この二種類の卵は古文書にいう〃幻の卵〃の再現をはかったものです。海は味の宝庫といいますが、ここでも多くの魚介類をつかっています。従って黄身の色は、一般の配合飼料のようにトーモロコシの黄色ではなく、エビ、サケ、マスなどの赤い色(アスタキサンチン)、それに海苔、昆布など海藻の茶色が加わり、卵の用途によって邪魔になる海の匂いを消す為に、多量のアルファルファ、パプリカ、ターメリック等を配合することで必然的に濃さを増して行きます。いずれにしても豊かな色彩に満ち満ちた地球上の動植物を原料として、卵の中にとり込んで行くのですから黄身の色も濃くなるのは当然の話です。

このように卵黄色は、味をよくする原料にともなってついて来るもので、色だけ抜き出して考える人がいるとすれば本末転倒も甚しいと云わねばなりません。

さて、一番の難題はこうしてしつらえた餌を、どうやって鶏に食べさせるかです。養鶏が産業として発展していく中では、いかにして餌の効率を高めるかが最大の命題ですから必然的に餌のカロリーを上げ、消化管の小さな鶏が要求されます。具体的にはカロリーの高い穀類を主として与え、足らない分は油脂を加え、蛋自質は主として大豆カスに合成アミノ酸、それにビタミン剤やミネラル、となるのです。そして鶏はそれに合うように改良され、育てられて行くのですから、自然にしておいたら、とても余計なものは食べてくれません。

全体がそういう方向の中で、昔のように腸管が太くて長い大喰いの鶏をつくり上げることが地卵づくりの第一歩ですから、ただ餌を変えたり、鶏を地面に放したりしただけでは昔にもどらないことが、おわかり頂けると思います。

鶏に魚介類を与えれば、その味のする卵が出来ますが、このままではお菓子などに使えない卵になってしまいます。臭みを消す為には、魚介の十倍量の緑餌を与える必要があり、それでもまだ消えない分に対して、パプリカ、ターメリックなどのスパイスをつかいます。こうして出来た卵が、大量の魚介類を使いながらその臭みが残らない”昔翁ありき”であり”鹿鳴館”でした。が、これには永い永い大喰いの鶏づくりの紆余曲折の歴史があります。臭みを消してしまった為、すこし物足りなく感じるその味も、茶碗蒸しなどに使うと、がぜん生きて来ます。調味料ではごまかせない卵そのものの味です。

このようにうまい卵づくりは、現代では決して自然だけでは出来ないのです。まず大喰いの鶏を育て、沢山の味のつく餌を与える手法は、本物のフォアグラや北京ダッグの育て方と相通ずるところさえあると思っています。

このことは消費者の皆様だけでなく、本当は地卵づくりを志す、養鶏家の人達にもわかって頂きたいことなのです。


篠原養鶏場  篠原一郎 記



昔翁ありき・鹿鳴館
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