『新コロナ 養鶏現場からの考察』

   

 昭和30年代のニューカッスル病猖獗時、不活化ワクチンは殆ど効果はなかった。役に立ったのは生ワクチンである。というのは緊急時には中和抗体の上がってくるのを待ってはいられないということである。あてになるのはウイルス同士の競合排除だけである。恐ろしい野外毒を慣れ親しんだワクチンのウイルスと置き換える、我々の言う(お山の大将)作戦だ。お山の大将われ一人、後から来るもの追い落とせ である。これはたとえ後追いの場合でもいち早く残りの細胞を占拠出来る。うまく先回り出来ればすでに症状が出ていても敵は跡形(抗体)も残さず退散する。最近発表された江戸川病院での試みもこの類いだと思う。In vitroの人達はやたら抗体を気にするが鶏の場合など幾ら抗体価を上げておいても役に立たないことが多い。いわんや変異の激しいコロナウイルスに於いておやである。当場では、ここ40年はH120株とニューカッスルのB1、アビを使っているが、この間EDS76の迷入以外は問題の起きた事実はない。

 さて人間様の新コロナである。目下世界中がワクチンの開発を渇望しているが、もう既に広く使われているインフルエンザのワクチンも本当に効果があると思っている医者はいないとテレビでも云っていたがコロナでは特にACE2受容体の遺伝子がインターフェロンによって活性化されるとされるなどと研究されてSARSの時と同じようにワクチンが返って宿主に害を及ぼすことも懸念されてワクチン開発はかなり難しそうだと思わせるふしがある。まあもともと人間には鰯の頭も信心からというプラシーボ効果も期待出来る。そんな意味でのワクチンでもないよりはあった方がいい。実際の効果はともかく早く出てきてほしいものである。

 そして世間は第2波の襲来を懸念し始めた。大正7年からのスペイン風邪では特に二度目の襲来で若い人の方がやられた。このあたりでも働き盛りの夫婦がやられて爺婆と子供が残った家が多い。その傾向は同じだろう。最初の襲来では自然免疫力の弱い年寄りが集中的にやられるが生き残った者は寧ろ若いものより強い抗体を持つ。初回を自然免疫力で事なきを得た働き盛りは二度目は自身のサイトカインストームに会いやすい。特にコロナウイルスは細胞の防御反応を悪用しているらしいと推測されているなら尚更である。

 まあ我々養鶏場の人間は年年動物実験を繰り返しているようなものであるがエビデンスなんかどこにもない。狙うのはひたすら鶏の健康と経済効果だけである。

令和 二年五月二十二日 記



昔翁ありき・鹿鳴館
農林大臣賞受賞

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