『ワクモ考…(食物連鎖のなかで)』



鶏の外部寄生虫《ワクモ》の異常発生?で多くの養鶏場が悲鳴を上げて居る。
最近の多くの企業養鶏では、管理責任者が直接鶏舎内で鶏の状態を観察していない。生産物の卵はベルトで集められて洗浄殺菌されてパックされるまで管理者の目に触れることはない。ウインドウレス鶏舎はオールアウト毎にきれいにされてクモの巣一つない。なのにワクモだらけになる場合がある。

ワクモの最大の捕食者と昔から考えられて居たのは何千種類もあるクモである。鶏の血を一杯に吸ったワクモは鶏舎に巣食う微細なクモ達の絶好の栄養源と見られて来た。ただハエトリグモ類と違って彼らは自分の巣から出ては来ない。実際ワクモがクモの巣の中に入ることは少ないし、徘徊するハエトリグモにも捕食されないように狭い透き間に潜り込む。昔の平飼い養鶏では、そのクモを鶏が食べてしまった。これが食物連鎖である。このバランスがくずれるとワクモは溢れかえる。仕方なく宿り木に硫酸ニコチンを塗ってその下にムギワラのワクモホイホイを置き、鶏より早起きしてそれを燃やした。根絶は出来なかったが、今ウインドウレス鶏舎でみるような手の付かない大発生も通常はなかった。そしてやがて《北部羽毛ダニ》と紹介された外来のトリサシダニがそれに取って代わる。その間にもシラミはちょいちょい散見されたが。

ワクモも大繁殖して大きなコロニーを作るようになると鶏は貧血して斃死するし誰の目にもつくようになる。今はそんな例が多くなった。もはや搬入ヒナさえも普通に持って来るから、事前の消毒殺虫は大発生を遅らせる意味しか持たない。繁殖の初期には天敵のクモを恐れてケージの結線やCリングの内側にもぐりこんで居ることが多い。あとはこびりついた餌や鶏糞の内側だ。これらの外側から幾ら殺虫剤をかけても効果はない。多くの乳剤は乾いてしまうとそれだけで効果半減である。したがって浸透効果と湿りをもたせるために界面活性剤を混入したりしているようだ。

昔の数百羽ぐらいの百姓養鶏ではクモの巣だらけの粗末な掘っ建て鶏舎でワクモは常在するものの繰り返すダニ→クモ→ニワトリの食物連鎖で溢れた分だけを人が処理する程度で済んだが近代養鶏ではこうはいかない。たとえ数百羽の養鶏の場合でもワクモを根絶させるのは骨がおれるが、しかし一万、二万の在来型養鶏の場合は在来技法とその考え方(貧血がなければ可とする)で実際的対応が出来る気もする。当初は敵も外敵から身を隠すのに必死だろうが、やがては隠すより表れるようになるのは自然の理でもある。その第一段階で天敵のクモの巣を取り払わねばならぬところにウイルス、細菌対策などで、その実際の効果はともかく見た目を気にしなければならない近代養鶏の悩みもあるのだろう。

鶏糞を堆積させない。クモの巣ひとつない。消毒殺虫を繰り返す。そのどれもが近年の養鶏経営では重視されるが、実はそのどれもが自然の食物連鎖を断ち切って居る。したがってハエやワクモにたいしては、薬剤の効果に期待する以外にない。本来、自然界はそのどれもが増え過ぎないように仕組まれているのだが、みずからそれを覆して増え過ぎたのが外ならぬ人間とあればワクモくらいは仕方がないのかも知れない。血を吸って膨れ上がるワクモのコロニーをクモが見逃す筈がない。そのクモを先に退治しなければならない近代養鶏の悩みは尽きるところがない。ハエだって同じだ。糞中のハサミムシやゴミムシダマシは、うまく手なずけて置くとウジを悉く捕食する。ハエの多さは見た目とは逆になる。そこが衛生管理などで家保などが外部から指導する難しさもあるのである。自然をうまく利用すれば多くの危機は回避できるが近代養鶏はそこから逸脱してしまっている。

H18,8,22 篠原養鶏場  篠原一郎



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