アラジンランプ
作:ko2001
チャカチャンリンチャンリンチャンリン..ドンドン。
エー,またまたバカバカしいお話を一席。
ドンドンドンッ,ドンドンドンッ
「ご隠居はん,ご隠居はん....いてまっか,ご隠居はん!!」
「なんやねん,やかましいなぁ。
人が美しい夜空を眺めながら,大宇宙に思いを馳せてるちゅう
時に,よりによっておまはんかい。
相変わらず,アホな顔しとるのう。 」
「21世紀にもなって,えらいご挨拶でんな。
そんなことより,今日は面白いもんもってきましてん。
今のご隠居はんには,もってこいの代物かもしれませんで。 」
「今のわしにもってこいの代物?
どう言うわしやねんな?」
「いやぁ,このくそ寒いのに,縁側に座って上向いて,口をぽか〜んと
開けて,よだれでもこきそうな...」
「誰が,そんなおまはんみたいな顔するかいな。
ロマンちゅうもんを知らんやっちゃな。 」
「ちゃんとわかってまんがな,ご・い・ん・きょ・は・ん」
「なんや気色悪いやっちゃなぁ。で,こんな夜更けにいったい何の用や。」
「そやから,こんなええもんを手に入れましたんや。
どないですか? 」
「ほほ〜,これは,アラジンランプやないかいな。
おまはん,こんな珍しいもん,どこで手にいれたんや?
結構,値も張ったんとちゃうんかいな? 」
「へぇ..これは,その,昨日深夜番組でみた通販で購入されはった
みたいですねぁ..あはは.. 」
「そんなお金があるんやったら,先に家賃を納めておくれんか?
大体,布団しか持ってないおまはんの家の,どこに深夜番組を
見れるテレビがあるんや? 」
「そんな,まるで人の家の中を覗いたようなことを..
ご隠居はん,わたいのストーカーでっか? 」
「家の中を覗かれたくなかったら,玄関の障子でも張り替えたらどうや?
ほんで,どないしてんな,そのランプは?
まさか,どっかから盗んできたんやあるまいな?
」
「そんなことしますかいな。
この間,隣町の米問屋の大黒屋はんとこの下の娘はんが出戻った時に
その引越しを手伝うたんでっけど,その時にお礼やちゅうてもらい
ましてん。
なんでも,別れた亭主の持ち物やったらしいですが,見るのも嫌や
ちゅうて。 」
「そら,ゴミを渡されただけやないかい。
それにしても,きれいなビードロ細工やなぁ。
ちょっと貸してみ。
こうして油を入れてと,やっぱりランプちゅうもんは,こうして
火が入らんと...あちち..
ほれ,どないや? キレイやろが。 」
「うわぁ,こりゃまた,ほんにキレイですなぁ。
炎がチロチロと揺れて,なんとのう暖かい感じがよろしいなぁ。」
「なかなか,ええこと言うがな。
こういう炎をジッ見てると,なんや周りから遮断されたような
この空間に自分だけが存在してるような,空虚な,それでいて
心のなかが温かく満たされていくような,小さな幸せを感じる
ように思えんか? 」
「そんな難しいことはようわかりませんが,なんや,炎から
目が離せまへんなぁ...」
「そうやなぁ....」
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・
「ところで,ご隠居はん」
「なんや,八兵衛..」
「ええ気持ちになってるところ,邪魔して悪いんですが..
この話,どなして落としはるつもりでっか?
」
「そんなん,おまはんが考えたらええがな。 」
「そんなあほな...そうでっか...
この,小さな炎を見てると,なんや心が...
」
「あら,じ〜んときますなぁ...てな落ちは止めてや。
お題を貰うた人に失礼やで.... 」
「あ〜あ..せっかく,スト〜ンと落としてきれいに終わろうと
思うてましたのに。その一言で台無しですがな。
もう知りまへん。
ご隠居はんが,きっちり落としておくんなはれ。
さー,どうする?
さー,どうする? 」
「やいのやいの言うんやないで。
そんな簡単に落としたら,
せっかく温まった心も,光り輝くビードロ細工も,
こなごなに割れてしまうがな 」
終わり