レクイエム   篠田節子 著

発行:(株)文藝春秋  定価1619円+税


  結構,有名な本なので,もう読まれた方もいらっしゃるかも知れませんが,
早速,私見バリバリで感想など話さしてもらいましょう。
  実は,私,感想室長の趣味では,絶対に購入しない部類の本なのですが,
そこは良く出来た妻が近所の図書館で手配したのを,横流ししてもらい,
読んで見たわけですが....最初は確かに「おかしな暗い話や」位にしか
感じてなかったが,読むうちにどっぷりはまり込み,一部作品については
完全に感情移入してしまう始末で...(詳細は後述...)

やはり,大した作家である。篠田節子!!

まだ,読まれていない方も,ぜひご一読をお勧めする。
して,その感想を話し合いたいものである。

それでは,どうぞ。


この本は,6話からなり,それぞれ関係のない話で出来ています。


1 彼岸の風景
  癌で死期を迎えた夫との結婚前後のいきさつと,ケンカ別れした親元に
死ぬ寸前に帰り,生まれ育った故郷で死を迎える夫を看取り,のど仏の骨を
持ち出して最後の別れをする妻。

大した感動はなかったが,淡々と語る口調に,心静まる気持ちがした。

2 (T 時の迷路)ニライカナイ
  結婚/離婚を重ね,資産家になった女性が,とある時に海で遭遇した
不思議な存在を知り,幸運/不運に見まわれながら,最後には没落していく
女性の一代記みたいなもの。

なんとなく,悲しい物語である。

3 (T 時の迷路)コヨーテは月に落ちる
  独身公務員女性(ノンキャリア係長)が,自分の将来を考えマンションを
購入したとたん,地方への転勤を言い渡され,人生を悲観しながらも,付き合いで
送別会に向かう途中に,なぜか街なかでコヨーテを見つけ,後を追う。
そのまま,臨海方面に向かうが,そこで,全然違う場所にあるはずの自分の
マンションを見つける。不思議に思いながらも,マンション内に入った女性
だったが,そこから出られなくなる。色々に人に出会いながらも,コヨーテに
一縷の望みを託し,行動を共にする。そして,やっと出口らしいものをみつけ
そこからダイブする...

最後が自殺かどうかもわからないが,小説の最後に人工衛星の落下を
組み合わせている。なんのためにそんな話を入れたのか,理解に苦しむ
おかしな終わり方の話である。私がそんな話を「私設図書館」に載せたら
非難轟々であろう。


4 (U 都市に棲む闇)帰還兵の休日
  バブル期に無茶なマンション販売をしたセールスマンの話。

野外生活をする老女とのかかわりを中心に,だからどうだという内容で
特に感想はない。

5 (U 都市に棲む闇)コンクリートの巣
  近隣の子供虐待を察知した,独身中年女性の話。

実はこの作品に,すっかり翻弄されてしまったのである。

  女性は,自分の団地の階下の子供が虐待されているのかもと思い,
学校に連絡するなど,なんとか子供を助けようとするが,その子供は
親を必死にかばいだてし,その心情がわからず苦悶する。
あるとき,親の車から落ちたその子を見つけたその女性は,医者に
連れて行きすべてを話す。
ところが,医者に,「この子は,虐待を受けている親をかばうのだ」
と訴えたところ,逆に医者に「この子が親を悪者と認めたら,自分の
居場所がなくなるのだ」と諭される。

この作品を読んで,
親による,常識で許される範囲でのちょっとした暴力と,虐待の区別は
どこにあるのだろう?
親の暴力に対する,親/世間/子供自身の認識の差はどのようなもの
だろう?
子供にとって,親とはどのような存在なのだろう?

などと深く考えさせられてしまったのである。


また,その子供と親の以外な決別の事態と,その子のやや明るい将来を
暗示するかのような終わり方。
恐るべし作品といえる。
表題作もよいが,この作品こそ,この本中最大のパワーを持つ作品だと思う。

6 (V そして,光へ)レクイエム
  復員後,宗教に凝り,親族からも見放された男の,本当の思いは...

戦時中のカニバリズム(人肉食)をモチーフにした,ちょっと悲しい話。
表題作だけあって,なかなか読ませる作品である。

 

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