99年3月21日、カステジョン

por 松田健児

 地下鉄でオスタルに戻ったのが5時きっかり。ラス・ベンタスの闘牛もベルナベウでのサッカーもちょうど始まる時間である。遅れながらもどっちかに行こうかと悩んだけど、テレビを点けるとちょうどカステジョンの闘牛が始まるところだったのでサロンでゆっくり闘牛鑑賞と決め込むことにした。カステジョンのマグダレーナ祭の最後を締めくくる闘牛である。

 カルテルはルイス・フランシスコ・エスプラ、マヌエル・カバジェーロ、ペピン・リリアの3人。ガナデリア(牧場)はビクトリーノ・マルティン。まあまあのカルテルである。

 エスプラの1頭目。535kg。彼の持ち技であるバンデリージャも優雅だったが、ムレータも落ち着いていて美しかった。エストカーダも一発で決め、一枚目の耳を獲得。

 2頭目(510kg)は一度狙いをつけたら注意をそらさない牛だ。マヌエル・カバジェーロの撫でるようなムレータにわき目も振らず突進してくる。ムレータの半分が地面を舐める、低いナトゥラルが美くしいこと!思わずため息がでた。最初のエストカーダは失敗したものの、2度目は剣が吸い込まれるように根元まで突き刺さり、闘牛場が白く染まった。耳1枚。

 前の2人に負けてはいられないペピン・リリアは3頭目ミシオネーロ(512kg)をラルガ・カンビアーダで待ち受ける。膝を突いて動けない状態でカポーテを翻す派手な技。デレチャソもナトゥラルも長い。いい闘牛だ。エストカーダも完璧で耳2枚獲得。ここまでで既に4枚の耳がでたことになる。

 明日の新聞には「lluvia de oreja(雨のように耳がたくさん出たという意味)」とか書かれるんだろうなぁ。

 プエルタ・グランデがかかったエスプラの5頭目。ペスカデーロ(魚屋)というふざけた名前だ。これも他聞に漏れず凄い闘牛だ。カステジョンまで行けば良かったかな(笑)。でもそう思わせるほど凄い。忠実な犬を扱うように何の迷いもないムレータ捌き。闘牛場の中心で、死と直面する危険な場所でエスプラは明らかに楽しんでいる。美しい闘牛だ。しかし、エスプラはエストカーダで失敗した。5回目にやっと止めを刺す。拍手は起きたが、残念ながら耳を獲得することはできなかった。

 「5頭目に悪い牛はいない」とよく言われる注目の5頭目(532kg)。流れるようなカポーテ捌きで滑り出しは快調だ。スエルテ・デ・バーラで牡牛は馬をぐんぐん押していく。牡牛の力強さにアナウンサーが興奮している。ムレータでは闘牛士があせるほど突進してくる。アナウンサーが「闘牛士と野獣の闘い」とたとえるほど激しく速い。この希に見る勇ましい牡牛を捌くのは危険で、F1のレースをでも見ているかのようだ。マヌエル・カバジェーロは鮮やかに、見事にこの牡牛を捌いた。エストカーダも一発で決めて、耳2枚を獲得。死に向かって走り抜けた牡牛も、闘牛場を一周し観客の拍手を受ける。これが闘牛だ!これが闘牛だ!

 最後を締めくくるぺピン・リリアの相手は540kg。スペイン人が「トラピオがある」と言いそうな高貴で勇猛な牡牛。数十回に一度見ることができるかの素晴らしい闘牛を締めくくるには完璧な牡牛だ。トラヘ・デ・ルスを血に染めながらペピン・リリアは最後の牡牛を奇麗に葬った。今日なんと7枚目の耳。

 闘牛場の雰囲気を十分に感じることはできないテレビ観戦だったけど、これほどいい闘牛を見ることができたのは大収穫だ。

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