アーサー・ラッカム
アーサー・ラッカム(1967-1939)は、英国の挿絵本の黄金時代を飾る人気画家。ロンドンに生まれ、『グリム童話集』や『リップ・ヴアン・ウインクル』などの挿絵を次々と手掛けた。
『不思議の国のアリス』、『ニーベルンゲンの指輪』、『ケンジントン・ガーデンのピーター・パン』などが代表作で、妖精や動物たちを描いた可憐で繊細な作品を多数発表した。幻想的なモチーフの中に自然描写を生かした画風が印象的である。古典・新作問わず多数の児童書に挿絵を付け、カラー印刷技術の黎明期に輝かしい功績を残した。
Burundiから1977年に発行された「各国の童話」シリーズでは、 5地域、それぞれ4種ずつ20種の切手が発行されたのだが、「英国童話」の4種は、すべてアーサー・ラツカム(Arthur Rackham)のイラストを採用している。『井戸の中の3つの頭』、『ジャックと豆の木』、『不思議の国のアリス』、そして、『マザーグース』である。
今回は、この「マザーグース」 (フランス語でMa mere l'oie)に焦点を当ててみたい。これは、アーサー・ラッカムの『マザーグース』(初版1913年)の175ページに掲載されているイラストである。
唄は"The fair maid who, the first of May"。あまり有名な唄ではなく、掲載されている本は少ない。
全文は、
The fair maid who, the first of May
Goes to the fields at the break of day,
And walks in dew from the hawthorn tree
Will ever after handsome be.
5月1日の早朝に野に出て
サンザシの木からしたたる露に
ぬれて歩く娘は
いっまでも綺麗でいれるでしょう
(鳥山訳)
5月1日のメーデーに、サンザシからしたたる露で顔を洗うと美人になれるという、言い伝えを歌ったマザーグースである。サンザシの木(hawthorn tree)は、聖なる木と考えられていた。
寺山修司の訳は、かなり意訳である。
朝つゆで口をそそぎ
朝つゆで顔をあらう
かわいいポリーのすぐうしろ
木かげにかくれた人がいる
その名はだれでしょ?
どなたでしょ?
(こたえは−春です五月です)
(『マザー・グース』 寺山修司 親書館より)
切手のイラストを見てみよう。綺麗な娘がサンザシの木のそばを歩いている。エプロンてしたたる霧を受けているのがわかる。後ろには、キノコの精やリスが見える。ラッカムのイラストと若干異なるところも見える。
右上に配置されたリスとキノコの精は、ラツカムの絵では、左側のサンザシの木の枝の上から娘を見下ろしている。オリジナルに比べて、かなり不自然な構図となっている。
また、ラッカムの絵では左下にキノコの精が2人いるが、切手では木の切り株のようなものが見える。このように、数力所オリジナルと変わっている箇所があるが、おおむねラッカムのイラストと同じであることがわかる。