サルモネラと卵の問題(1)



われわれ現場にとってサルモネラは、それが稀に食中毒を起こすことがあるという以前に、種鶏検査に於いて鶏固有の種であるプロラムを凝集反応による簡易検査ではねる際、同じO抗原(当時プロラム、エンテリティディスはO抗原9つを持つ同じD群として分類された)を持つ種類も引っ掛かり、すべて淘汰されてしまうことから、種卵一個が米一俵と同じ4000円もすることがあった個体選抜の国産鶏時代は、雛白痢陽性は種鶏家にとって死活問題であり、ひそかに対策に心血を注いで居た。そんな折りも折り、13−30号系を中心に高率で陽性が出現する事態となった。たまたま家衛試が近くの小平に在り、診断液もそこのものを使って行われて居たことから、足繁く通うことになった。種畜牧場側は非特異反応を主張したが陽性はあくまで陽性として淘汰されわが家も結果的に全群淘汰した。

その後外国鶏が入りフランチャイズの形で種鶏場が整備され、そんなことはなくなったが、それ以前、種場(たねば)と称する農家養鶏に種雄を配り種卵を集めて居たころは、雛自体も糞付きと称するサルモネラの疑いのあるものを予め除外してかかる始末だった。また生育後、産卵不調の群からは高率に陽性鶏が出ることも多かった。

教科書などにはプロラム以外のサルモネラ菌症(鶏パラチフス)を含め成鶏に症状を出すことは稀だと書かれて居たが、常時診断液を携行していた我々現場は、いわゆる伝染性下痢症と称される症例からも高率且つ強陽性の形で陽性鶏が出ることを知って居た。その一つの例だが、6月に近くのA養鶏でバタリー鶏全群が緑便、チアノーゼを伴う伝染性下痢症の典型的症状を出し、家衛試の安藤敬太郎先生に出張を仰いだ際も診断液に鶏血が触れたとたん凝集してしまう強烈さだった。このような場合にはネズミもただでは済まない。エンテリティディスもチフィムリューム同様、ネズミにとってはカテゴリー1に属し、それの固定宿主とされる。

大切なのはこの点である。何時から鶏が人間の食中毒菌であるエンテリティスの固定宿主と見なされてしまったのか、是非専門の細菌学者の意見を聞きたい。上記のA養鶏の例のように、鶏にとってもカテゴリー2つまり大量の菌が経口的に体内に侵入すれば全身感染を起こし得るし人間もまた同じカテゴリーに属するとも考えられるが、実際当時の実験結果をみても鶏に対してSEを大量摂取せしめても単独では胃腸炎からリンパ節を経て血中に侵入して敗血症やパラチフスになるものはなく、たまたま卵巣に紛れ込んでも卵のエンザイムにより消滅してしまう。こうなるとカテゴリー3がやっとである。このように実験的に見ても、それに歴史的にみても、サルモネラの中で食中毒菌として騒がれるエンテリティディスは本来、ネズミこそが固定宿主であり水平感染の被害者である鶏や卵を固定宿主扱いするのは大間違いである。

その後、そのSEが外国鶏によって持ち込まれたとされる説が主流となってしまったが、ずっと現場にいる我々はその説は承服しかねる。何故なら実際の種鶏飼育現場の陽性率は外国鶏導入で著しくゼロに近くまで下がったのだから。

鳥インフルエンザ同様、サルモネラの種類もまた不思議な消長を繰り返す。一つの種類が居なくなると別の種類に菌交代しまた忽然と現れたりする。要するに見つからないだけで絶滅はしていないのである。養鶏現場では卵を介しての感染、食中毒は絶対起こさぬよう責任をもって十分の対策を立てることは大切だが、それにしても鶏が固定宿主であるかのごとき非科学的な風聞は業界として先ず打ち消すべきである。

H18,10,14 篠原養鶏場  篠原一郎



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