いわくつき
                                  作:ko2001



  チャカチャンリンチャンリンチャンリン..デンデン。

  毎日,毎日,暑いですなぁ。夏本番ですわなぁ。夜も寝苦しい。
  そんな夜にもってこいの,ちょっと冷やっこいお噺でございます。

  ドンドンっ ドンドンっ

  「八兵衛はおるか,おい...戸が開かへんがな。
   おい,大丈夫か? 八兵衛,八兵衛!!」

  「へーい。入っとおくんなはれ。

  「えらい,か細い声やなぁ。入りたいけど,戸が開かへんがな。これ。」

  「この戸は,下の方を2〜3回蹴っ飛ばしてからでないと開きまへんねん。
   なに分,町内一番のオンボロ長屋でっさかい....


  「大家を目の前にして,なんちゅうこと言うねん,こいつは。
  ほう,ほんに開いたがな。ほな,はいらしてもらう...!!」

  「どないしはりましてん?御隠居はん?」

  「どないも,こないも,家の中家具だらけやないかい。
  おまはん,いったい何処におるねん? 」

  「ここでんがな。御隠居」

  「おまえ,タンスの上で何横になってるねん。こっちへ降りてきぃ」

  「へいへい,ちょっとまっておくれやっしゃ。よっこらしょと。いらっしゃーぃ」

  「しょうもないこと言うてんと。いったい,これはなんや?」

  「あれ?知りまへんか?御隠居はんとこにもチラシが入ってたんとちゃいますのん?
  隣町の骨董屋で家財道具の大売り出しやるちゅうやつ。 」
  
  「知らんで。そんなんもん。そこに行って買うてきたんかいな?」

  「へい。どれもこれもえらい安うて。」

  「なんぼ安いちゅうても,足の踏み場もないやないかい。どないすんねん?」

  「もうじき,もう一個持って来よりますわ。ドレッサーちゅうのんを」

  「おまえがドレッサー買うて,何に使うねん。化粧もせーへんし,髪も薄いのに。
  わかった,わしがその店のもんに言うて,引き取らせたるわ。」

  「八兵衛はん,ドレッサーお届けに参りました」

  「噂をすればなんとやら,ちゅうやっちゃな。丁度ええわ。
  おい,骨董屋!!。おまはん,アホ捕まえて,こんなもん仰山買わせやがって。
  悪どい商売やっとるんと違うんか。 」

  「何をおっしゃいます,御隠居はん。この品は,うちの店が誠心誠意のお値段で
  ご提供させてもろうた,特価お値打ち品です。
  それを証拠に,この八兵衛さんにもえらい喜んでもろうた筈ですがな。」

  「へい,喜ばしてもらいました。飴くれはったし。」

  「アホ,おまえも,そんなことで喜んでどないするねん。
  骨董屋!!特価品ちゅうけど,どれもこれもかなりの年代もんばっかりやないかい。
  これの何処にそんな値打ちがあるちゅうねん?」

  「どの品も,保証付きでっせ。」

  「こんな古いドレッサーにどんな保証がついてるねん?」

  「ああ,これは,夜中に見たら,ちゃんと映りまんねん。」

  「夜中に映る???・・・ほんなら,こっちの洋服ダンスは?」

  「背中に血の手形がついてます。」

  「おいおい,保証って,もしかして幽霊が出るちゅうことかいな?」

  「そうです。その和ダンスには,着物もついてます。病気でなくなったお嬢さん
  がお気に入りの,成人式で着はったやつが.. 」

  「ええ加減にしいや。そんな気色の悪いもん..さっさと持って帰って..
  なんやこの衣装ケース。小さいのに重いなぁ。」

  「へぇ。その中には,人形がぎっしり詰まってまっさかい。」

  「ほらんかい。そんなもん!!」

  「いや,ほったら,気が狂うちゅうて言われてますんで...」

  「こっちの薹(トウ)の籠には何にも入ってへんやないかい?」

  「それは,今は入ってまへんけど,昔はちゃんと入ってましてん。」

  「これも,人形かい?」

  「いいえ,生首が...」

  「ええ加減にせんかい!!。わしはここの大家じゃ!! 皆持って帰れ!!」


  ちゅうことで,部屋の中にあった品物を全部持って帰らせた頃には,もうすっかり
  夜の帳(とばり)が降りてました。

  「えらいこってしたなぁ。御隠居はん」

  「何のんきなこと言うてるんや,八兵衛。もうちょっとしっかりせなあかんで。
  あんな,他人のお古が,えろう安い時は,いわくつきやと疑わなあかんで。 」

  「そう言えば,骨董屋のオヤジも小声でボソっと言うてましたわ。
  てっきり,なんかええことかいなと....」

  「あーしんど,ちょっと座らせてもらうで。..あっ痛!!」

  「どないしはりましてん,御隠居はん?」

  「見てみぃ。この畳の上。あんなええ加減な店のもんに運ばせるさかい,
  土足で上がりくさって,ドロドロでおまけに石だらけやないかい。
  あー,痛。 」

  「ははーん,それで判りましたがな。この骨董屋の言うてたこと
  ウソやおまへんでしたんやなぁ。」

  「家の中,石だらけの足で歩きまわられて,何を感心してるんや?おまはんは。」

  「そやから,その骨董屋の若い衆の足に,岩くっつき..」

              お後がよろしいようで。


                   終わり


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