『やっぱり生卵』



週間文春に、斎藤明美記者の取材・構成で食卓の記憶 双葉十三郎「やっぱり卵」という記事があった。同誌の川村記者には鳥インフルエンザの取材で活躍戴いたが、双葉十三郎先生は懐かしい。昔、先生の映画評でジョーン・クロフォード、スターリング・ヘイドン主演の西部劇「大砂塵」で主題歌のジョニーギターが有名になって映画の題名もそうだと思っている人が多い、とあったので早速噛みついたら出版社から鉛筆三本送られて来た思い出がある。

さてその記事の中で、鳥インフルエンザ騒ぎ以来、先生が大好きな生卵を避けてスクランブルで我慢しているお話しがあった。どう考えても御年九十何歳の先生が好きな生卵を避けなければならぬとは由々しき事態とばかり本文を添えて、双葉先生の住所は分からないから文春の記者さん宛てに卵を送った。迷惑だったろうが、まこれも記事に対する一つの反応だ。

いつも繰り返しているが生卵は日本の食文化そのものだ。その安全性が確保出来なければ、老舗の卵料理店も、スキヤキも無くなって仕舞うが流石にそんなことはない。そこへ行くと西洋方式のホテルは駄目で、やっぱり生卵は日本の食文化たる所以だ。

自然の摂理で、種の保存の為に生体の部分の中で最も安全に創られている卵を、こともあろうに殻から取り出して直接黄身にサルモネラを注射して70°Cにしないと菌が死なないから、それ以上に加熱すべきだとするような、自然界にあるまじき作られた実験が基の安全性を振り回されては文字通り卵が死んでしまう。

健全な卵の表面には多少の雑菌があったとしてもそれが中に入ることはない。これは人間の皮膚にブドウ球菌が付いて、その滑らかさを保っているのと似ている。普段は共存しているのだが皮膚が傷付いて白血球などに攻撃されると菌が死んでトキシンが出来、食中毒のもとにもなる。しっかりした卵殻は健全な皮膚と同じである。

卵は子宮そのものである。母体が健康であるかぎりエイズといえども入り込む事は出来ない。婦人科医によれば子宮内膜炎の多くが未成熟な子宮内膜がはみ出ているところにクラミジアなどが付いて起きるのだという。よく誤解されるのが総排泄腔に繋がる鶏の輸卵管だが、その分クチクラやリゾチームなど強力な殺菌成分を分泌して無菌状態を保ち尚且つ精子の上昇だけを許す精緻な構造で正に自然の摂理である。そして完全な卵はその輸卵管内で完成されるから鶏体そのものが犯されれば最早完全な卵は排出されない。

人為的に大量の細菌を経口投与して腸管から卵巣への迷入を図った多くの実験結果で最終的に卵内に封じ込まれたわずかな細菌は数日後には消滅する。またこれも人為的に卵表面のクチクラを落として付着させた細菌も侵入後、多くは内側の卵殻膜に付着して止まっている。それにクチクラが充分付いていれば、まず外部から侵入することは不可能だ。

このように健全な殻で覆われた卵は、細菌やウイルスに対して最も安全な食品である。その上最近では、世界に冠たる長寿を支えているのは豊富な動物蛋白の摂取によるところが大きいとされる。その貢献度の最たるものが世界一の消費量を誇っていた卵であり、風評でそれを遠ざけることは長寿国存続の危機ともなりかねない。

健全な卵ほど安全な食品はなく、その中でも殻から取り出して直ぐの生卵ほど無菌に近いものはない。特に老齢者が健康に長寿を保つのには肉や卵が何より大切で、若々しいお年寄りは押しなべて肉食がお好きだ。寝たきりなどでなく人生最後まで健康ですごすにはアルブミンの補給が欠かせない。
安心して生卵をお召し上がりください。



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