野生のなかまたち

昨年は巻頭におサルのことわざシリーズをお送りしました。
全く反応が無く、おそらく不評であったろうと反省サルしています。
そこで、今年は新たな企画で一年をごまかそう、ではなく、乗り切ろうと思います。
題して「野生のなかまたち」です。
私こと、おサルの○留がこれまで出会った野生のどうぶつたちについて熱く語ってみたいと思うのです。
これにより自然を愛し、環境を大事にする豊かなきもちが育まれるなら、望外の喜びです。


鶴(つる)
 やはり、正月はこれでしょう。鶴は千年、亀は万年といいます。
 私の田舎である鹿児島県の出水市には毎年冬になると数千羽、時に一万羽の鶴が越冬にやって来ます。
 種類はナベズル、マナズルなど色が黒(灰色?)っぽいのが多く、真っ白な丹頂鶴はほとんどいません。なんか見栄えはしませんが、それらでも絶滅危惧種に含まれていて、国の特別天然記念物に指定され、保護地区や撒き餌などの対策がとられています。そのためか、出水平野全体で鳥類がやたら多く、やかましくてたまりません(関係者の皆さんごめんなさい)。
 最近では鶴の博物館が出来たり、あちこちから鳥類の研究者が訪れています。
 私など小さい頃から鶴を見ているものですから、別に珍しくありません。鶴は朝、夜明け頃からねぐらを飛び立ち、平野各所の休田へ家族(つがい+子)で、降り立ち、落ち穂やドジョウなどついばんで、夕方また帰ります。なんか、サラリーマンみたいですね。毎年同じ鶴の家族で、その年生まれた小鶴が翌年には一回り大きくなり帰ってきます。
 春になると、シベリアの湿原地帯へ飛び立つのですが、それは見ものです。グループごとにゆっくりラセンを描くように上空高く舞い上がり、やがてV字の隊列を組んで北の空へ消えてゆくのです。
 実は一度だけ、その先を見たことがあるのです。
 学生時代の春休みに長崎県の平戸島で発掘に参加していたときのことです。頭上から聞き覚えのある鳴き声がします。見上げると、はるか上空にV字に列をなす鶴が北へ向かっています。
 そうか、と気づきました。出水を飛び立ち、九州西海岸に沿って北上すると、ちょうどこの平戸島に達します。さらに壱岐、対馬、朝鮮半島東岸を目印として飛んでいるのでしょう。
 一瞬、国境のない彼らについて一緒に飛んでゆきたい気になりました。でも後で、この数千キロに及ぶ北紀行で弱い鶴は死んでしまうと聞き、考え直しました。やはり千年は無理のようですね。(1/10)
補足です。最近、この鶴の北紀行について、下記のようなおもしろい著作があることに気付きました。筆者の鴨川さんは長崎の方で私と同じようにはるか上空を飛ぶツルに興味をもち、地道に調査を続けられたそうなのです。一度読んでみてはいかがでしょうか。
鴨川 誠著『ツルはどこからやって来るのか』葦書房 2001年2月刊行(2/25追加)

亀(かめ)
 そう、やはり相当以前のことです。広島県冠(かんむり)遺跡の発掘調査を見学に行きました。中国縦貫道路の建設に伴い旧石器時代遺跡が調査されていたからです。冠遺跡は中国地域では有名な旧石器時代の遺跡です。私が遺跡を尋ねるのは2回目でした。
 遺跡は山口、島根県境にちかい中国山地のほぼ中央の通称「冠高原」にあります。広島市内からバスを乗り継いでたっぷり3時間ほどかかります。昼過ぎに佐伯町までたどり着き、乗り換えのバスを待ちました。小さい町ですが、ここはにぎやかです。やがて古ぼけたバスがやってきました。大きな荷を背負った行商のおばちゃんなど、少ない乗客といっしょになり発車です。バスは岩倉温泉のある渓谷をゆっくり進んで行きます。私は景色がよく見える最前列に座ることにします。付近の山々は美しく、渓谷の水も澄んでいます。でも道路は狭く、工事車両が通る度に減速せざるを得ません。さすがに、運転手は手慣れたものです。
 とあるバス停で止まると、小学生数名が乗車してきました。この付近は校区が広く、バス通学せざるを得ないのでしょう。低学年とみられる子供達はみんな背中にランドセル、首に定期券を下げています。そのうちの一人が両手で黒いものを持っています。よく見ると大きな石亀です。
 運転手が聞きました。「○○坊、それはなんだい?」(本当はすごい広島弁でしたが、うまく表現できないので訳文とします)
 日焼けした子供が白い歯を見せて答えます「亀だよ!、川でつかまえたんだ!」
 運転手「だめだよ、離しておいで」
 子供「いやだ、持って帰るもん」
 運転手「しょうがないな、ああ水が垂れているじゃあないか、まったく…」
 運転手の小言など無視して、みんなで亀の頭や、手足のところをつついて無邪気に遊んでいます。
 行商のおばちゃんもにこやかに話しかけています。驚いたことに運転手を含め、私以外の乗客はみんな顔なじみなのでした(続く)。(4/14)

熊(くま)
 (前回からの続きです。)バスは谷沿いの山道をさらにゆっくり上って行きます。
 後ろの子供たちは座席を立ち、亀を取り合いしては遊んでいました。運転手もバックミラーを覗きながら、ちゃんと座るように幾度か注意していました。そのときです。バスは急ブレーキで停車したのです。
 私はびっくり、どうしたのかと車のフロント側を見ると、前の道路を中型の犬ほどの黒い動物が転がるように横切り、川のある斜面に降りて行くところでした。
 運転手「また、熊だよ!」。
 乗客の一人「最近多いねえ」
 「わぁー」子供たちはまたも大騒ぎです。「亀落とした!」「あー、亀がウン○してる!」通路に亀が仰向けに転がり、周りが汚れています。子供たちも乗客も大爆笑。運転手はマユをひそめています。
 私は声が出せません。実は野生の熊を近くで見たのは初めてだったからです。
 それにもまして驚いたのは、このあたりでは、こんなことが別に珍しいことではなさそうなことです。
 バスは、また何事もなかったように山道を登り始めました。
 九州には熊がいません。すでに絶滅したようです。数年前に大分,宮崎県境の山中で見たとかいう新聞記事がありましたが、結局確認できなかったようです。今は動物園や阿蘇の「くま牧場」でしか見ることができません。最近京都市で住宅地に一頭の熊が現れ、射殺されたと報道されました。きっと人間のために熊の生息できる場所は少なくなっているのでしょうね。
 あのとき川辺に下りていった熊はその後どうなったのでしょうか。そして、バスに乗り合わせた人たち、子供たちは元気でしょうか。(5/16)

蛇(ヘビ)−T
暑い日が続きます。
 私が発掘調査を進めている場所は、両側を山で囲まれた谷あいなのです。そのため年中湧水があり、湿気を好む虫、カエル、サンショウウオなど小動物がいっぱいいるのです。また、そうした小動物を狙う鳥やヘビも少なくありません。
 先日も草むらを歩いていると左足が急に重くなりました。
 「えいっ!」と足を持ち上げると、ヘビが安全靴に絡まっています。
 「うわっ」と驚き、足をばたつかせると、ヘビは慌てて離れました。見るとマムシではなく、長さ30cmくらいのシマヘビです。「なんだ、脅かすなよ」と、もう一度蹴飛ばしてやりました。シマヘビは水路のほうへ一目散に逃げて行きます。
 ヘビは苦手という人は多いのでしょうが、田舎育ちの私はあまり怖くありません。でも突然現れると驚きます。それは一瞬ではマムシなどの毒蛇と区別がつかないからですが、やはりあの姿や動きに違和感があるからなのかもしれません(7/29)。


 9月に入ったとたん涼しくなりました。それにしても今年は暑い夏で、汗だくでビールがうまくてもうばてバテでした。そんな訳でますますHPの更新が途絶え気味です。しかし夜風が涼しいとまたビールが一段とうまいのですよねえ。
 そう、ちょうどこんな季節になると「狐狩り」の話を思い出します。
 それはとんと昔のことでした。9月の北海道、それは秋が駆け足で過ぎる季節です。道東のとある遺跡で発掘をしていた学生が3名おったとな。昼休みに農道で休んでいると向こうの山際の畑に動くものがいます。よくみるとまだほんとうに小さい子狐です。こちらに気づかずにゆっくり近づいてきます。3人は顔を見合わせ、お互いに目で合図を送ります。「キタキツネ」、「狐汁」、「う・ま・い」、「びーる…」、3名思わずニンマリ。さっそく狐狩りの開始です。気づかれないように三方に分かれます。遠回りし、おおよそ子狐を囲む位置にくると、同時に接近し包囲を狭めるのです。子狐はまだ気づかず地面をくんくん嗅いだりしています。音を立てぬよう静かにすこしずつ前進します。「しめしめ」、およそ10mくらいに近づいたでしょうか。よく見ると子狐はきれいな毛並みでとても愛らしいのです。「かわいそう」そんな気持ちが頭をよぎります。でも、若い食欲にはかないません。「ムツゴロウ先生、ごめんなさい!」そして、さらに一歩前進!
 そのときです。それまでのんびりとしていた子狐が急に背筋をピンとのばし、鼻を天に向け耳を立てました。気づかれた?!
 三人同時に飛び掛りました。ピョン!それは見事にジャンプ。畑の中を飛び跳ねながら山のほうへ逃げて行きます。その早いこと、
あっというまに視界から消えてしまいました。その夜は狐狩りの失敗談に花を咲かせ、ストーブを囲み近くの農家の方からもらった新鮮なトウモロコシ、ジャガイモをほおばりながら、ビールです。これがまた美味いのです。あの子狐は親のもとに帰ったのでしょうか。(9/5)

カササギ
 昨年末くらいから我が家の庭にやかましい鳥がたびたび舞い降りているのは分かっていました。先日、玄関を開けると目の前に白黒の鳥が棒切れをくわえていて、飛び去ったのです。「カチガラスだ!」 はっと、上を見上げると前の電柱の上にすでに大きく膨らんだ巣が作られているではありませんか。
「おいおい、勘弁してくれよ…」 私は泣きそうになりました。
 カチガラスとはカササギの別称です。
 調べてみますと、
 「カラス科の雑食性。国内で代表的なカラス(ハシブト・ハシボソガラス)よりひと回り小さく、尾はやや長い。黒い翼には白斑があって美しい。1―6月の繁殖期にはつがいで行動する。径1−2kmの狭い範囲で活動し、縄張り意識が強い。巣作りは早くて12月から。巣立った若鳥は雑木林などをねぐらに群れで生活するが、十羽以上になることはほとんどない。朝鮮出兵(侵略)に参陣した鍋島直茂(1538―1618)の耳には、「カチカチ(勝ち勝ち)」と鳴いているように聞こえ、縁起が良いと持ち帰って保護し、やがて野生化したという説が有力。自然飛来説もあるが、大陸に近い唐津、伊万里市方面には生息せず。佐賀平野一帯にのみ分布が限られる点が疑問とされる。佐賀県の県鳥であり、1923年に天然記念物に指定されている。」(文化庁などのHP記載から引用しました)

 また、中国では、古くから庭先に下りてくれば男児の出産や出世をもたらす「吉兆の鳥」とされ、巣の周辺では火事が起きないとの言い伝えが残ります。中国の古い説話に登場し、例の七夕伝説では織り姫とひこ星が結ばれるときに、その羽が天の川の懸け橋になるとか、大事な扱いをうけています。
 そんな鳥に対して私が嘆いたのはその習性なのです。それはカササギが「停電運ぶ"吉兆の鳥"」と呼ばれることからです。
 この鳥は夫婦で協力して、くちばしで小枝を巧みに使い、高木に見事な巣を作るのですが、最近は八割が電柱に変わったそうです。材料も木の枝だけでなく、各種のごみ、土、針金などを使うのです。春にヒナが生まれて巣立つと翌年にはまた新しい巣を作り、二度と古巣は利用しないのです。
 もうお分かりでしょう。佐賀平野では、この巣のせいで多いときには一年に百件近い停電が起き、電力会社を悩ませてきたのです。天然記念物ですので駆逐する訳にはいきません。
 佐賀県ではその対応として、巣を作りそうな個所に風車を取り付けたり、猫の絵を張ったり、定期的に営巣パトロールするなどしてきたそうです。現在は電柱に営巣用の余地をあらかじめ用意し、絶縁カバーを二重にして共存へ方向転換を図るようになってきました。そうした配慮のせいで、20年前の二倍以上の1万8000羽まで増えたと推定され、次第に生息域が広がっているようなのです(余計なことを!と言うのは誰?)。
 我が家は福岡県ですが、隣町は佐賀県基山町です。
 およそ400年かかって分布の拡大がとうとうこの地域まで及んだことを喜ぶべきなのでしょうか。
佐賀県と違い、この地域ではまだその対策など取っているはずもなく、今は毎日停電が起きないことを祈るだけなのです(2/25掲載)。

コチドリ(小千鳥)
 昨年1年企画としてはじめたこのコーナー、気の向いたときに更新し、だらだらと2年目も続けています。何せ自分で言うのもなんですが、無計画、行き当たりばったりの私ですのでこの有様です。このHPが公で無く、個人サイトでよかった!ネタが無いわけではないので、しばらくはこの調子で行きたいと思っています。
 さて、私はこの春から新しい遺跡の発掘調査に変わりました。これまで糸島半島に居ましたが、今度は早良平野の山際にある台地上に移ったのです。眼下を室見川が流れ、背部は緑豊かな山々が連なっています。早良平野は次第に都市化が進み、建物等は対岸まで迫っています。とはいえ、ここはまだ自然が豊かです。鳥のさえずりが聞こえて、聞こえて…、やかまし過ぎます。頭上ではトンビとカラスがバタバタ争うわ、ヒバリが鳴くわ、スズメの群れが通過し、山バトやキジが飛び立つわ、現場の水溜りにサギが舞い降りるわ、ツバメが虫取りに飛びまわり…。まだまだ名も知らぬ鳥が始終飛びまわっています。こんなに鳥類の多いのも初めてです。
 ある日弥生時代の住居跡の図面を取りはじめると、私の周りを小鳥がさかんに走り回ります。見ると突然立ち止まり、まるで翼が折れたかのような仕草をします。「あっ!擬傷だ」。幼い頃、同様のヒバリを追いかけようとしていた私に、お袋が母鳥はヒナを守るためにあんな芝居をしてるんだよ、と教えてくれたことを思い出しました。「ふ−ん、えらいねえ」と思った気がしますが、これは地上に営巣する鳥の習性のようです。
 とするとこちら側に巣があるはずと探すと、、、。やはりありました。何と住居跡に隣接し砂利を集めて巣が作られています。その中にすでに卵が4個産まれています(下左写真)。近づこうとすると、親鳥が甲高い声で必死に鳴きます。「ピイィオ、ピイィオ」
 「わかってるよ。卵は取らないよ。」でも親鳥は信じてくれず、いつまでも鳴きながら擬傷を繰り返します。
 最初、「だめだめ、だまされないよ」と、無視して図面を取りつづけましたが、5分、10分、あまりのしつこさに次第にいら立ちが隠せません。「このお、だまされてやろうか!」ついに我慢できず、とうとう追いかけて廻ってしまいました。
 息を切らせつつ、私「ここの作図は最後にしよう。」
 こうして住居跡の占有権を奪われてしまったのです。
 この鳥は、友人のY山氏からコチドリ(学名Charadrius dubius)と教えられました。主に東南アジアで越冬し、夏鳥として極東に飛来、繁殖するそうです。主に河原に営巣するそうですが、室見川に近い段丘礫層が一部現れたこの場所を選んだのでしょう。
 なお、その後しばらくしてヒナが孵りました(下右写真)。そのヒナも巣立ち、昨日ようやく住居跡の実測も終わらせることが出来ました。めでたしめでたし(5/22掲載)。