『サルモネラ…朝日新聞大見出しへの業界反応』



いつもながらマスコミ報道のサルモネラ問題に対する業界反応は必要以上にびくついているようにも見える。業界自体がサルモネラでトラウマになってしまっているのかも。

現在、人に食中毒を起こすサルモネラの代表格のSEは輸入外国鶏に付着して持ち込まれた<鶏特有の菌>であるという間違った思い込みは広く業界をも支配してしまっている。それが人間に対して腸チフス様疾患を引き起こすことは無論重視すべきだが、他の多くのサルモネラを含めて、それは人間を含め動物の腸内細菌として広く家畜からペットに至るまで分布している。いくら犬好きでも感染し感染されの関係の飼い犬との過剰な接触は控えるべきだ。過去の調査でもその30%は保菌している。だからその問題では飼い犬、猫、必ず保菌するといわれるミドリガメ、さらには家鼠、ゴキブリ対策は尚のこと重要である。

それなのにそのサルモネラによる食中毒のすべての原因を卵に押し付けられて、サルモネラ中毒が近年減少していること、卵からの菌の検出率が低いことだけで反論を繰り返して居る業界の態度が問題で、そのもとにある間違った認識を取り去らなければ解決はおぼつかない。確かに卵の安全性ということを垂直的に捉えれば鶏を調べて当然である。しかしそのようなサルモネラの広い動物間の分布から見て、卵に対する水平的な感染のほうがはるかに重要なことは認識すべきである。われわれ生産者はそのようなサルモネラの循環を鶏で断ち切る努力をしているのであって、そこから拡げて居るのではないということを主張すべきだ。安全に生産した卵を流通、消費段階でいかに感染から防ぐかで、サルモネラは養鶏場だけにいるのではなく、高級住宅のネズミや猫にも昔から存在しているのだということを忘れてはならない。健全な卵は健全な子宮と胎児であり、もとともと外界からの感染には完全に守られるように出来て居る。だからその自然の防衛力を活用して、鶏を感染から遠ざけたうえで卵殻の健全な卵を出荷することが重要なのであって、もともと加熱は殻の不健全な卵にとっての必要な手段である。卵殻が完全ならばon−eggがin−eggに変化することはあり得ないし、昔からの実験でも大量に実験的に健康鶏に投与した菌は、たまたま卵内に迷入しても時間とともにリゾチームなどのエンザイムによって消滅する。またこのエンザイムこそが生の基盤であって、熱を加えればその多くは破壊される。そのようなエンザイムを多量に含む鶏卵こそ生の源として見直されるべきなのであり何れはそのようになることは明白である。それを事ごとに危険視する風潮はどうかしている。我々は将来を見据えて、そのような生産をこそ心掛けるべきである。

我々の生活圏にはサルモネラに限らず、無数の食中毒菌が生活菌として存在する。皮膚や牛の乳房を滑らかにするブドウ球菌も反乱をおこせば恐ろしいMRSAにも変身する。それが人間の生活環境なのだから在る者は在ると認めて対策を立てることが大切であろう。普通に存在するものを「居ない」と強弁して、たまたま見つかると大騒ぎしたカイワレ事件、茨城弱毒鳥インフルエンザ、九州のSE事件、その生産者は全部引っ被って潰された。《清浄国論》の恐ろしさは実にそこにある。

一方で「何で?」と訝る自然の反逆もある。先日のセレウス菌による2人の死亡事件である。我々の知るバシラスセレウス菌は自然界に広く分布する無害菌として知られていた。それが腸内に入ってエンテロトキシンを産生するようになったり、今度のように敗血症を起こしたりする。やはり野に置けレンゲ草ではないが、菌にとって不自然な環境が増えてきたのだろうか。油断は禁物ではある。

H18,9,18 篠原養鶏場  篠原一郎



昔翁ありき・鹿鳴館
農林大臣賞受領

〒355-0002 埼玉県東松山市東平1709
TEL:0493-23-7763 FAX:0493-23-0807
e-mail : shinohara@muh.biglobe.ne.jp