家族の絆  鈴木光司 著  

発行:PHP研究所    定価 1238円


  鈴木光司,この名前に聞き覚えのある方も多いでしょう。
  そう,あの「リング」「らせん」「ループ」でブレイクしたあの作家です。

  そして,今度の作品は,...なんと,子育て論中心のエッセイなんです。これが!!

  と言うわけで,またまた,独断と偏見で,室長の心に残った部分を,かいつまんで
ご紹介してみましょう。

 以下,「 」内が,本の内容の参照部分。

  「(作者の)子供が一才位の時,小説に行き詰まっていらいらしている時に,フギャフギャと
楽しそうにじゃれ付いてきた子供(娘)に対して,うるさいなと払いのけるようなしぐさをした
ところ,それまでご機嫌だった娘さんの表情が一瞬にしてこわばった。それも,まるで体まで
固くなってしまったように。
  これじゃいかんと考えた作者は,その娘さんの緊張が解けるまで抱きしめたそうです。
  もし,この体のこわばりに気がつかなかったら,他に気持ちの表現方法を持たない子供には
その固さのようなものがずっと残ってしまっただろうと思ったという。
  子供は,親がどんなに理不尽なことをしても,黙ってそれを受け入れるしかない。何故なら,
親の力の方が圧倒的に強いからである。
  こうして蓄積されていった闇のエネルギーが,自分の表現方法を持って,体力もついてきた頃に
一気に噴出するのではないかと思う。」


 「大人になると,子供の頃のことを忘れ,感受性が鈍感になってくる。
そのため,子供が真剣になってやっていることが,大人の目には,ただふざけているとか, 
無駄なことをしているようにしか見えないことがある。
  例えば,子供の頃,学校で排泄することは,とても恥ずかしく,勇気の要ることだったが,
大人になると,そんなことはすっかり忘れて,何故,うんこできないんだと考える。
  特に,親は自分の子供に対して,非常に鈍感になりがちである。親子の絆に頼りすぎている
のかも知れないし,何をしても許されるだろうという甘えが親の方にあるのかも知れない。
  そんな,大人の怠惰な態度は,子供をひどく傷つける。
  子供の頃,自分がどんなことにイラ立ち,つらい思いをしたか,それを元に理解しようとして
子供に接すれば,半歩でも,子供の気持ちに近づけるかも知れない  」


  「子供は,親が自分を大事にしてくれているんだ,自分は愛される価値のある存在なんだと
肌で感じることが出来れば,その確信は子供の体に浸透し,子供の心は安定する。
そして,親との最初の人間関係をうまく結べると,その後の幼稚園,小学校,中学校,...と続く
「社会」においても,周りの人との関係をうまく築いていくことができる。   」

 一般論的だが,共感できるところもある意見である。

 「子育てを手伝う男親は多いが,オシメの交換が出来ない人が結構いる。
女は,産んだ瞬間から母親になれるが,男はその後,世話をしていくうちにだんだん身についていく
ことになる。そして,子供のうんちに触れた瞬間が,子育ての試金石なのだ   」

 これは,そうかもしれない。唯一,つかめるのは子供の運子だけである。

 「子育てをしていると,子供との絆で何か一線を越えたと思える瞬間が存在する。
それまでは,子育てのストレスを感じていたが,この一線を越えてから,子育てが辛くなくなった。
そして,自分がストレスを感じなくなると,子供の方も,夜泣きなどが少なくなってくる。    」

  子供は,親の感情をストレートに感じているとしか思えないことが多々ある。
泣き止まぬ子にイライラしながら「早く泣きやめ,このやろう!!」と思っている限りはいつまで経っても
泣き止まない。そこで,一旦,「好きなだけ泣け。終わるまで一緒に居てやるから」と考え腰を据えたとたん
不思議と泣き止んで寝てしまったりする。これは,室長も何度も経験したことである。


  「母性は,子供の安全を願い,寛容である。父性は,意に沿わないものを認めない。
 子供が犯罪を犯しても,説得に来るのは母親である。
  子供に長く安全に生きてもらいたいと願うのが母親なら,いかに人生を生きるべきかを問い,
 時にその価値を命よりも優先させるのが父親の領分であろう。」

  みんながみんな,こんな父親とは思わないが,わかるような気がする。


  この他,子育て論以外にも,
 ・ 「七人の侍」と「シェーン」に見る国民性
 ・ 「日本は競争社会ではない」
 ・ 「負けを準備しない社会に活力は生まれない」
  などがあって,なかなか面白い。  子育てを知らない方も,ぜひ,ご一読を。


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