殺戮者

                            作:ko2001

   ぎゃーーー

それは,村人の絶叫で始まった。

みんなが寝静まった真夜中に,それは起こった。

俺は,驚いて飛び起きた。
親父も一緒に飛び起きたのが,視界に入った。

「とうとう来やがったか」

親父がそうつぶやくのが聞こえた。

お袋も妹も続いて体を起こした。
妹は脅えるようにお袋に体を寄せ,お袋も両手で妹を抱きかかえていた。

親父は,「母さんと妹を守れ」と言い残すと,武器を持って表に走り出た。

近所の家からも,走り出す足音が次々に聞こえ,そして静けさが戻った。

「いったい,何が起こったのだ?」


ここは,人里から遠く離れた孤島にあり,僅かな作物を育て,漁をして
生活している,つつましい村人の住処だ。
時々,何故か大量のご馳走やら金品が皆に配られることはあるが,それが
何なのかは大人達だけの秘密だそうで,俺達にはわからない。

お袋と妹は,まだ脅えきって布団の上で抱き合ったままだ。
妹のすすり泣く声がする。

俺は,勇気づけようと,二人に近寄った。

その時だった。

  ーン

物凄い音と共に戸が破れ,親父が倒れ込んできた。

その体には真っ赤に染まった切り傷がざっくりと開き,立つこともままならず
土間に倒れたままだった。

「親父!!」

俺は,とっさに親父に走り寄ろうとした。

その時だった、
やつが中に入って来たのは。

やつは不敵な笑みを浮かべて,さっと家の中を見回すと,布団にうずくまる
二人の元へ,ひとっとびで近づき,その胸に深々と刀を突き刺した。

悲鳴をあげる間もなく,二人は息絶えた。

やつの視線は今度は俺の方に向いた。

やつは,ゆっくりと近づいてきた。

俺は,親父の元に転がり寄り,その手につかまれた武器を手にとり,
やつめがけて打ち下ろそうと身構えた。

しかし,その時,やつは既に俺の目の前に立ちはだかり,大上段に振りかざした
刀の刃が,俺に向かって降りてくるところだった。

俺の体は,肩からざっくりと切り裂かれ,血が辺りにほとばしるのが見えた。

手にした武器は,親父の血と俺の血で真っ赤に染まり,真紅の金棒となった。

薄れる意識の中で,俺は見た。

薄ら笑いを浮かべて見下ろすやつの額に巻かれた布に,鮮やかに描かれた
桃の絵を。


                      END

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