『どうする・どうなる口蹄疫』(山内一也・著)を読んで

山内先生のご署名入りの著書 ウイルスと人間、どうする どうなる口蹄疫をお送り下さいまして有り難うございました。

私の父の明治44年の最初の職場が牛疫血清研究所で、獣疫調査所など昔の名称などもなつかしく拝読しました。前後逆になりますが今回の口蹄疫もNPSをふくまないマーカーワクチンを使いながら事後の判別調査もされず、ほんの一部例外的に残されたとは言え貴重な種牡牛までことごとく殺処分されたことなど、栗本課長の決まり文句「日本は清浄国論ですから」ですべてが門前払いだった鳥インフルエンザ問題を思い返します。実際我が国の清浄国論のパンドラの箱を開けたら数え切れない魑魅魍魎が飛び出して手には負えなくなるのでしょうが。それにしても人間が作ったとは言え貴重な種牛は同時に希少品種として特別に保護されるべきという話しはまさに目からうろこでした。

かつて我が国が世界に誇った家衛試の豚コレラワクチンもNDVを作用させることで立派なマーカーワクチンでしたがやはり研究を続けなければ野外毒がどんどん変異してしまいます。何でも彼でも清浄国論の建前でいきなり跡形もなく殺してしまうのでは予後も分からないし何の研究もできないでしょう。わずかな検体をもちかえってinvitroで調べたって実際の現場とは大違いです。我々もだからたいした規制も初期にはワクチンもなくいわば弾の下を飛んであるった昭和40年前半の体験しか信用出来ません。家衛試がそばにあったころは正式に上がって来る500円の検体は適期を過ぎていて使い物にならず注文通りの廃鶏を内緒で持ちこんで写真をとるやら大歓迎でした。それが先年の動衛研と江口獣医の間では余禄実験を含めて大問題になりました。

『ウイルスと人間』では改めて考えさせられました。ウイルスは種の壁を越えないものと考えられて居たものがなんとコッホの三原則に当てはまるかたちがウイルスでも認められたり、反面なんでもない菌の日和見感染が抗菌剤の効かない恐ろしい形で出て来たり、私でさえこのごろは獣医微生物学と医学大辞典(医歯薬出版)を並べて置くようになりました。養鶏現場でも多くの細菌にワクチンが用いられる反面、ウイルスのほうはどんどん阿形がふえて、もはや夫れ夫れの死毒ワクチンでは対応出来なくなって来ました。一方あれだけ複雑にからんで居た子豚の疾病が初期に投与するいわゆるサーコワクチンで一掃されるなど、日本の獣医学会もT細胞による交差免疫やら一歩免疫や抗体から離れて、植物と同じように競合排除やウイルス同士の干渉など現場の実情を見ながら研究して頂きたいものとつねづね考えて居ります。

本当に興味深く読ませて頂き重ねて御礼申し上げます。 敬具

平成22年11月11日 篠原 一郎