闇の狩人
作:ko2001
コロセ,コロセ,コロセ,コロセ.......
それらは,闇の中に棲んでいた。
遠い過去の世界から次元の狭間を漂い,人類がその勢力を伸ばした
この世界に辿りついても,ただ,静かに闇の中に。
コロセ,コロセ,コロセ,コロセ.......
闇の奥から,獣を捧げ持った一群が現れた。
彼らの体には,それまで狩り捕った獲物の一部が,誇らしげに飾られていた。
彼らは,皆が取り囲む,ある若者の前にその獲物を置いて,うやうやしく
下がった。
その若者は,たくましく盛り上がった筋骨の腕を持ち上げ,それとは対象的に
しなやかな指先を持ち上げた。
その指先からは,鈍い輝きを放つ鋭い爪が,静かに伸びていった。
そして,その爪を獲物の胸に突き立てて,その内蔵をえぐり出すと,
「グローーン」という雄叫びと共に,その内蔵に喰らいついた。
コロセ,コロセ,コロセ,コロセ.......
そのすべてを腹に収めると,若者は鋭い爪をいとおしむかのように,
それについた血の滴を長い舌で舐めとった。
若者は,皆の方に振り向き,威圧する豪声で叫んだ。
「まだ,足りない。われらの恨みを込めた呪いには,まだ足りぬ」
取り囲んだ群勢は,たじたじと後ろに引いた。
その時,闇のさらに奥から,威厳に満ちた声が響いた。
「もうやめい。我々は人間との共生の道を歩まねばならぬ。
遠い過去からの掟じゃ。 」
若者は,牙を剥き出して叫んだ。
「その人間によって我々が住処を追われているのではないか。
奴等の自由にはさせぬ。
血の呪いによって,奴等を皆殺しにしてやる。グルルルーー」
コロセ,コロセ,コロセ,コロセ.......
群勢の声がひときわ大きくなった。
コロセ,コロセ,コロセ,コロセ.......
「殺戮は,このわしが許さん。
お前が止めぬなら,わしがお前を殺す...」
グルルルーーーーーー
若者は,その長老に飛びかかり,その内蔵をむさぼり喰った。
グローーーーー......
若者は,ひときわ高く吠えると,その体に力がみなぎるのを感じた。
「これでよい。呪いの準備は出来た。
これで奴等を殲滅するのだ。 」
コロセ,コロセ,コロセ,コロセ.......
若者は,人間に近づいた。
呪いをかけるべきターゲットを探して。
これまでになく人間に近づいて,その機会をじっと待った。
そして,ある感覚が頭の中を通り過ぎるのを感じた。
ターゲットは決まった。
そいつは,別の個体と話しながら,こちらに近づいてくる。
間違いない。血の匂いだ。
若者は,満身の呪いと化して,その人間に突進した。
ガクッ。
突然崩れた男性を見た女性は,慌てて駆け寄るとその肩を支えて
尋ねた。
「大丈夫ですか?ドクター」
だが,男は何事もなかったかのように立ち上がり,洋服の埃を払った。
「あぁ,大丈夫だ。ありがとう」
女性は,不思議そうに,男を見つめた。
薄笑いを浮かべた,その男の目の奥には,暗黒の炎が燃え盛っていた。
棲み家を追われたゴブリンの恨みの炎が。
END
(なお,本編の登場人物は,実在の人物とは一切関係ありません。多分)
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