火種
                                作:ko2001


チャカチャンリンチャンリンチャンリン..ドンドン。


エー,毎度バカバカしいお話と言いたいところでございますが,
今回はちょっと大騒ぎで始まります。

ドンドンドンッ,ドンドンドンッ,ドンドンドンッ
「おい,八兵衛,起きんかいな,こら,八兵衛」

「おはようさんです。コホッコホッ,えらい煙い朝ですなぁ」

「何を寝ぼけたことを言うてるんや。
 川向こうの長屋が火事やで。風がこっちに吹いたらここも
 危ないがな。そら,とりあえず,うちの屋敷にでも逃げといで。」

「エーーーー,火事でっか,えらいこっちゃがな。早よ逃げなあかんがな。
 えーと,家財道具を,火事場のクソ力ちゅうやつで,うんこらしょっと」

「せんべい布団一枚持つのに,何が火事場のクソ力じゃ。
 布団なんか,うちのを貸したるさかい,とりあえずにげるで。」

「ヘーーィ」

ってな具合で,夜中に突然起こった火事のせいで,皆てんやわんやの
大騒ぎでございます。

そうこうしてるうちに夜も明け,風向きも変わらずで,八兵衛の長屋も
どうにか類焼を免れた様子です。


「アー,ホンマによかったですわ。ここ焼け出されたら路頭に迷うところ
 でしたわ。こんなわたいを,こんな汚い長屋までよう助けに来てくれ
 はりましたなぁ。御隠居はん,おおきに」

「こんな汚い長屋で悪かったなぁ。大家の目の前で...
 ま,ま,生きててなんぼや。とにかくよかったわい。」

「今回の火事も,また放火でっか?」

「そうらしいで。それに,交番で聞いたところによると,頻発してる
 放火は,犯人は別人やないかと言う話や。」

「連続放火ちゅうのは,普通,同一犯の犯行とちゃいまんのんか?」

「どさくさに紛れて,何難しいこと言うてるんや。」

「へぇ,こう見えても,わたい,警視庁24時とかの大ファンですねん。
 番組改変期が楽しみで,楽しみで...」

「おまはん,どこのテレビで見てるねんな。まあええわ。
 それが不思議なことに,その凶器ちゅうか火種がみんなおんなじ
 らしいんや。けったいなこともあるもんやって巡査はんも首
 傾げてたで。                 」



「御隠居はん,犯人が捕まったってホンマでっか?」

「おお,耳が早いな。そうらしいなぁ。ちゅうか,放火の犯人やない
 らしいんやけど,放火教唆で捕まったらしいで。 」

「なんでんねん? そのきょうさちゅうのは..」

「教唆ちゅうのは,犯人に武器を渡したりして,犯罪を犯す
 ようにそそのかすこっちゃ。
 それに,その容疑者は,まだ子供らしいんやけど,もう
 道端で倒れて死んでたんやそうな。
 もうすぐ行列がこの前の道を通るで。
 ほら,来たみたいやで。            」

「どこどこ,わたいにも見せておくんなはれ。
 あぁ,わたいもあの子見たことありまっせ。
 この先の店先で毎晩,物売り歩いてた...

 あの,マッチ売りの少女でっか.....」


                  END


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