3月4日(土)にタイでは初めてとなる上院選挙が行われる。これまで上院は任命制だったが、民主化の象徴として選挙制への移行が決まった。タイでは連日、マスコミが選挙報道を繰り返しており、国民の関心も高い。年内に予定されている下院選挙への布石にもなる。その加熱ぶりを(できる限り)お伝えする。

【やり直し選挙】(00年4月29日)

 今日、29日は上院選挙のやり直し投票の日だ。前日は店で酒類の販売は禁止で、休日前なのにヤケに静かな夜となった。朝からTVは選挙報道一色。通勤途中にある投票所をみたが、警察官がおり黄色Tシャツをきたボランティアが待機しているが、有権者の足向きはほうひとつの感じ。たぶん、マスコミは速報体制でタレ流しするのだろう。でも日本はGWってこともあり、繁華街や観光地は全然関係ない様子。ついで「禁酒令」は投票終了後の午後5時には解除されるらしい。よっしゃー。

【命が危ない】(00年4月4日)

 当選取り消しにともなうやり直し選挙について、一部地方の選挙委員会メンバーから「命が危ない」との訴えが届いた。脅迫まがいの事件が相次いでおり、選挙委員会ではメンバーの安全保障を求めている(だろうな)。

【3人は候補取り下げへ】(00年3月23日)

 選挙委員会は当選を取り消した78人のうち3人について、やり直し選挙への出馬は認めない方針を決めた。選挙違反が原因だが、より悪質なためなのか不明。また一部マスコミはやり直し選挙は4月末に行われる可能性が強いと報じた。

【上院選やり直し】(00年3月22日)

 選挙委員会は20日、3月4日投票の上院選で当選した78人は無効とする判断を下した。買収など選挙違反が行われたのが理由で、向こう2カ月以内に35県でやり直し選挙を行う。78人はサナン内相夫人など政官軍の関係者に集中しており、英字紙ネーションは「政治的な勇気」と今回の判断をたたえる見方を示した。ただ22日付ビジネスデーは、無効となった78人は再出馬できるだろう、とのニュースを掲載。「元の木阿弥」になる可能性もある。日本の新聞では読売新聞、毎日新聞、産経新聞が報じたが、朝日新聞は22日付けの記事掲載を見送った。

【現地邦人紙の見方】(00年3月15日)

 アジア地区で日本人向けのニュース提供サービスを手がけるNNAが今回の上院選挙を総括している。「首都と地方で政治意識にずれ」との認識は現地および日本の新聞と同じだが、その原因として「経済面での地域格差が背景」と一歩踏み込んだ分析をしている。

 最も貧しいと言われる東北部とバンコクの所得格差は平均で6倍、最大で10倍もある。それ故、地方では利益誘導型の政治家に票が集まり、裕福なバンコクでは浮動票が決め手となる。まぁ、日本も同じか。東北部に地盤を持つチャワリット、バンハーン元首相が短命で終わったのも、バンコクでの知識層が旧来型のやり方を嫌った結果とNNAでは分析。チュアン首相が長期政権なのはターリン蔵相など一部閣僚にテクノクラートを採用しているためと見た。

 したがって、この構造が変わらない限り、年内に予定されている下院選挙(いわゆる総選挙)も、「首都圏での民主化議員の誕生、地方では政・官・軍関係者」との図式は変わらない、としている。

【当選は無効か!?】(00年3月9日)

 選挙管理委員会は8日、バンコクで当選した3人の議員を当選を一時見合わせると発表した。同委員会によると、この3人はお金で票を買った疑いがあり、調査に乗りだした。

【次は議長選が焦点】(00年3月7日)

 上院選挙の終了をうけ、上院における議長選出が大きな焦点になってきた。バンコクポストは連日この問題を取り上げ、「民主化に相応しい人物を選ぶべき」と政党政治家や官僚、軍・警察などを牽制した。55年体制が崩壊した後に、当時の社会党の土井たか子が議長に選ばれたときを連想すれば状況は近いか(少し乱暴かな)。

【チュアン首相が総括】(00年3月7日)

 チュアン首相は6日、「今回の上院選挙は自由で公平であり、タイ国民は結果を受け入れるべきだ」と語った。選挙で不正が行われたのはないかとの質問に答えたもので、チュアン首相としては「不正は無かった」との認識を示したことになる。6日発のロイター電が伝えた。でも、その点はタイ国民やマスコミとの間で認識の違いがあるようにも思える。

【日本の新聞の論点・2】(00年3月7日)

 選挙結果が6日に出揃ったのを受け、朝日と読売が上院選挙に関するニュースを掲載した。朝日は「スラムの天使も当選」と比較的小さな扱い。草の根運動家の当選などで「民主化の進展に貢献する」と地元紙の見方を紹介する一方、不正も多発し「当選を取り消される候補者がでる可能性が残っている」と指摘した。

 一方の読売は4段見出しのかなり大きな扱い。こちらも「政治改革の目的はある程度達成された」と、まずは好意的。ただ、政治家などの側近者の当選が76人、元官僚68人、軍・警察関係30人が当選し、「民主化の実験」(ネーション)に少し辛い採点。しかし、全体としては任命制時代よりは一歩前進と評価している。

【海外の論調・1】(00年3月6日)

 6日現在でインターネット上で検索できたのはAP電、BBC、AFP電。CNNのホームページ(HP)はAP電を掲載している。内容はどこも似たりよったり。

 つまり、政党からの立候補者を禁じた今回の上院選挙は、都市部で大学教授やNGO関係者が当選するなど「民主主義に向けて一定の評価を下せる」との見方。一方、地方ではサナン内相の奥さんや軍関係者が当選するなど「従来と同じように利益誘導型選挙が行われた」と断じた。またバンコク都内では不正は見られなかったが、バンコク近郊や地方都市では不正が横行した、と伝えている。ただ、任命制だったこれまでの選挙に比べれば、政治や社会が良い方向に多様化するだろう、と概ね好意的な論調が目立つ。まぁ、日本で読んだ新聞と同じだろうか。ちなみにAFP電とBBCには当選した同じNGO関係者が登場。一緒にインタビューしたのかな?発言内容もまったく同じだし。報道機関も少しは民主化した方が良いのかも。みんな同じこと伝えているんだから。

【選挙に不正はつきもの】(00年3月6日)

 選挙に不正はつきもの、と言えば怒られるか。浮動票が多い首都圏の人々はそう感じないかもしれないが、地方では組織選挙は当然。首都圏でもある宗教団体の「違法選挙運動」を知らない人はいないだろう。まぁ、タイでも同じ、だ。ネーションの選挙速報によると、ナコンパトムで一人が射殺される事件が起きたほか、全国で12件の買収事件が発生した。選挙管理委員会は全国20カ所に公正な選挙が行われいることを調べる体制を敷いたが、バンコクでは1票2000バーツで票が変われていた事実を伝えている。2000バーツは日本円に換算すると約6000円程度だが、単純労働者の月給が4000バーツ程度であることを考えると「かなり意味のある1票」とも言える。

【日本の新聞の論点・1】(00年3月6日)

 と言ってもタイ上院選を6日(月)付け紙面で伝えたのは毎日、日経、東京の3紙だけ。日経は7割近い投票率を評価する一方、「不正の横行が伝えられるなど問題点も残った」とまいどの論調。毎日はスラムの天使と呼ばれるNGOプラティープさんの当選を写真入りで紹介。ついでにプラティープさんの旦那は日本人ということもあり、日本でもかなりの有名人。NGO関係者3人が当選し、「タイ政治の新しい流れを感じさせた」と総括。しかし、地方では警察幹部や元官僚が多数当選したことに触れて、「任命時代と同じ軍・官主導の議会になりそうだ」との見方を示した。東京も毎日とほぼ同じ論調。しかし憲法改正後の初の上院選挙、しかも年内には下院選挙もあることを考えると、日本の報道は少し寂しくないか?台湾の総裁選、ロシアの大統領選とは「格が違う」とはいえ、モノ足りなさを感じる(生意気なことを書いてしまった!!)。

【大勢が決まる】(00年3月6日)

 投票から2日たった5日の段階で選挙の大勢が固まった。都市部のバンコクではNGO関係者などリベラル勢力が議席を獲得したものの、地方では軍人や政党関係者など既存勢力が着実に議席を伸ばし、都市部と地方での政治意識の違いが鮮明になった。また都市部でも上院経験議員の当選が多かった、とNNAは伝えている。

 選挙はバンコク区(18議席)、東北部(同69)、中部(同33)、南部(同27)、東部(同17)、北部(同36)が内訳。ネーション速報画面は当選者一覧表を掲載しているが、人物背景が分からないだけに、本誌としてはコメントなし(ごめんなさい)。

【速報体制を組む】(00年3月5日)

 ネーション電子版にいきなり選挙速報画面が登場した。5日(日)の夜(日本時間)の段階で軍人13人が当選確実など、日本の選挙速報さながらに模様を伝えている。なぜかバンコクポストには選挙画面はなし。今回の選挙は街頭での演説が禁止されるなど、加熱する一方の選挙運動を抑える傾向が強かった。そのせいか「国民の認識度はいまほとつ」(NNA)との見方もある。ちなみに投票日のこの日、ナコンパトムで投票を終えた人がピストルで撃ち殺される事件が起きた。選挙との関連は今のところ不明。

【今どき帰省ラッシュ】(00年3月4日)

 投票日の4日付けネーション紙電子版は北行きバスターミナルの混雑ぶりを写真入りで伝えた。「どうして今どき帰省ラッシュ?」と訝っていたら、「投票のため地元に戻る人々」とのP(写真)説明。出稼ぎにきている人は住所登録が地元のため投票するには田舎に変える必要があった。今回の選挙は初の投票による上院選挙であることに加え、憲法改正後初の選挙でもある。民主化の証拠として選挙を成功させたいとの気持ちが政府には強く、「選挙を棄権した場合は一部の公民権を剥奪する」と脅迫したのが効いた。おかげで投票率は70%以上と過去最高を記録した。しかし、投票日当日にタイの選挙を報道した日本新聞は日経のみ。しかもベタ記事で小さく「今日、投票」とだけあった。 

【学校は休みで酒はダメ】(00年3月3日)

 タイでは選挙の2日前は店で酒を飲めない。理由は不明だが、選挙絡みで死者が出るのを防ぐのが狙いか。一度、日本の新聞が「フィリピンでは選挙当日は酒はだめ」と小バカにしたようなニュースを流したことがあるが、タイでも同じだ。そんなことを知らずバンコクのメシ屋で「酒をくれ、酒だー」と何度も注文したら怒られてしまった。ついで選挙前の3日(金)は学校も休みになった。タイでは土日は学校はすべて休みだが、どうして休みになるかは不明。まぁ、いよいよ明日は選挙です。

 

【基礎知識】(00年3月3日)

 現在の下院議席は270で、下院は393議席。97年の憲法改正で上院の議席は200に削減、下院は逆に500議席に増えた。上院の立候補者は1532人でかなりの激戦。