配達

                        作:ko2001


「おはようございます。検温の時間ですよ。」


今日も,看護婦の声で目が覚めた。

これで,入院後14回目の朝が来たことになる。

なんで,俺はこんなところにいるのだろう。
最初は,風邪で咳が止まらないので,ちょっと医者に行っておくか位の
軽い気持ちで門をくぐったのだが,肺炎の可能性があるかもと勧められた
血液検査の結果を翌日聞きに来たところ,即入院だと言われて以来なのだ。。。

医者が言うには,白血球の数が異常だとか,何とか抗体の値が異常だとか
説明を受けたが,自分には全然自覚症状がない。
健康だったであろう,入院前となんら変わらないのだが...

入院後の治療も,各種検査が主であんまり薬も飲んでいない気がする。
注射されているのかもしれないが...
それにしては,格安の個室代と病院食とは思えないうまい食事を与えられ,
治療の一環として,院内の私設での筋力トレーニングも義務づけられている,
とってもへんな患者なのだ。おれは。

しかし,毎日の違った検査の度に,おれの病名は増えていく一方だった。
一昨日は肝臓の一部病変,昨日は左の腎不全,今日はなんだろう。
しかし,こんなに血色も良いと見えるのに。
医者にそういうと,今注射している薬による一時的な回復だそうで,
そのうち聞かなくなると聞かされて,なんとなくその気になってしまっていた。


その日の午後,医者が来て真剣な面持ちでこう切り出した。

「先日もご説明いたしました通り,やっぱり肝臓の病変と腎不全が著しいです。
一刻も早く,専門の医療設備を持つ病院で治療しましょう。
場合によっては,手術になるかもしれません。
病院は,それぞれ違う場所になりますが,蛇の道はヘビで,安心して任せられる
ところですから。
転院に関しては,当病院で手配しますので、さっそく......」

俺は,頭の中が真っ白になってしまって,その後の言葉は耳に入らなかった。

そうして,その夜,さっそく寝台車で運ばれていった。

明け方近くになって,ようやく見慣れない病院に運び込まれ,さっそく検査
され,ちょっとなまった医者から,
「このままでは肝臓が...一部切除...」
と,麻酔でボーとした頭で聞かされて,そのまま意識を失った。

次に目が覚めた時には,また車の中だった。
看護士に目配せすると,「もう一つの病院に向かってます」と聞かされた。

また何時間か運ばれて,告ぎの病院でも,腎臓で同じような説明があり...

元の病院に帰れたのは,その一週間後だった。

見慣れた担当医から聞いたところだと,病変が悪性腫の疑いがあったため,
肝臓の1/2切除と左腎臓の摘出が必要だったが,術後の経過は順調で
もう心配ないとのことだった。

俺は,何がなんだかわからなかったが,とりあえずこれで退院できる目処が
ついたことに喜んだ。

そして,入院から一ヶ月半後,お世話になった看護婦さんたちに見守られながら
無事退院できた。


「先生,昨日の若い患者さんの検査結果が出ました。」

「うむ。 適合結果も良好と。これなら行けそうだ。
 今度は,沖縄か...
 ちょっと遠いから,自分で歩いて持っていってもらおうか...

 さぁ,すぐに,ドナーの入院準備だ。」

注意:ここに書かれている内容は,事実に基づくものではありません。
   したがって,実際の医療従事者の方の名誉を傷つけることはありません。


              
END

              
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