【Book Review】

 これまでタイ関連の本だけを紹介してきたが、読者家でもないせいか、なかなか更新できない。で、自分で読んで為になったり、他人にお薦めできる本も紹介することにした。他のコーナーと同様に「好き勝手」にやらさせて頂きます。

・「タイ人と働く」 ヘンリー・ホームズ&スチャダー・タントンタウィー著(末広昭訳・解説)

   (めこん 2000円+税)

 タイ人とはなにか?を分析した一冊。タイ人社会はヒエラルキーで、その中での気配りに一番の気を使うと指摘。横の世界では、家族との関係(気配りの世界)、職場・学校などの関係(ヒエラルキーの世界)、交通などの公共の場(自分本位の世界)があるとした。つまり、色々な場面で「擬似家族的な世界」をつくり、親(場合によっては国王または上司)に気に入られるようタイ人は多大な努力を払い、それ以外の無関係な場合は傍若無人に振る舞う、としている。こう書いても多分、理解できないでしょうから、まず本書を読んで下さい。でも、ある程度、タイ人との交流がない人は意味不明だろうけど…。タイを知るには書かせない貴重な存在とだけはいえる。でも、なぜかこうした分析はアングロサクソンから出て来るんだよね。日本も昔、戦争しているとき米国にやられたじゃない、「汝の敵を知れ」って。あれから50年以上もたち、米国の対日分析も高度になっているんだろうな。前述のインサイドレポートとともにタイに来て初めて読んだ本だが、この2冊は書かせない感じがする。

・「タイ・インサイドレポート」 プラウィット・ロチャナプルック著(永井浩訳)

   (めこん 1800円+税)

 ここに登場するのは貧乏な農民や労働者、「反政府活動」の烙印をおされた環境保護運動や労働運動のリーダ、SEX産業の犠牲者など。副題には「成長神話の夢と裏切り」とある。タイ人自身が書いたタイ社会の裏側レポートを読んだのは初めてだったので新鮮な感じがした。訳者による注意書きもそのまま、基礎知識として役立つ。東京神保町の「アジア文庫」でベストセラーに入っていたので買った。「日本人も結構、真面目にタイのことを考えているんだ」と思ってしまった。

・「勝負の分かれ目」 下山進著

   (講談社 2400円)

 昔ロイター、今はブルーンバーグ−。金融向け情報端末の有力企業です。通信社といえばジャーナリズムの匂いがするが、実態は「株屋向けの情報屋」に近い。そのヘンの動きをダイナミックに描いた力作だ。通貨危機を起こしたタイについて裏読みできるとの見方もできる。いちおう私も新聞業界に身を置くモノだから、とても楽しく読めた。でも文芸春秋の社員が講談社から本出して問題なにのか、と変なことが気になった。

・「日本占領下タイの抗日運動」 市川健次郎著

    (けいそう社、1854円)

 キミは「自由タイ」を知っているだろうか?事実上、日本に占領されていた日本からの独立運動で、戦後タイの政治シーンをけん引したエリート達の物語だ。かなり前に8月15日の「敗戦記念日」にNHKで紹介されたこともあるが、そのタネ本がこれ。前から欲しかったが、ようやくアジア文庫で入手できた。副題は「自由タイの指導者たち」。2年ほど前にタイでドラマ「自由タイ」が放映されたこともある。ただ、こちらは日本軍の残虐行為ばかりが注目され、在タイ日本人達が肩身の狭い思いをしたとの話しを友人から聞いたことがある。いずれにしろお薦めの1冊です。 

・「全予測アジア99」 三菱総研編

   (1800円+税)

 「混乱期のアジアを見直す」がサブタイトル。でも、なんと言うか、この手の本は2、3冊読むと大抵同じ内容だから飽きてします。だってデータの集め方、分析の仕方、視点・論点が全部同じなんだよね。そもそもデータの内容だって同じなんだもん。今、経済学のあり方が問われている。モノの捉え方、手法そのものが問われている。そっちの方が興味あるようね。少なくとも人間の為にはなる。つい最近「全予測2000」も刊行されたけど、内容は同じだろうね(たぶん)。 

・「血族」 宮崎学著

   (幻冬舎 1800円)

  「突破者」こと宮崎学が、バンコク在住のマフィアの半生を描いた。題して「アジア・マフィアの表と裏」。華人でもある主人公は国民党軍に参加、敗戦後はバンコクで山岳民族の独立運動を支援する一方、資金稼ぎのため裏家業に…。まぁ、バンコクにいる華人マフィアがどんなモノか知りたい人向き。そんなモンだろうね。 

・「タイ・演歌の王国」 大内治著

   (現代書館 2200円)

 なぜか夕刊ゲンダイに紹介されていた。タイの演歌はルークトゥン屋モーラムだが、その虜となったタイ在住の筆者が自らの体験と研究成果をまとめた。タイの演歌は下層階級の歌で、内容も貧困と売春婦、国境がテーマ。「歌を通してタイ社会がのぞける」(夕刊ゲンアイ)とか。 

・「トムヤム君の冒険」 アラーキー

   (祥伝社 3570円 税込み)

 アラーキーがバンコクで写真展を開いた。その時の様子を伝えたもの。「バンコク写真博覧会」と副題にあり、「タイの首都、バンコクのけたたましい騒音や熱気、むせかえうような匂い」と書いてある(噂の真相9月号より)。以前、同誌にバンコクの写真が載っていた。タイの女性諸君、せめて人前でパンツを脱ぐのは辞めてくれ…。 

・「バンコク発カオサン通りに吹く熱風」 花田一彦著

   (イーハトーヴ出版 1300円)

 周知のようにカオサンはバンコクにある旅行者向け安宿のある地域。本書はここを拠点に「バンコクの裏の裏まで堪能する紀行ルポ」(日刊ゲンダイより)。なぜか最近、このテの紀行モノが増えている感じ。貧乏でもないのに貧乏旅行し、誰も知らない「アブナイ」行為するのがエグイと思っているキミ、馬鹿なマネは辞めたまえ。と言っておこう。 

・「足枷」 渡辺也寸志

  (ポット出版 1900円+税)

 アメリカの謀略にはまった「よど号」田中義三、田中義三の素顔が描かれた唯一の本。タイの「偽ドル事件」裁判は完全無罪。つぎは日本への送還か?えん罪だった「偽ドル事件」の真相に迫る。好評発売中。と宣伝文句にある(「噂の真相」9月号より)。読んだ人は感想を寄せて下さい。 

・アジア経済修復への道

 日本経済新聞のマンデー日経に東京工業大学の渡辺利夫教授が「今を読み解く」シリーズに寄稿している。

 榊原英資氏の「国際金融の現場−資本主義の危機を超えて」(PHP新書、98年)によると、今回のアジア通貨危機は「アジアの危機ではなく、グローバル・キャピタルの危機なのだ」という。不寛容な資本主義原理主義を食い止めなければ世界は奈落に落ちると警告を鳴らす。梶原弘和氏の「アジア発展の構図」(東洋経済新報社、99年)は、今後の発展は企業にあると将来を展望する。しかし、大学の先生なんだから、もっと本を読んでいてよさそうである。 

・「タイ−自由と情熱の仏教徒たち」 山田均著

    (参修社 2800円)

 タイ仏教を専門とする大学助教授が気にするテーマは「タイはどこからきたのか?」。タイ語、仏教、華僑、バンコク建国などをキーワードに筆者なりに糸口を見つけようとする。タイ人の習慣などは知っていても、タイの歴史や文化に造詣のある日本人は意外に少ないのでは…。ただ個人的には巻末の「タイ最新メディア情報」が一番楽しめた。「タイこだわり図鑑」(トラベルジャーナル)の著書もある筆者の本領発揮か。 

・「アジアの田舎町」 下川裕治著

    (双葉文庫 457円+税)

 タイではチェーンライ、メーソート、茨城県荒川沖のリトルバンコクが登場する。チェーンライでは「ただ目的もなく旅のための旅をする」豪州青年と会い「開眼」。メーソートで何も変わらないミャンマーと近代化するタイの「差」を感じ、リトルバンコクでは異邦人のたくましさをみる。「豪州で1年働けばタイでは3年暮らせる」との豪州青年の声を聞いた著者も、その後「旅するための旅」に徹するようになる。「12万円世界一周」の著書もある筆者のアジア無頼旅行記でもある。 

・「東南アジアを読む地図」 浅井信雄著

   (新潮社 1300円)

 著者は確か新聞記者(だと思う)。複数の文明が共存し、宗教も多様な東南アジア地域を分析し、近未来を予測する。中国の存在感が増すとした。日経の書評欄によると「安全保障から社会論まで著者の取材活動の蓄積が感じられる」としている。 

「図解 アジア経済」 原田泰著

  (東洋経済新報社 1500円)

 東洋経済新報社が送る「アジア経済本」の入門編。著者は経企庁の調査課長で過去に「タイ経済入門」がある。平易で分かりやすい表現ながら、過去に出版された「経済危機本」との違いに力点を置いているのがニクイ。お勧めの1冊だ(99年4月21日)。

 

・99年3月1日付け日経読書欄「今を読み解くこのX冊」で「アジア経済はいつ復活するか」をテーマに新たに出版されたアジア危機本を紹介している。浦田秀次郎・木下俊彦編著「21世紀のアジア経済 危機から復活へ」(東洋経済新報社)は、構造改革が順調に進むと過程した場合、3年後には6%台の回復が可能と指摘。高貯蓄率、健全財政などファンダメンタルズが整っているためと語る。ただ原洋之介編「アジア経済論」(NTT出版)は、金融・不動産部門だけでなく、貿易関連だけでも大幅な調整が必要だと訴えた。経済危機のその後について語っているのだけど、「ありきたりな内容か」と読んでもいないのに思ったりして。

 東南アジアの経済を牛耳っている華人の動向については、祭林海著「アジア危機に挑む華人ネットワーク」(東洋経済新報社)が詳しい。 

・「タイ・フルブランチへの道」 米田敬智著

   (中央公論 720円)

  銀行の事務所長としてタイに赴任し、総合支店(フルブランチ)化するまでの7年間を綴ったビジネス・ルポ。単なるハウツウ本ではなく、タイ社会の深層にも鋭く切り込む(サンケイ新聞 99年2月10日付け)。 

「homeland」 小林紀晴著

  (NTT出版2850円)

 「ASIAN JAPANESE」(情報センター出版局)などで知られる著者が故郷・長野を撮った。経歴には68年生まれ、新聞社で3年半カメラマンとして働き、アジアへの旅にでる、とある。この「新聞社」とは私が勤める某工業新聞でのことである。でも、小林はなぜか自分が勤めていた新聞社の名前を明らかにしない。もう少し文章がうまくなれよな、小林。オレが内田だ、じゃあな。 

「タイ 開発と民主主義」 末広昭著

   (岩波新書 580円)

 筆者は元アジア経済研究所の研究員で、現在は大学の先生。タイ近代史と経済論が先行だ。タイ近代史の祖は57年にクーデターで政権を奪ったサリット元帥だとして、民族・宗教・国王による現在タイの基礎をつくった。日本で言えば天皇中心の体制による「明治維新」を想像すれば近いか。ただ本当の意味での「民主主義」はまだ課題が残ると指摘する。少し古い本だが、ぜひ一読を進めたい一冊だ。 

・「バンコク電脳地獄マーケット」 クーロン黒沢著

  (徳間書店 533円)

 東京神保町の「アジア文庫」で、ベストセラー第二位だったので興味が。ホモが集まるスポットから「気を付けろ変人・日本人フリーク 」までえぐいタイネタが続く。でも、読書後感がすぐれないのは、私が真面目だからか。

 アジアを舞台にしたルポでは沢木耕太郎の「深夜特急」、関川夏央の「ソウルの練習問題」が瑞々しく爽やかだった。前川健一も最初は新鮮だったが、「地球の歩き方」のコラム風で少し飽きてしまった。その後に続くのは「グロ」系ルポなのか。 

・「検証アジア経済」 平田潤編著

  (東洋経済新報 1500円)

 筆者は第一勧業銀行調査部のグループ。今後の処方箋として、オ国内貯蓄に見合った投資に抑え、経常収支の改善、対外債務の抑制をはかる、カ金融機関の整理・統合を進めて不良債権の処理、預金者保護の仕組みをつくる、キ人材育成など産業高度化、生産性向上に向けた環境を整備する、などを提唱。

 さきの「アジア金融危機」と合わせれば、大学生なら「卒論」がかける、かな。

 

・「アジア新しい物語」 野村進

  (文芸春秋 1667円)

 前作「コリアン世界の旅」で大宅壮一ノンフクション賞を受賞した筆者の受賞後アジア本の第一弾。タイではボクシングの世界チャンピオン、カオサイと結婚した太田由美子さんなど二人が登場する。本書では仲むつまじい風景描写だが、太田さんはその後離婚したっけ。読むときは、その点を踏まえよう。

 と、ここまで書いてきて、その話は前作の「アジア定住」のことだった、と勘違いに気づいた。でも、新作も内容はさほど変わらないのでは…。野村進もフィリピン共産党(NAP)を取材していたときが一番良かった、のかな(週刊文春99年2月4日号、としたいが、日刊ゲンダイ99年1月29日号にしておこう)。 

・「アジア金融危機」 高橋豚磨 関志雄 佐野鉄司

  (東洋経済新報社 1900円)

 筆者は野村総合研究所のグループ。タイの場合、実質的にドルペック制を為替システムを採用(つまりドル一辺倒)したうえ、93年のオフショア市場創設により短期資金が流入、これが生産投資に向かわず不動産投機に回ったことが通貨危機を招いた。

 筆者らは、短期資金の流出を抑える制度、バーツ安定を目的にした新しい為替システムを構築しながら、貿易黒字を安定させ、その過程で産業構造の高度化をはかる経済再生策を指摘。IMFが唱える市場開放策をいさめる一方、不良債権の早期解決と産業の高度化を求めた。

 ドル一辺倒からの脱却としての円の国際化、産業の高度化に欠かせない直接投資、アジアからの輸入市場としての日本など、日本が置かれた役割は大きいと説く。通貨危機後のタイ経済がなんとなく分かった気になる1冊ではある。 

・「北タイ焼畑の村−天地有情」小松光一 写真橋本紘二

(三一書房 1800円)

 国境とはなんなのか?ミャンマー国境近くに住むラフ族を追いかけたドキュメント。「質」として幸せな人々の姿を感じとればよい。(ダカーポ99年2月3日号)。 

 ・「アジアの奇祭」 さの昭 写真石川武志

(青弓社 2000円)

 仏教、キリスト教、イスラム教、道教、ヒンズー教などが混在するアジア。外部からは奇祭としか見えない宗教儀式が、その風土と結びついていることが理解できる。(ダカーポ99年2月3日号)。