農村パラダイス『第九章』

ここからいちばん近い温泉といえば、植木温泉がある。昔は平島温泉といったが『植木すいか』が全国的に有名になった頃、ここも植木温泉と名を変えた。湯冶客相手の鄙びた温泉だったが、最近は山鹿と肩を並べるようになって居る。そのうちの一軒、平島旅館に遠来の後藤を囲んで三角、小泉、それに一郎夫婦が泊まる。ここの宿は番頭が天草の網もとの息子だそうで、魚も直接そっちから持ってくるとかで滅法旨い。

「この、はまちはうまいね」と後藤が感心すると
「そりゃあ かんぱちですたい」と番頭にたしなめられる。
そういえば、かんぱちは関東では獲れないらしい。たしかに身が、ぷりぷりしていて、はまちの比ではない。

 一頻り酒がまわった頃、急に宿屋の周りに猫が集まってきてニャアニャアやかましい。女中が聞きとがめて「ほんなこつ、せからしか、いやらしか声ばだしよって」と迫い立てようとする。「いやらしかと云うところでストリップにでも行くか」三角の提案に、備え付けの足袋を履いて、そろって下駄をつっかけると外へ出る。

 ストリップ小屋は平島旅館から、ほんの二、三丁さきに数年前に出来て、けっこう繁盛しているらしい。
「やあ平島さん、いらっしやい」
はんてんの柄を見て、呼びかけた呼込みの声につられて一同なかへ入る。八時開演とかで客はほとんどいない。客席はと見ると、舞台を取り巻くように二列になっている。皆、当然のように前列に座ろうとすると、さっそく後藤が通ぶりを発揮して
「そこは、ももくり三年と云って若葉マークば後ろじや」と云う。
結局、ベテランの三角と後藤だけが前列に残る。
やがて客も増えてきて関演時間となり、ストリッパー嬢が次々に現れてあやしげな踊りを披露する。そのうちに、裸で右手にバッグを持ち、左手で蒸しタオルを抱えた胸もたわわな女の子が出てきて、前列の客一人一人にオッパイを揉ませるのだと云う。その前に「0−l57がおそろしかけんね」と云って、蒸しタオルを配って、銘々に手を拭かせる。その際、いちばん最初の、さくらとおぼしきが、ストリッパー嬢のバッグに、そっと千円札を入れると、タオルを受け取った客は、仕方なく皆まねをする。

そんななかで後藤だけは「これきり無いよ」と百円玉二つしか入れない。
「けちね」と彼女にいわれても済ましたもので、後ろの小泉が「なるほど、ももくり三年だな」と妙に納得している。
そうしているうちに三角がオッパイを擦む番がきて、けっこう手慣れたふうにやっているので、皆が「さすが三角さんだ」と感心すると、たちまち後藤の叱声がとぶ。
「駄目だめー三角さん、車とおんなじで、もっとやさしくいじってやらないと」
そして云うだけでなく見本を示す後藤に、くだんのストリッパー嬢
「おじさん、けちんぼだけど優しいのね。おうちでもこうしてるの?」

埼玉で待ってる信ちやん(後藤の奥さん)のおっきなクシャミが聞こえたようだ