障害

                            作:ko2001

「さぁ,頑張って....もうすぐですよ。
私に合わせていきんで...んーー,うまいうまい,もう一回...」

ホギャー,ホギャー

「よく頑張ったわねぇ。坊ちゃんですよ。もう,いきまなくていいですよ。
チカラ抜いてねー。後産あるからねー。そのままねー。」

「さぁ,体キレイにしましょうねぇ。元気な声ねぇ。
お手々と足を拭きましょうね......あら,この子...先生...」


「おめでとうございます。お父さん。男の子ですねぇ。
元気な泣き声が,ここまで聞こえてきますねぇ。」


「はい,ありがとうございます。」

「ただ,ちょっと。申し上げにくいんですが...左手がちょっと...
まぁ,一週間くらいしないと判断つかないんですが...ちょっと
気になるところがありまして... 」


「先生,お世話になりました。」

「今日で退院ですね。おめでとうございます。経過も順調ですね,お母さんは。
坊ちゃんも肺の強い元気な赤ちゃんですよ。病気しにくいかも知れませんねぇ。

ただね,あ,お父さんも御一緒にどうぞ。以前お話した,左手のことなんですけれど」

「はい,あ、あのう,な,なにかあったんです?」

「ええ,運動機能が通常と違うんですよ。一週間様子を見ましたが,やっぱり変化なし
でした。残念ですが。」

「どうなるんですか? あの子は?」

「まぁまぁ,落ち着いてください。お母さん。
この症例の場合,国の規定で障害認定2級が交付されますので,この書類を持って
区役所の福祉課に行ってください。 」

「そ,そんな... 」

「まあ,他の部位には障害はありませんし,健康そのものですから,そうがっかり
なさらずに。 」

「でも,外見が....みんなと違って.....ワーーー....」

「それでは,私はこれで。頑張ってください。 」

「.....」


父親の私は,子供の入った籠を持った右手をあげ,子供を覗き込んだ。
さっきまで,すやすや寝込んでいたが,動かしたショックでか,手足を
ばたつかせた。

私は反射的にその左手を見た。やっぱり,間違いではない。
この子の左手は普通じゃない。
われわれ,ジュール人としての証でもある,左手が,,左手が..
まるで右手や足のように途中で曲がるのだ。

男は,悔しそうに,それでも,その苦悩を振り払うかのように,
ピンと伸びたままの左手を,青空に向かって振り回した。


              
END

               
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