por 堀池麻樹
シェリー酒は「食前酒」と思われがちですが、実は立派な「食中酒」です。ぶどうの渋みや甘さが口に残りやすいふつうのワインと違い、シェリー酒のキレ味とすっきりした喉ごしは食事を際だて、飲み飽きしないのが魅力です。産地のへレス周辺やアンダルシア地方では当たり前の飲み方でしたが、今スペインではシェリー酒を食事と合わせるのが流行しています。また、ここ数年のマンサニージャブームはイギリスにも飛び火して、マンサニージャ・バーまで登場しました。
ワインブームで口の肥えた日本人の間でも、今年はシェリー酒を食事に合わせることがステイタスとなっています。シェリー酒はヘレス・デ・ラ・フロンテーラとサンルーカル・デ・バラメダ、プエルト・デ・サンタマリアとその周辺の6カ所で造られています。原産地呼称はヘレス・デ・ラ・フロンテーラとサンルーカル・デ・バラメダで、ここで熟成されたものだけがシェリーと名乗ることができます。普通のワインの違いは、酒精強化している点と「ソレラシステム」という製造方法です。シェリー酒は白ぶどうのみから造られ、基本となる『フィノ』と『オロロソ』の他25前後の種類があります。
『フィノ』『オロロソ』
2種とも辛口のシェリーです。パロミノ種のぶどうを普通のワインのようにステンレスタンクでアルコール発酵した後、ソブレタブラという樽に入れ熟成させます。アルコール発酵後、テイスティングとテストによりクラス分けされ、『フィノ』は15度前後、『オロロソ』は18度前後までアルコールが添加されます。ここで使われるのは、同じぶどうから造った蒸留酒です。発酵液は樽の4/5ほどしか入れず、上部を空気に触れた状態にしておくと、液の表面にフロールという酵母が自然発生します。これが膜となって酸化を防ぎ、独特の香りや味わいがでるのです。『オロロソ』はアルコール度数が高いためフロールはつきませんが、そのアルコール度数が腐敗を防ぎ、直接空気に触れながら褐色に酸化熟成していきます。
「ソレラシステム」はソレラという樽の上にクリアデラという樽を3〜4段積み上げたもので、新しいシェリーは一番上の樽に入れられます。出荷されるのは一番下のソレラから、樽の1/3までと決められていて、減った分だけ上の樽(第1クリアデラ)から継ぎ足し、その分をまた上(第2クリアデラ)から継ぎ足していきます。こうして常に一定の品質と味を保ち続けているのです。中には数世紀前から続くソレラシステムもあり、ソレラが古いほど奥深い味が楽しめます。
『アモンティジャード』
『アモンティジャード』はまずフィノとして熟成していきます。後に再びテイスティングによりクラス分けされ、『アモンティジャード』としてふさわしいものにはさらにアルコールを17度前後まで追加していきます。するとそれまでついていたフロールがなくなり途中からオロロソのように酸化熟成していきます。このためフィノとオロロソの両方の特徴を併せ持っています。
『マンサニージャ』
『マンサニージャ』は大西洋に面したサンルーカル・デ・バラメダで造られるフィノタイプのシェリーです。製造過程はフィノと同じですが、海風のそよぐこの地では気候が安定しているため、フロールが1年中厚く覆って生き続けるのです。フィノとはひと味違う独特のかろやかさと酸味が特徴です。(へレスやプエルトでは夏と冬の気温の変化のためフロールが半年ごとに薄くなってしまいます)マンサニージャ独特のほのかな塩気はフレッシュなエビや貝などにぴったりです。『マンサニージャ』にも『マンサニージャ・オロロサ』『マンサニージャ・アモンティジャーダ』があります。またおすすめは小麦色の『マンサニージャ・パサダ』。『マンサニージャ』のまま5〜7年熟成させたもので、爽やかさはそのままでありながら深いコクが楽しめる逸品です。
『ペドロ・ヒメネス』『モスカテル』
上記辛口に対して、甘口のシェリーは、『ペドロ・ヒメネス』種と『モスカテル』種という白ぶどうから造られ、ぶどうの名前がそのままシェリーの名前になっています。ぶどうを天日干ししてから発酵させるので糖度が高く、酒精強化しなくてもアルコール度数が高まり、フロールなしでオロロソのように熟成していきます。
『クリーム』『ミディアム』他
上記の他のシェリーの多くは、基本の辛口『フィノ』『オロロソ』2タイプと、甘口『ペドロ・ヒメネス』『モスカテル』などを組み合わされて造られたものです。それぞれの組み合わせにより生み出される特徴のハーモニーを楽しむことができます。『クリーム』や『ミディアム』は『オロロソ』と『ペドロ・ヒメネス』を混ぜたもので、他に『アボガド』『ドゥルセ』などが有名です。最近造られるようになったものでは『ペール・クリーム』があり、こちらは『フィノ』と『ペドロ・ヒメネス』を合わせたモダンな味わいです。シェリー酒はスペイン料理だけでなく、和食や中華などさまざまな料理に合う奥の深いお酒といえるでしょう。
--2002年4月定例会報告より--
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