生卵とサルモネラ問題
5/5読売新聞記事をうけて



卵の日付の新旧とサルモネラは関係ないとした研究機関の発表にさもありなんとしたが、さりとて危険性は同じと受け取ったわけでは無く、本来生卵は一番安全な食物のはずだと、かねての主張を繰り返して置いた。もう何十年も卵でお付き合い頂いている方々には結果として分かってもらっているが、あまり揶揄的でなく論理的に意見をいえと忠告頂いたのでこれまでの主張と重なるがあえて申し述べる。

昭和20年代から30年代にかけてサルモネラによる食中毒の原因菌の大半は今流行のS.Eであると当時の代表的な研究書にのっている。当時はまた鶏に病原性をもつサ.プロラムが全盛を極め、平飼い中心だった種鶏家たちはその対策に腐心した。私などもその一人で13−30号系という、そのために大打撃をうけた種鶏が飼養鶏のすべてだったこともあり、その診断液を作って研究を続けて居た小平の農林省家衛試に通っているうちにサ.プロラムと抗原的に同じD群に分類され、しかも人間に腸チフス様疾患をもたらすサ.エンテリティディスのことも知らされた。これが現在のS.Eである。

そしてその後は家内とともに、夜寝ても診断液の緑のまだら模様に悩まされる日が続いたのである。その結果、鶏を当時最新式のケージに移し、土や糞、それに鼠と隔離することで陽転を防ぐことに成功したが時すでに遅く13−30号系は大宮種畜牧場から保管転換という名目で消滅してしまった。この鶏はアメリカのラーナーらによる集団遺伝学を取り入れ大西博士の指導で相反反復選抜法と訳されて、今もご活躍の長谷川 保先生らの教えを受けて、その改良の末端で日夜空回りしていたころの思いで深い鶏で、以後わたしが生産現場でサルモネラ防圧に執心するきっかけともなったのである。

その後開放型ケージが普及し卵もGPセンターでパックされるようになり、一方で種鶏の管理も徹底されるようになったせいかサルモネラ問題はどこかに行って仕舞い、卵も冷蔵庫の卵受けに鎮座するようになったとは前に書いたとうりである。最近のS.Eは昔のそれではなく新しく外国鶏についてきた全くあたらしいものとする見方は、私に云わせれば極めて恣意的ないいかたで、それを本当に信じて居る研究者がはたしているのかと疑問におもう。それは遺伝子レベルで比較すれば違うものだろうが肝心の性格や作用はS.EはS.Eだからである。

これまで述べているように健康な鶏の産んだ卵は全くの無菌である。inEGGなどというが鶏が菌血症や敗血症でないかぎり(これでは健全な卵は産めない)本来的なinEGGはあり得ない。種鶏がフリーならば一段式ケージ飼いではねずみなどの接触さえふせげば体験的にサルモネラ陽転はほとんどないから、あとはどうやってサルモネラに暴露しないようにするかだけである。

ほんとはS.Eは人の暮らしのまわりにいくらでも居る。何処でも感染の機会がある。そうでしょう?と或る技術会議で発言したら、行政側から「そんなことをいうと日本の肉や卵は売れなくなってしまう」と変なお叱りを受けたことがある。要するにいまのS.Eはすべて外国鶏についてきたもの、だから卵と鳥肉がサルモネラ中毒の原因のすべてだとするような恣意的な論法がまかり通ってしまっている。

本当は卵はS.Eの被害者であり暴露の機会さへなくすれば絶対安全な食物であること論を待たない。

因に昭和44年養賢堂発行獣医微生物学277ページ「我が国で1949−1957年の間に分離されたサルモネラ」という表を見てみよう。そのなかのS.Eの欄487の分析例で順にウシ16、ウマ3、ブタ2、ヒツジヤギ3、イヌ145、ネズミ32、マウス48、モルモット163、タマゴ30、ヒト21とある。古い資料と云うなかれ今でも変わってはいないはずである。卵もそのなかに入ってはいるがあくまでその性格から暴露をうけたと考えられるものである。

百歩しりぞいてこの表をこのままみたとしても、どうしてS.Eをタマゴに特定できようか。このように行政主導の研究発表やマスコミ報道のなかには、繰り返すように恣意的(事実に反した都合の良い)なものが多いことカイワレ大根の例にみるまでもなく消費者、生産者ともに心すべきことと考える。


H14.5.6 5日につづいて 篠原 一郎



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