ」がなり喝采が鳴った。フェレーラも負けじとキーテ。牛を誘ってから一歩も動かないチクエリナを3回、ベルモンティーナを決めるとまた、「オーレ」がなり喝采が鳴った。こういう意地の張り合いは見ていて実に面白い。こういうキーテ合戦はラス・ベンタス以外ではあまり観られなくなった。
もう1つの見せ場バンデリージャは自分で打った。左へ行って角の間で打った。次も角の間で打った。最後は遠くから牛に向かって走っていって誘うが1度は牛は来なかった。もう1度かなり後ろに下がってまた、牛に向かって走っていくと牛が動き出した。フェレーラはそこで止まって牛を向かえる。右側にフェイントをしてその残像が残る方を牛が通るとき牛の横からキエブロを決めた。その後、コヒーダ。角傷がなかったのが幸い。グラン・オバシオン。耳が痛い。一瞬難聴になったような感じだ。
さて、これからである。ここまでの闘牛でも充分すぎるくらい楽しんだ。思いもよらないプエルタ・グランデが待っているとは。牛は観客に捧げられた。アレナの中央で牛を誘う。来ないので10m位まで近づく。そして、デレチャソでパセを繋いだ。手の低い長いパセが繋がると、「オーレ」が鳴り響いた。パセ・デ・ペチョ、良いトゥリンチェラが決まると喝采が鳴った。こんな牛だっけ。カポーテの時は体の方に向かってくる危ない牛だったのに。でも、そこがみそ。クルサードをちゃんとやってその時にムレタを体の後ろに隠していたから牛がちゃんと動き出したのだろう。
手の低く長いデレチャソがまた繋がると、「オーレ」の合唱は大きくなっていった。パセ・デ・ペチョ、トゥリンチェラが決まると喝采が鳴った。彼のトゥリンチェラってこんなに良かったっけ。驚きだ。牛から離れてナトゥラルを始める。こっち側がより体の方に向かってやってくるので危ない。それでもちゃんとクルサードしてムレタを体の後ろに隠しすという、手順を踏んでいる。長いパセが繋がると、「オーレ」がなった。パセ・デ・ペチョ、体に隠すようなする、トゥリンチェラソが決まると立ち上がって喝采を送る。
そして、距離を充分にとって、牛を誘う。デレチャソで手の低い長いパセが決まると「オーレ」はより大きく叫ばれた。パセ・デ・ペチョ、良いトゥリンチェラ、またパセ・デ・ペチョが決まると喝采が鳴った。牛の前で見栄を切ると観客は総立ちになって喝采を送った。剣を代え、長いデレチャソを繋ぎパセ・デ・ペチョ、良いトゥリンチェラが決まると喝采が鳴った。後は剣だけ。スエルテ・ナトゥラルでちょっとだけずれていたが1発で見事に決まった。剣の刺さった瞬間観客は総立ちになって喝采を送った。牛は直ぐ倒れた。闘牛場に白いハンカチの雪が降った。耳2枚。これだけやったのなら文句ないだろう。良くやった!この危ない牛で。ラス・ベンタスのお客さんはちゃんとした闘牛をやれば評価してくれる。フィグラへの道、ラス・ベンタスのプエルタ・グランデを開けてしまった。おめでとう。耳を受け取るときも耳が痛いくらいの喝采だった。今年のメホール・ファエナ。
最後はホセ・トマス。牛が悪くてカポーテは良くなかった。ファエナは、アジェダード・ポル・アルトから始めたファエナは、牛をアレナの中央で対峙してナトゥラルを始めた。完全にクルサードして牛を誘う。ピコは使わない。ちゃんとした手続きをして牛を誘うから牛が動く。「オーレ」がなる。パセ・デ・ペチョ。喝采が鳴る。牛から充分距離を取り、それから近づく。クルサードして左手を出す。牛は体ギリギリに通っていく。パセとパセの間に、1回1回クルサードしないと動かない牛。丁寧にクルサードを繰り返しパセを繋ぐ。牛はホセ・トマスの体の近くを通り回り始める。「オーレが続く」。
僕が座っている近くで喧嘩が始まった。想像だけど、ホセ・トマスファンのおばさんが後ろで野次っていた男を鞄を振り上げて殴った。警官が来て周りが騒がしくなる。
そんな騒ぎは何処吹く風。ホセ・トマスは、自分の闘牛を続ける。体が角の間に完全に入った状態で、ムレタを牛と体の間に出して牛を誘う。時間が止まった様な闘牛。そんなに牛から距離があるわけではないのに、そんなことをやる。牛はムレタに引き寄せられホセ・トマスの体の周りを回る。「オーレ」がより一層大きく叫ばれる。何という闘牛なんだろう。こんな非道い牛で、こんな危ないことを出来るなんて!それにしても、角は体の近くを通しすぎる。緊張で目がこってくる。カメラを持っているから肩もこってくるような感じだ。
もう、異次元の時間の中で物凄い緊張感と、興奮、が体の中にジワジワと浸透してくる。あまりに凄いホセ・トマスのファエナにいつの間にか警官はいなくなっていて騒ぎは収まっていた。僕はカメラを覗いているから左目の上がこる。この緊張感がファエナ中ずーと続いた。
右手のパセを繋ぐと返りが早くなって危ない場面が何度かあった。その度に、悲鳴のような何とも言えない声があがった。ナトゥラルを繋ぎ、剣を代えた。物凄く長いファエナ。異次元の時間を感じながら最後の場面が近づいた。アビソが1回鳴った。それに対する抗議の口笛が鳴る。ムレタを両手で持って、両肘を曲げて牛を回すようなアジェダード・ポル・アルトを繋ぎ、トゥリンチェラ。何て綺麗なんだろう。スエルテ・ナトゥラルに牛を置いて完璧に踏み込んでボラピエで完璧な剣刺しが決まった。
観客は一斉に立ち上がり、喝采を送る。もう白いハンカチが振られている。牛は座り込んでプンティージャが1発で決まった。白いハンカチの雪が降る。歓声がなり、耳を催促する口笛が鳴る。プレシデンテが白いハンカチを出す前から僕がいた近くでは、「トレロ、トレロ」の叫び声がなった。
耳2枚。去年、3アビソをラス・ベンタスで浴びてから約1年。サン・イシドロでマドリードに戻ってきたホセ・トマスは、2000年の時のように、アレナに君臨する絶対君主に戻って帰ってきた。マキシモ・トレロ!
今年のサン・イシドロは牛が良かった。こういうことは近年では珍しい。だから、盛り上がったフェリアになった。
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